バリアと拘束
ーー山のふもと。そこには、全国から集まった若者たちの姿があった。
制服姿の高校生、ボサボサ頭の大学生、大きなリュックを背負ったフリーター。
みんな汗だくになりながら山道を登り、ようやくたどりついたその先には――
**なにも見えない“壁”**が立ちはだかっていた。
「……え? なにこれ……空気にぶつかった?」
「ちょ、まじで入れない……?」
「お願いです! “さち”の人、聞こえてますか!? 僕たち、ここで生きたいんです!!」
「どうか……どうか、中に入れてください!!」
誰かが手を伸ばした瞬間、パシンッという音と共に目には見えない何かに跳ね返された。
バリア――それは、サチとカイトが作り出した“防衛の壁”。
音は通すが、物理的には誰ひとりとして中に入ることができない。
バリアの内側では――
サチは、小さな山小屋のテラスに立ち、外をじっと見つめていた。
遠くから聞こえる叫び声。手を伸ばす若者たち。目をこする子、地面に座りこむ子……。
「……カイト。外の子たち、泣いてるよ」
サチの声は小さく震えていた。
隣でバリアの監視装置をチェックしていたカイトは、表情をかたくしながら答えた。
「……うん、見えてる。でも、今は開けられない。これは僕たちの理想を守るための壁だ」
サチはカイトの顔を見つめた。
「でも、私たち、こんなことがしたかったんだっけ……?
“国を作った”って言っても、その国に入れない人がいて、泣いてて……。
これじゃまるで、私たちが未来を閉じてるみたいじゃない……?」
カイトはしばらく黙っていた。
けれど、その目には葛藤がにじんでいた。
「サチ……僕たちがこのバリアを作ったのは、“戦わないため”だった。でも、守ることと、閉ざすこと……それは、同じじゃないよな……」
この出来事は、あっという間にニュースやSNSで広まった。
《速報》:「若者、山に集結。だが透明バリアに阻まれる」
《トレンド》:#さち国入国できず #バリアの壁 #さちが泣いてる
《コメント欄》:
「うちの娘も行った……帰ってこないって言ってる」
「やばい……さちの国、もう“新しい国”じゃなくて“希望の国”って呼ばれてる」
「政府より信じられるとか言う高校生多すぎて草」
「でも入れないのは切なすぎる」
「……さち、どうするんだろう」
「守るためのバリアが、人を傷つけてるって……皮肉だな」
一方、テレビでは専門家が頭をかかえていた。
「これはもう、国際問題になりかねません。若者たちが“亡命”のような行動をとっているのは前代未聞です」
「でも逆に言えば、それだけこの国に“失望”してるということじゃないでしょうか?」
「問題なのは、サチのバリアじゃなく、サンブックの現実そのものかもしれませんね……」
夜。外の騒ぎが少し落ち着いたころ。ロボたちは静かにメンテナンス中。ふたりは焚き火の前に座っていた。
「カイト、あの子たちの顔……すごくまっすぐだったね」
「ああ、まるで昔の僕たちみたいだった」
「だったらさ。今度は、私たちが“次のドア”を作る番じゃない?」
サチの言葉に、カイトはしばらく目を閉じて考えた。そして、ゆっくりとうなずいた。
「わかった。誰でも彼でも受け入れるわけにはいかないけど、本気でこの国を信じてくれる人なら……道は開けるって」
焚き火の火がパチパチと音を立て、星空の下、ふたりの心はまた一歩前に進もうとしていた。




