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20話:スタンピード5

 ユリウスとロイエたちを偵察に出してから、状況はめまぐるしく動き出した。

 俺たちが参集を呼びかけた貴族たちが後退してきたんだ。

 同時に学生が集まる場所に、王室の騎士が来て状況確認をする。

 そのまま救護所として動くよう指示があり、同時に救護以外の人員は全て、壕と土塁の造営を命じられた。


 勢子や従者、その他の雑用と一緒に学生も土に塗れ、防衛のための労働力になる。

 その間に騎士団は陣形を整えるため、動き回ってるから、それも土塗れになる一因だ。

 途中から穴掘りはやめて、学生は造営中に襲ってくる小型や中型の魔物の排除もする。

 もちろん学生の護衛の人員も容赦なく使われた。


「ローレンさま! 本格化したようですぞ!」


 ゾンケンに言われて、俺は目の前のアナグマの魔物の腹を撫で切り、顔を上げる。

 魔物の対処に気を取られ過ぎたようで、気づけばほぼ中型の魔物ばかりが辺りで暴れてた。

 そして狩場だった林や灌木からは、サイのような大型の魔物が姿を現している。

 車くらいの速度で走るから、今ある距離なんて簡単に縮められるだろう。


「学生は退避! ここは騎士たちの邪魔にしかならない! 造営の人員も逃げろ!」


 俺は周囲に指示を出すが、すでに上がる戦いの声で、あまり通らずに混乱する。

 というか、気づけば俺は自家の騎士団に囲まれるようにして守られてた。


 退避方向として救護所がある側の騎士たちが道を開けたから、そっちにいる学生たちは見える。

 声をかけて退避を始めると、邪魔だと近くの騎士団が作業員ともども学生に避難を呼びかけ始めた。


「待て! そっちじゃ…………! エドガー!」

「坊ちゃん! 今は退くことに専念してください!」


 俺が近くの騎士に連れられて離れていく学生を止めようとするけど、メイベルトがこの状態で動きを阻害することを止める。

 確かに右往左往すると殺気だった別の家の騎士団に排除されかねない。

 それくらい周囲はすでに緊張と興奮が高まり、殺気立ってた。


 そして、ほどなく本格的な戦闘が始まる。

 魔物たちの足は人間よりも早く、姿が見えたと思って動き出してギリギリだった。

 急き立てられるように走る魔物の氾濫は、迷いなく守りを固めた騎士団たちに突進していく。


「散らばるな! 固まって応戦しろ! 一人であたるな!」


 俺は救護所の前で漏れてくる魔物たちを相手に学生で対応するために声を張った。

 その学生がそもそも戦闘力が明らかに低い。

 騎士団や護衛はいるが、本職として陣形を敷く者たちに比べて、守りも薄く不安定だ。


「ぐ、あぁ!?」

「班長!」


 班長の上級生が、二足歩行の小鬼のような魔物に足を噛まれて体勢を崩す。

 俺は魔物を切り捨て、座り込みそうになる班長の腕を引いて無理やりにでも立たせた。


「すぐに退いて治療を! 動きが鈍いだけ、フォローに人手を取られる」

「く、すまない…………! 聞け、我が家の騎士たち! ここを抜かせるな!」


 班長は自分が退いても、連れて来た騎士には戦い続けるよう指示を出してくれる。

 その班長の向こう、救護所を俺は一度窺った。

 すでに負傷者が担ぎ込まれてるし、遠目にも緊迫した様子はうかがえる。


 俺は肩口から落ちかかる髪を背に払って、死角から狙おうというこざかしい魔物の腕を断った。


「これは、ラミアか。大型の陰から回り込む人型の魔物だと?」


 俺が切ったことで、ゾンケンが止めを刺したのは、下半身が蛇で女の顔をした魔物。

 さっきの小鬼といい、人型の魔物が回り込むような嫌な動きだ。

 守りを固められた貴族たちは、大型の魔物を相手にするだけで手いっぱい。

 その横をすり抜けた人型は、守りの薄い所を狙って、本営に近づいてる。


 人型の魔物たちは隙を見つければ容赦なく襲い、俺の視界の端で、何処かの家の騎士がさっきの班長のように小鬼に食いつかれていた。

 だが、場所が悪い、喉笛だ。


「がは!?」

「この!」


 同じ鎧を着た騎士が、小鬼を切り払う。

 だが、首をやられた騎士は倒れて動かない。


 俺はどうしようもな状況から意識を放して、ゾンケンに指示を出した。


「惜しまずポーションを使え。血が流れ過ぎると致命傷を受けるぞ」

「ローレンさまの先見の明ですな」

「いや、本当にそんなのあったらまずここに参加してないって」


 軽口を言うのは、ゾンケンの経験から来る余裕なのか。

 俺はそんな声かけられなきゃ、軽口なんて言えない。

 だが、ゾンケンのお蔭でうちの騎士団は足並みそろえ、俺を守る形で応戦し続けていられてる。


