開発ロボとサチの田んぼ
翌朝、まだ朝日が木々のあいだから差しこむ時間――山の中に、なにやらにぎやかな声が響いていた。
「うおーい! 《クワロボ1号》、もっと左ーっ! 違う! それ、右だってば! そっちは崖だよ! 止まって止まってー!!」
サチが大声で叫ぶと、ガッタン、ガタガタッと音を立てて、ガニ股のような足のロボットがぎこちなくストップした。
「……ブイ。す、すみません、サチさま。左と右の判断力、まだアップデートされておりません……ブイ……」
「もう! カイトー! この子、右と左わかってないってー!」
ロボットの名前は《クワロボ1号》。田んぼを耕すために作られた、小さなショベル付きのロボットだった。
頭の上には、なぜか麦わら帽子がちょこんと乗っている。
顔はというと……ボタンみたいな目がふたつ、へんに離れていて、にんまりとしたゆるい笑顔が常に浮かんでいた。
「わかってるってば。クワロボ1号は、まだベータ版だからなー。地面のかたさとか角度も学習中だし」
カイトはトラックの荷台に座って、ノートパソコンをカタカタいじっていた。後ろでは他のロボットたちも、それぞれの仕事をがんばっていた。
「ヨイショ、ヨイショ。石、重い~」
「……ボク、いま、木を引っぱってまーす!」
「ドリル、全開モード! 池、掘りまーす!」
それぞれのロボットには役割がある。
木を運ぶ《キャリロボ3号》、池を掘る《ドリルロボ2号》、落ち葉を集める《ハキハキ4号》……どれもカイトの自作で、どことなく愛嬌がある顔つきをしていた。
「カイト、さっきから思ってたけどさ……なんでロボットの顔、全部あんなにブサカワなの?」
サチはクワロボの顔を見て、ちょっと笑った。
まるで「しもぶくれの犬」みたいなゆるさだった。
「ふふん、味だよ味。ほら、無表情なロボットより、見てて楽しいだろ? 機械にも愛嬌が必要だって、研究所時代からの信念なんだよ」
「……まあ、たしかに。怒る気になれないし。むしろかわいい……かも?」
「ブイ! ありがとうございます、サチさま。もっとほめてください、モチベーションが上がります……ブイ!」
「ほんとに!? ロボットなのにモチベーションあるの!? ってか、それで上がるの!?」
「はい。感情エミュレーションモジュール、搭載済みです。ほめられると、少しだけ動きが速くなります……たぶん」
サチは思わず吹き出した。
「よーし、それじゃあみんな、がんばって! 今日中に田んぼを一区画、完成させるよー!」
「了解です! 隊長サチさま、ばんざーい!」
「クワクワ、クワでゴー!」
「ドリル、さらに回転率アップしまーす!」
山奥の谷間に、ロボットたちの元気な声とサチの笑い声がこだました。
田んぼの土はまだデコボコだったけれど――未来への第一歩が、着実に踏み出されていた。




