17話:スタンピード2
俺は王弟の庇護に入るように見せかけて、それを理由に学生と共に教師も指揮下に置いた。
さらには、その護衛でいる騎士などの人員にも従ってもらう。
「班長の下で自衛のために戦ってくれ。その上で、応急手当の心得がある者、それと馬術の腕に自信がある者は出てくれ」
俺は学生たちに指示を出した上で、ユリウスには個別に指示を出す。
「ユリウス、紋章の力かもしれないが、スタンピードの予兆が見えるようだ。全体をよく見て、異変があれば対応してほしい」
「そうだね、他の人に見えないなら、一番早く気づけるのは、俺だろうし」
あまり戦い慣れてもいないユリウスに頼るのは、正直心苦しい。
そう思ってたら、エドガーがあえて気楽に声をかけてくれた。
「だったら、ロイエたちはユリウスの補助に回ってもらおう。スタンピードの経験者がいたほうがいいだろ。そもそも俺は腕もそんなにないから、他と一緒に自衛だ。ここ落とされたらもう誰も助かりゃしないだろうしな」
ロイエが何か言おうとするのは、契約上雇い主を守るのが第一だからだろう。
そこら辺をエドガーも汲んで、ユリウスの補助も守ることに通じると言葉にする。
そうして人員を出し合い、応急手当の心得がある者には、集めた物資を使い、誰であっても救護するよう指示した。
後のことを考えて、数人記録係も選出し、数が減りすぎた班は再編する。
「坊ちゃん、本営より騎馬が出ました」
メイベルトに言われて、俺は指示をいったん止めて確認した。
「何機出た? 方向は?」
行く先を確認してから、集めた馬術が得意な者たちに急いで指示を出す。
「これから、各家が狩猟を行う場所へと走ってもらう。その上で、本営を中心に守りを固めるよう陣形を成せと伝えてほしい」
緊張の面持ちで聞く学生たちには、新入生に指示されてるなんて考えはない。
何故なら俺は、王弟に許可されたということしか伝えてない。
何に対してとも、何処までとも言わず、勝手に動いているが、判断を曖昧にする危機的状況から、学生でも王弟が使うこともあると思わせている。
つまるところ、嘘、大袈裟、紛らわしい言動をしてるんだ、俺は。
「学生の服装で敵対者とは思われないだろう。だが、ことを円滑に運ぶためにまず、本営のほうから来たことや、王弟殿下の許可があって活動していることを告げるように」
うん、これはもはや詐欺の手口だ。
だがそうしないと学生の話なんて聞かないし、命令系統もあるから従わない。
もっと言えば家同士の確執や対抗意識もあって、獲物である魔物から後退しろなんて受け入れる可能性は低いと思ったんだ。
そこら辺をどうにかできるのは、今は本営として指揮系統のトップである王弟のみ。
不敬だとか罪になるとかあるけど、利用できるならする。
そうしないと、この状況をスタンピードと疑ってさえいない可能性もある貴族たちは動かない。
「俺も行く」
「ローレンさま」
ゾンケンが止めるように呼ぶのは、馬術が得意な人員は、魔物がいる所へ向かうからだ。
つまりそれだけ危険ってことだが、だからこそ俺も退けない。
「他人任せにもできないだろ」
「しかし、いえ、であるならば名乗ることをなさいませ」
俺が指示したのは学生という名目に、王弟の名前を騙って、家々の立場を隠すようなやり方だ
しかし命を危険にさらすなら名乗れってのは、騎士道的な考えなのか?