 戦って、休むために退いて、ポーションで回復してからまた戦う。

 それを繰り返す内に魔物に異変が起きた。


「これは、退いてる?」


 メイベルトが言うとおり、魔物が後退の動きを始めたようだ。

 それに何処からともなく安堵の息が漏れる。

 だが、俺は強烈な違和感を覚えた。


「ゾンケン、スタンピードの魔物が退くなんてことはありえるのか?」

「いえ、聞いたことはありません。しかし、本当に人為であるなら、あるいは…………」


 おかしな動きだが、そもそもスタンピードとしておかしい。

 そこに悲痛な声が上がる。

 見ると、仲間の首に嚙みついた小鬼を倒してた騎士が、剣を振ってた。


「この! やめろ! そいつを連れて行って餌にでもするつもりか!?」

「やめろ! お前まで死ぬつもりか!? 持ち場に戻れ!」


 喉をやられて斃れた仲間の死体を、魔物が引き摺って退こうとしてる。

 それを止めようとするのを、他の騎士がさらに止めてた。


「死体を、利用する?」


 呟いて、うろ覚えのゲームのシナリオが思い浮かぶ。

 それは中盤の敵の台詞であり、国を二分して争い滅ぼうとする国で、内戦が起きた理由だった。


 魔王配下の魔人は、戦争を起こしたいために、要人の息子を暗殺する。

 そしてその死体をアンデッドの魔物にして操ることで、死に戻った息子を受け入れた要人の一家を、魔物を擁する異端者として排除したのだ。

 そうして国の機構を弱らせるとともに、人情による相容れない溝を作って内戦状態に陥れた。

 それを暴露した決戦の時に、アンデッド系の魔物によるスタンピードを起こすというイベントがある。

 それができる魔人は、もちろん数年かけて国に内戦をもたらしており、今も健在のはず。


「死体を、死体を持って行かせるな! 相手は人型の知能の高い魔物だ! ただ餌にする以外に利用される可能性がある!」


 俺の指示に、ゾンケンたちはすぐ応じるが、他からは困惑の目が返るだけ。

 推測だけじゃだめだ。

 もう救えない相手を取り戻すよりも、疲労と命の危機に瀕した自分と仲間のほうが大事だから。


 すでに亡くなった者より、命ある者を選ぶのは間違いじゃない。

 それは正しい。

 だが、それだけで済ますのはおかしいだろう。


「死んだら終わり、価値がないなんて、そんなわけないだろ」


 俺は歯噛みしながら、自分に考えろと強要する。

 ここで人を動かすにはどうするべきか。

 声なき死者に対して心を向けさえるには、何を揺さぶるべきか。


 そう考えて、さっき思い出したゲームのシナリオが浮かぶ。

 死んだと思って帰って来た家族は、それが魔物化していても受け入れて匿った。

 そして断罪されてしまった他国の要人は、優秀だからこそ排除された人物。

 なのに、家族のために間違いを犯した。


「家族だ。その遺体も誰かの家族だ! 今日この場で魔物の餌になるために来たんじゃない! こんな別れもできない状況で、帰っても来ないなんて報告、誰がするんだ!」


 言ってる間に、ゾンケンたちが逃げる体勢の魔物を、幾分楽に倒して遺体を奪還する。

 遺体を返された同じ鎧を着た騎士たちは頷き合って、同じように遺体を引き摺る魔物たちを追い始めた。


 そこに、俺の肩を叩く者が現れる。

 見ればポーションで傷を治しただろう班長がいた。


「何を恐れる必要がある? 後退する今なら楽に倒せるだろう! 死したとて、同じく戦場に立つ仲間を見捨てるのが騎士か!?」


 言って、自分の家の騎士たちにも死体の奪還を命じる。

 それを見て、他の騎士たちもいくらか動き出した。


 確実に俺が言ったことは、軍事行動中には褒められた判断じゃない。

 それをわかっているから俺が目を瞠ると、班長は笑って見せた。


「学生に従う騎士が、騎士道に従うなら、保身で悖る行動ができないのがまた騎士だ」

「ありがとうございます、俺の適当な指示を拾ってくれて」

「いや、今回君は何やら神がかっている。去年の狩猟大会でも、勢いに乗って全ての判断が好転する者がいた。そういう星の巡りなんだろう」


 なんだか占いのような理由だが、それでも乗ってくれたのはありがたい。

 俺は班長に倣って、騎士道精神を刺激するよう言葉を変えて声をあげた。


隔日更新

次回:狩猟大会の後1

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― 新着の感想 ―
魔物の裏(というか上)に頭脳プレーをさせられる存在がいると核心していなければ出来ない判断ですが、班長(目上の人)が意を汲んでくれる状況、有り難いですね。 不遇皇子の方でも書きましたが、今年も沢山良い…
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