22話:狩猟大会の後2
狩猟大会でスタンピードが起きた。
しかも魔人の暗躍が確認され、倒した勇者からの報告で倒し切れたかは怪しいとも。
その報告で、御料林からの速やかな撤退が決まり、王弟の号令一過、さらなる襲撃に備えながらも迅速に陣形の組み換えが行われた。
そこに組み込まれた学生たちは、疲れて動きも鈍いながら、周囲に叱咤されながら移動。
非戦闘員と一緒に守られる形だったものの、戦いやそれに従事する者に仕える訓練などしていない生徒や教師は、言われるままただ足を動かす。
そう王都から離れていない王室御料林だったものの、俺が伯爵家の屋敷に帰り着いたのは、月が上ってからだった。
「あぁ、ローレン!」
「義母上、戻りました。父上に、報告を…………」
「いい」
玄関の外で待ってた義母上が駆け寄ってきたら、父上も玄関に現れて俺の言葉を止める。
さすがに幼い弟妹は寝室に下げられてるようだが、明かりを煌々と灯した屋敷の中には、心配顔の使用人たちも待機していた。
「ゾンケン」
「は、ご報告いたします」
「ローレンはまず休め。ひどい顔色だ」
暗くて見えるとも思えないし、戦場で周囲を見る余裕もなかった俺より、ゾンケンのほうが疲労がたまってるのは確実。
とは言え、これは父なりの気遣いだろう。
何より慣れないことが続いて、疲労がピークだ。
俺は侍従のムートに支えられるように寝支度をして、そのまま気絶するようにベッドに倒れたまではギリギリ覚えてる。
「…………え、丸一日?」
「はい、ローレンツさまがお戻りになって、丸一日が経った夜です」
俺は起きて、ムートに言われたことで窓の外の暗さを確認した。
どうやら夜に戻って日中寝て過ごし、夜に起きたらしい。
寝てる間、全く意識も浮上しなかったから、夜に帰ってちょっと転寝してたと言われたら信じそうな感覚だ。
それだけあのスタンピードの時には、俺もギリギリだったということなんだろう。
「まずは待機させている医師の診察をお受けください。それから軽食を用意しておりますので、少しでも口にしていただければ」
「あぁ、そう言われると、体が、痛い…………」
だるさもあるが、痛みも体中の内外に感じる。
ともかく魔物を相手に動き回ってたし、変に力を入れて筋肉を傷めた可能性もあった。
ただ腹が減ってる感じはしない。
というか、体中がまだ正常に動けてないようで、寝ぼけてるのとも違う思考の鈍さを自覚する。
そんな中で診察を受けて、結果は過労と脱水と言われた。
体はいくらか痛めてそうだけど、日常生活に支障はないとのことで、軽食も問題なく食べられている。
そうするとまた夜は更けてて、どうしようかを迷った。
「ムート。こんな時間だが、父上に報告はできるか?」
「騎士団長からご報告を受けられた後、書斎にこもられ、本日は慌ただしくお出かけになられておりました。その上で、まだ帰られておりません」
予想外に父は不在だった。
だが、考えてみれば狩猟大会でスタンピードの上に魔人が現れたんだ。
国の勤め人がただしくならないわけがない。
貴族としても名だたる家門が参加した狩猟大会での事件となれば、じっとしているわけもないんだろう。
「何か伝言なんかは?」
ゾンケンは狩猟大会で俺が何してたか言っただろうし、忙しいにしても俺が無罪放免なんてことはないはずだ。
「まずは謹慎ということになるとの仰せです。追って、その他の処遇は決められると。ですから、今はお休みになってください」
ムートも、俺がスタンピードで独断専行したことを聞いてるのか。
特に慰めるでもなく、きっちりお叱りの予定があることも教えてくれた。
また寝て翌朝に起きた俺は、父上もおらず、謹慎で屋敷から出られないため、屋敷の離れに滞在してる騎士団の所へ向かう。
そこでようやく騎士団の被害状況を聞いた。
さらに大まかにあの時何が起きてたか、ゾンケンからの説明も受ける。
「守勢で固まるかと思えば、適宜騎士団を入れ替え、休息を入れての長期戦の構えでしたな。その上で、魔物の群れの密集した時と、まばらになった時を見計らう読みが的確でございました」
「ゾンケンも、あの時によくそこまで見てられたな」
「はっはっは。喇叭を鳴らしての指示の音と、各騎士団の旗の動きでの推測ですがな」
俺なんかに褒められて、ゾンケンは嬉しそうに教えてくれる。
喇叭は連絡手段として、兵を動かすためにあらかじめ音で動きを指示されてるそうだ。
その上で、騎士団は旗を中心に陣を組んで所属と状態を明示する。
「あぁ、そう言えば習ったな。そういう動き…………」
「学院でですか?」
若手のメイベルトが聞くんだが、まだ入学して二ヶ月経ってないし、軍略みたいな授業はまだだ。
