婚約破棄を他の国の人間が見たらどうなるか
「アーデルグンデ・フォン・ハイデルベルグ!本日をもって貴様との婚約を破棄する!」
その発言で会場が静まり返る。
今日は隣国にある王立ギュムナーズィウム学園の卒業式が執り行われ、今は卒業パーティーが催されている最中だった。
しかし、この発言の主ーーアウグスティン・フリードリヒ・フォン・ガリアラント王太子殿下は、列席している国王陛下、王妃殿下ならびに、来賓の方々の許可を得て先の発言に至った。
因みにこの蛮行ーーこんな事を言ったら不敬罪になるのかもしれないが、私は蛮行だと言わせてもらうーーに対し唖然とした表情をしている。
そして、殿下の婚約者アーデルグンデ嬢は真っ青な顔をしている。
「な、何を……殿下……?」
「フン!貴様の様な悪女が婚約者だったとは、我が人生の汚点……いや、我が国の汚点だ!」
「そうですね。何故殿下の婚約者がこんな方なのでしょうか」
「まあ、許嫁だから今まで付き合ってあげていたのでしょう。殿下はお優しいですから」
暴言を吐く殿下の側に侍っていた宰相の息子と騎士団長の息子まで参戦してきた。
というか、アーデルグンデ嬢は何故婚約を破棄されようとしているのだ?
同じ思いだったのか、彼女も口を開いた。
「何故ですか!何故婚約破棄など……!」
「……これほどまで愚かだったとはな!
貴様は私の婚約者であることをいいことに、マルガリータに嫌がらせをしていたのであろう!」
「そうです。貴女に嫌がらせをされたとマルガリータが言っていたのですよ」
「それと、貴女に壊された物品、切り裂かれた服などもこちらが確保しています。言い逃れはできませんよ」
いや、待て待て待て!アーデルグンデ嬢は未来の国母となるべく教育を受けていて、そんな学生間のいじめや嫌がらせに割く時間なんか無いはずだか!?
こんな事、王国民じゃない俺でも知ってるぞ!
……いかんいかん。あまりの衝撃に言葉が乱れてしまった。
「わたくしはそのような事、しておりません!」
「まだ白を切るか!……まあ良い。貴様の罪を追及するのは後だ。
パーティーに参加の諸君!そしてご来賓の皆様方!本日をもって、私ーーアウグスティン・フリードリヒ・フォン・ガリアラントとマルガリータとの婚約をここに宣言いたします!」
O czym ty w ogóle mówisz!? Czy masz w ogóle mózg w głowie!?
いかんいかん。あまりの衝撃(2回目)で思わず母国語が出てしまった。
王太子殿下の声と同時に、彼の後ろからおずおずと一人の少女が出てきた。彼女が件のマルガリータ嬢なのだろう。
赤髪で可愛いといった外見の少女だ。
綺麗な金髪で、どちらかと言うと可愛いより美しいといった外見のアーデルグンデ嬢とは違うな。
それよりもアーデルグンデ嬢は公爵家。そして王太子との婚約であれば、国と公爵家との契約になるのだから一個人の感情で破棄や締結はできないはずだが。
我が国と違い、王国では王族の婚約破棄などは簡単にできるのであろうか?
「…………」
「…………」
あ、違うわこれ。国王陛下も王妃殿下も苦虫を噛み潰したような顔になっている。
ある国の支援を受けて、工業力や生産力が上がって国が豊かになっても、そこまでの改革はできていないはずだ。
「よろしいですね、父上!」
フンス!と自信満々にそう言う王太子殿下。
蕩けたような顔ーーいや、デレデレとした顔でマルガリータ嬢を見る宰相と騎士団長の息子たち。
対して、怒りを堪えているのかプルプルとしている国王陛下。
……血圧あがりますよ?
