未来への希望
サチとカイトは、夕焼け色に染まった空を見上げながら、山のてっぺんにある木造の家のウッドデッキに座っていた。
家の裏には、若者たちが作ったソーラーパネルが太陽の名残りの光を受けて、静かにきらめいている。
「ねえ、カイト。こんなに人が増えるなんて、思ってもみなかったわね」
サチは、湯気の立つマグカップを両手で包みながら、小さく微笑んだ。
「ほんとだな。最初は、ただの山小屋と2人きりだったのにな。今じゃ、立派な“国民”がいる国だ」
カイトはコーヒーを一口飲みながら、目の前の風景を見渡した。
眼下には、整備された畑、ドーム型の温室、木造の学び舎、小さな風車の群れ。
夜になると、そこに人々の笑い声とランタンの光がともり、まるで星が地上に落ちてきたように輝いていた。
若者たちの“いま”
町の広場では今も若者たちの声が響いていた。
「今週の“自由学校”はさ、料理とドローンの操作をやるって!」
「マジ? 俺、ドローンで配達の仕事やってみたい!」
「じゃあさ、次は“自分で作る法律講座”とかどう?」
広場に設置された掲示板には、若者たちが自分で企画した授業のチラシがぎっしり貼られている。
「夢の叶え方」「失敗の楽しみ方」「恋愛の自由講座」「マンガ制作実践」など、どこかふざけてるようで本気の内容ばかりだった。
SNSでは、外の世界の若者たちがその様子にざわめいていた。
「さち国、なんかワクワクする」
「失敗OKって言われたら、チャレンジしてみたくなるよな」
「親も学校もウルサイけど、ここは違う。自分で決められる感じ」
「“国を遊び場にしてる”って最高の発想じゃん!」
「次の夏、絶対行ってみる。いや、もう住みたい」
国の中では、失敗もたくさんあった。水路が決壊して畑が水びたしになったり、ルールがあいまいでトラブルが起きたり。だけど、サチもカイトも怒らなかった。
「いいじゃん、それも経験。そこから学べばいいんだから」
それが、この国のモットーだった。
サチとカイトの思い
風がゆっくりと通りすぎて、サチの長い髪がふわりと揺れた。
「……ねえ、カイト。わたし、時々こわくなるの。これが本当に正しいのか、自信がなくなるときがあるの」
カイトは少し驚いた顔をしてから、優しく笑った。
「いいんだよ。正しいかどうかなんて、誰にもわからない。でも、“これがいい”って信じてることを続けるのが、たぶん一番強いんだ」
サチは黙ってカイトの横顔を見つめた。あの頃――まだ二人で山を切り開いていたころ――カイトが一番最初に言ってくれた言葉を思い出す。
「希望がないなら、自分で作ればいいじゃん」
それは、今でも変わらないこの国の精神だった。
「地底の生き残り」に続く