「いや、ゾンケンから」
「むぅ、その時に使えなければ教えた意味もないのですがな」
今思い出した俺に、俺の武術の師匠は不満らしい。
そんなことして離れにいたら、侍従のムートが呼びに来た。
「旦那さまがお戻りになられました。騎士団長も共にいらっしゃるようにとのことです」
「すぐ行く」
俺が答えて、ゾンケンも一緒に父の書斎へ向かう。
二日ぶりに会う父上は、疲労の色が濃かった。
その上、俺を見ると大きく溜め息を吐く。
これはやっぱりお説教だな。
「全く、どれだけの手回しが必要になるかを考えて行動をしなさい。やらなければならなかった状況を加味しても、やりすぎとしか言えないぞ」
「申し訳ございません」
俺は殊勝に謝罪する。
もちろんそれで許されるわけもないんだが。
それでも上から無視できないやらかしをあげて、下は省いての説教だった。
「クラレンツ公の名を騙ったと言われてもしょうがない状況。その上、下位であるにも拘らず、上位者へと命令を発した。さらにはそれらを指示も受けずに行っている。これは、場を混乱させ、状況を混迷させたと罪に問われてもおかしくないほどの暴挙だ」
「申し訳ございません」
同じ言葉を繰り返すのはさすが芸がなかったか。
父上に強く睨まれてしまった。
ここは下手な返答はせず黙っておこう。
実際やらかした自覚はあるんだ。
王家から魔人について話を聞かれるだろうユリウスに、俺の関りを口止めをするくらいには。
「罪に問われるか危ういものでも、問いただされれば言い訳のしようもないこともある。学生たちで救護を勝手に設営したこともそうだ。戦闘状態の中で、物資を本営に断りなく放出したことは、背反と指弾されてもおかしくはない」
そこはほぼ、俺が無闇に持ち込んだもんだけどな。
まぁ、だからこそ父上も、そんな個人の話はしてない。
他の学生たちも使って、本当なら供出すべきものを勝手に使用方法決めたのが罰則ポイント。
まだここは、本営から追認されたから言い逃れができる範囲だ。
だが、やらせたのも俺なら、物資は集めて分配する本営の領分を無視しての独断をしたのも俺。
父上としては、誤魔化しようはあるけど、絶対突っ込まれるぞって言うお叱りだ。
「勇者と傭兵を偵察に向かわせたのも、命令もなく行ったな。それは敵を前に逃亡するも同じ。狩猟大会とは言え、学生はそれぞれに他家へと指揮権を委譲する形で配置されている。許されたのは本営近くへの退避のみのはずだな?」
否定せずにいるとさらに続く。
「しかもそれらは全てローレンツが命じたことも、学生の間に明言したんだな?」
俺が否定しないままでいると、深々と溜め息を吐かれた。
他の学生だって加担してる。
けど押しつけられる者がいるなら押しつけるのが、保身と処世術だ。
これは今さら手回ししても、俺が主導してやらかしたってことになってるのかな。
「緊急事態である状況の、混乱を助長する動き。さらには他家の面目を潰す行動。どれも説明不足な上に、独断であるためにまずい状況だ」
「申し訳ございません」
「だが、混乱故に学生が勝手に動いたまではわかっていても、誰が中心にいたかまでは知れ渡ってはいない」
父上に言われて、知っているのはゾンケンが言ったからだと気づく。
どうやら学生たちは、俺がやったと声高に責任を押しつけることもしてないらしい。
俺がちょっと息を吐くと、父上は厳しい顔で見据えてきた。
「だが、やったからには責任があることはわかっているだろうな?」
「はい」
「では、犠牲となった学生がいることも、その責任を負う覚悟があるな?」
「…………はい」
直接は、見てない。
運良く俺が見える範囲では、大怪我だけで退いて手当を受ける学生だけだった。
だが、あれだけの状況で襲われて、誰も犠牲がいないなんて甘いことは思ってない。
「今日、王城に届けられた学生の死傷者の名簿だ。よく見ておけ」
自分がやったことを、突きつけられる。
だが、受け取った俺に向けられた父上の目には何処か気遣いがあった。
別に情がない人ではないんだ。
でも叱ってる時に甘さを見せてくれるほど優しいわけでもない。
そんな父上が気遣う理由は、手元の名簿にあることはわかる。
俺は、嫌な予感に心臓がから打ちするような違和感を覚えながら、目を落とした。
並ぶ学生の名前二十四名。
そして引き寄せられるように見慣れた名前に目が向く。
「エドガー…………」
口にすればその名前は、嫌になじむと同時に、重く舌に乗った気がした。
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