「お前は一体何を言っておるのだ!だいいち……「失礼」……!」
流石の国王陛下も我慢の限界が来たのか、怒鳴りつけようとした瞬間に来賓席から声が上がった。
あれは、王国ばかりか我が国も支援をしてもらい、大恩ある国の使節団だ。
「先ほどから聞いていましたが、国王陛下。貴国は何の証拠も無いのに一人の罪のない女性を衆人環視のもと問い詰め、追い詰めるような国なのですかな?」
「いや、それは……!」
国王陛下がたじたじになる。
それはそうだ。あの国に睨まれたら自国が消えてなくなる。
支援してもらっていることは元より、軍事力も桁違いなのだ。
しかもあの国は名誉を重んじ、犯罪を取り締まるのも細心の注意で行うと聞く。
ここで王太子殿下がその使節殿にも噛み付いた。
「他国の方は黙っていただきたい!これは我が国の問題です!第一、証言は取れていると言ったはずです!」
「証言というのは?まさか、そこのお嬢さんの言った言葉ではありませんよね?」
まさか、そんな……。流石にそんな事はないだろう。
「ええ、そうですよ。一番の被害者であるマルガリータの証言以外に何を信用しろと?」
うわ……そんな事があったわ。えー……マジか……
使節殿は呆れ返ったような雰囲気で言葉を続ける。
「王太子殿下。貴方が仰っているのは、暴行犯が『何もやってない』と証言したのを鵜呑みにして、無罪にすることと同じことですよ」
「マルガリータが嘘を言っていると?」
「その可能性もある……と言うことです。
嘘の証言をしているかもしれない。物を壊され、服を切り裂かれたのも自分がやったのかもしれない。
第三者の証言や物的証拠は無いのですか?」
「それは大丈夫です。少なくとも私は宰相の息子。人の見る目はあります。それは殿下も同じでしょう。
それより、さすがに他国の貴族とは言え、無礼なのでは?」
宰相の息子がそう言うが、使節殿は何処吹く風だ。
それよりも……
「ああ、勘違いをしているようですが、私は貴族ではありませんよ」
そう言った瞬間、殿下たちが蔑んだような顔になる。
「なるほど。貴様は平民なのだな。ならば頭が高い。控えろ!」
「偉そうに吠えていると思ったら下賤の輩でしたか。まあ、碌な教育も受けていないでしょうからね」
「貴様!平民の分際で殿下に楯突くなど!」
いやー……仮にも政治の中枢にいながら使節殿の国のことを知らないとか、どんだけ……
彼らの国は貴族制度を廃止したと聞く。
つまり『貴族がいない国』ではなく『貴族がいらない国』なのだ。
……なんか一周回って楽しくなってきたな。
王国の貴族たちは王太子殿下たちの発言に唖然としているが、他国の来賓はメシウマ━ヽ(^Д^)ノ━!!!!!!とばかりにワインを飲みチーズを食べている。
あ!あのワイン、使節殿の国からの輸入品じゃねーか!あの国の酒や食べ物は恐ろしく美味いんだよなぁ……
「次期国王がこれですか……
国王陛下。残念ながら我が国との友好関係もこれまでですな」
「……それはどう言う……?」
「公平であるべき王族なのに、正式な裁判もなく私刑にはしる王位継承者。
そして、それを止めようとしない家臣。近い未来に彼らが政治の実権を握るのに、友好関係を維持できるとお思いで?」
「いや……それは……」
「王太子殿下だけではなく、国王陛下にまでそのような暴言!もう我慢ならん!斬り捨ててくれる!」
あ!騎士団長の息子が剣を取り出した!
これはヤバいんじゃないのか!?
対して使節殿の護衛も棒のような物を取り出して構えているぅ!!
あ、このチェダーチーズ美味いっすねぇ!!
「この愚か者が!!」
おっとぉ!父親である騎士団長が乱入だぁ!!
息子の顔面に衝撃の一撃!息子は吹っ飛んた!
イケメンで騒がれたのうき……息子も鼻血を吹き出してイケメン(笑)になってしまった!
m9。゜(゜^Д^゜)゜。プギャーッハハハヒャヒャヒャヒャ
あ、いやいやいいんすよ。俺って貴族とは名ばかりの成金なんでwww
ん?使節殿が部下と思しき男性と話してるな。
「現時刻をもって王国との友好関係は終了。王国内の工場及び、商店は即閉鎖。閉鎖が終わり次第撤収」
「了解」
……これマジで王国終わったんじゃねぇの?
あれ本気で撤収するつもりだぞ。
そういや、敵対した国の騎士と話したことあるけど、『あの国とは絶対に敵対するな。俺はもう戦いたくないし、もし今後戦えと命令されたら騎士であることも捨てて逃げる。と言うか死んだ方がマシ』って言ってたっけな。
「お待ちくだされ!使節殿!」
国王陛下が慌てて縋り付くように叫ぶが、使節団のお歴々は荷物を纏め、帰国のためにすたすたと扉に向かう。
自身の父親のその姿に王太子殿下は唖然としているが、同じ状況になるとうちの国の国王陛下も同じ事をするだろう。
と、不意に使節殿が足を止めた。
「あ、そうそう。最後の情けでお教えしますが、そこの……マルガリータさん?はラングレーオ帝国のスパイですよ」
「「「「「「は……?」」」」」」
使節殿の本日一番の衝撃発言にこの場にいる全員が固まる。
そして、使節殿が去り、扉が閉じる音で再起動を果たした。
国王陛下が叫ぶ。
「お待ちくだされ!日本国使節殿!!」
・その後の三馬鹿
この後三馬鹿とマルガリータ嬢は断頭台の露と消えました。
まあ、スパイを国母にしようと画策した挙句、支援してくれてた国(その国がないと王国が立ち行かない所まで来ている)との友好関係を終了させ、さらにそれに伴う国内の乱れを引き起こした三人と、スパイ本人だからね。是非もないよね!
・その後のアーデルグンデ嬢
この事があり、嫁ぎ先が無くなるかと思われたが、あの時唯一味方になってくれた(いや、私は常識を説いただけですが……:使節殿談)件の使節殿(御年40歳・独身)にガチ惚れしてしまい、日本まで追いかけてくることに。
恋する乙女はアグレッシブなのですわ!年の差?使節様は20歳くらいでは?え、40歳?貴族は年の差夫婦なんて常識ですの!
・その後の国王陛下
この件があって国民からの支持率はだだ下がり。ただ、自分の息子がしでかしたことだから批判も受け入れている。
・その後の王国
『元』王太子が処刑されたため、弟が立太子する予定。弟は兄と違って優秀であり、父と共に日本と再度友好関係を築く賢王になっていくのであった。
・その後の使節殿
とりあえず爆発す……るのはかわいそうだから、とりあえず踝だけ爆発しねぇかな。