なんにしても俺には不要だ。
「功なら後から立てられる。今は助かるため、助けるために注力する」
言ってゾンケンを退けると、学生たちに見られてた。
巻き込む相手に、名乗りもせず褒められもせずは、さすがに甲斐がなさすぎるな。
その上で危険な場所に走れなんて、駄目すぎるよな。
「聞く耳を持たない者には伝えるだけでいい。一番は自らの安全を考えてくれ。伝達を終えたらすぐに戻るように。その場で問答しそうになるなら、本営に来いと言ってくれ」
安全第一を伝えると応じてくれた。
その上で、行く先を指示して回る間も、特に俺の指示への不満は聞こえない。
さらにはイジドラ嬢にも協力を求めた。
一緒に王弟の許可を取ったという体裁のため、俺がいなくなるとイジドラ嬢が王弟の許可を受けた人物ということになる。
「ローレンツどの、指揮権を奪うような真似はできない」
「申し訳ないが、今はふりでも、学生たちの士気を保つためにはやってもらいたい。のちに責められるのならば、その時は私の独断であると言っていただいてかまわないから」
そうすれば俺以外は騙された側になる。
騙されたことを責められることはあっても、軍法に悖ると罰されるようなことはない。
「いや、その時には私も罰を受けるとも。それに、間違っているとも思えない。本当にこれが人為的なことであるなら、本営の周辺が手薄な今、狙って起こしているはずだ」
イジドラ嬢が言うとおり、散開した後に起きたスタンピードだ。
だったら相手の狙いを外すためにも、散った騎士団を集める必要は認めてくれた。
その上で、刺客を差し込むには、本営もまだ状況判断ができてない今しかない。
騎馬が出て状況確認の段階であることは察せられる。
そこに後から、学生とは言え守りと参集の指示があれば、どう動くか。
状況が変わったのだろうと、先に走らされた正式な使者と同じ方向から来た者に対して警戒しない状況を、利用しない手はない。
「それでは、私も参ります」
「あぁ、どうか気をつけて」
イジドラ嬢に任せて、俺も馬を駆って伝令に走る。
家の騎士団はもの言いたげだったが、俺についてこれる者はいないから見送った。
走り出した学生の騎馬隊はすぐに散開して、それぞれ単騎となって駆ける。
「うぉ、中型の魔物が漏れて来てるな」
俺は馬を操って魔物を飛び越え、鋭い爪を回避する。
怯えず走れる軍馬も、本営近くから拝借したもの。
どう考えても怒られるし、学生だからって理由が何処まで通じるもんかな。
「…………そんな心配も、生き残れたらだ」
俺は魔物を避けて馬を走らせ、戦う騎士団の元へ向かった。
本営からと言って、責任者へと守りのために参集を呼びかける。
所属だとか、指令系統を確認されそうになると、他にも伝える必要があるからと逃げた。
本営から出た本物の伝令の後を追う形で走ってるから、向かう先には確かに騎士団がいる。
ただそうなると、必然的に魔物と戦う場へと近づくことになった。
「く、やっぱり大型が出てるな!」
次に回った先の騎士団は話を聞けないくらいに混戦状態だ。
相手はベアで、黒熊とは違い青い毛皮をもってる。
中盤に出てくる特殊攻撃持ちの魔物だ。
騎士団が囲んでいるから倒せるが、青熊は一体じゃない。
複数のベア以外にも蝙蝠型の魔物がいるのが見える。
これがまた大型で一体でも厄介な魔物なのはゲームで知っていた。
そうなると中型の問題なく倒せていた魔物も邪魔になり、騎士団の疲労は格段に上がる。
「ともかく守りを固めるために後退を!」
俺は呼びかけて、その伝達が始まるのを見てから離脱した。
俺がいても邪魔にしかならないし、そもそも中型を単身相手にできる技量もない。
だが、このままじゃじり貧だ。
魔物は減らないどころか増える気配しかない。
守りを固めてもどれだけ凌げるか、正直不安がよぎる。
今みたいに、家ごとに各個撃破よりはましな状況にはなるはずだが。
これがゲームでもあった、魔人の起こしたスタンピードなら、凌ぐだけじゃ済まない。
「イベントだとしたら勇者が動かないと、フラグは立たないだろうしなぁ」
ゲームのように、魔人撤退でスタンピード終結を狙うのが一番だ。
だがそのためにはユリウスに頑張ってもらわないといけない。
一応動くようには言ったし、エドガーも気を回してロイエをつけてくれた。
けど、本営のほうで魔人を捜すような動きはないし、待ってるだけじゃ消耗する。
「何か、ユリウスを動かす理由がいる。魔人を見つけられたら早いが、本営から見える所になんて姿現さないだろうし。動かす理由を作るために、情報がほしい。…………情報? そうか!」
俺は呼びかける騎士団の元へ向かいながら、声をあげた。
魔物を避け、馬に無理強いをせず走り続けるよう動かしながら、考えをまとめる。
「魔人捜せとは言えないから、群れの規模を測らせる。そうすればスタンピードかどうかも確定する。一人では行かせられないから、ロイエもいるならちょうどいい」
威力偵察ってやつだ。
それでユリウスに動いてもらって、魔人と戦ってもらう。
そう考えて、胸が痛む。
純朴な、まだゲームも始まってない、勇者じゃないユリウスに、戦えということに。
そう思うなら俺もと言えればいいが、力が足りない。
足を引っ張るだけでついて行っても自己満足とわかってるからこそ苦い思いで馬を走らせた。
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