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真守 葉摘が微笑む時

たまご探偵物語 〜 三日月島の黄金郷伝説 〜

作者: モモル24号


 太平洋のとある場所には三日月島と呼ばれる島が浮かんでいる。大きさは日本の佐渡ヶ島くらいはあるようだ。この島の近海にはアメリカの空軍も海軍も、日本の自衛隊の潜水艦も近づかない特別な海域がある。


 その海域には金星に住んでいたと言われる金魚人が移り住んでいたためだ。遥かな太古より、金星の厳しい環境から逃れて来た人々が暮らす島。地球はもともと金星人の避暑地だと言われていた名残りなのか、謎多き海域がそこにあるという。


 アメリカ軍すら謎の海域を避けて近寄らないのには理由がある。金魚人の住む三日月型の島に、特殊な磁場が発生しているせいだろう。近づき過ぎると磁場のもたらす結界により、金魚の金の糞にされてしまうという。海域の周辺に沈む金塊は警告を無視した欲深いもの達の成れの果てといわれていた。


 ⋯⋯まさに現代にまで残る黄金郷だ。何人もの探検家、研究チーム、軍が密かに調査に乗り込んだが、誰一人帰って来るものはいなかった。


 金の匂いを嗅ぎつけて、最近では三日月島にロシアや中国の船まで遠征してやって来るようになった。近づける限界まで接近して来る海軍達。戦闘態勢を築きながら、特殊な防護幕を幾重にも施した海中用ドローンを用い侵入を試みる。最新機密兵器を投入しても突破は容易ではないと言うのが各国が至った見解だ。


 それでも黄金を求めて止まない軍事国家の思惑により、いつしか三日月島は、金魚人の黄金を巡る争奪戦へと変わっていった。



 ⋯⋯しがないたまごの漁師のおいらも、出資者のお嬢に黄金の三日月島の調査を命じられて、海上をプカプカ漂っていた。たまごの漁師じゃなくて、漁師のたまごの間違いではないかって?


 おいおい、こちとら生粋のたまご漁師ではないのだぜ。漁師としては半熟どころか未熟だと言いたいのかね。フッ‥‥キミ達は青いな。おしりにたまごの殻をつけたひよこのように、愛でてやろうかね。


 たまごの漁師はたまごの殻を被った仮の姿。中身はたまごの探偵なのだよ。たまごの探偵は、たまごの料理のように変幻自在なのだよ。白身を泡立てメレンゲを作る時のように、白波の泡にだって塗れてみせるさ。


 お嬢の話では、お金持ち(バブリー)な連中の間でも、誰が最初に黄金郷の謎を解き明かすのか競争になっているらしいな。支援は表向きの話だけ。あわよくば成果をお嬢から掠め取る気でいるのだろうよ。


 まったく⋯⋯軍事国家の連中や、セレブな連中ときたら、異星人よりも質が悪い。腐ったたまごより臭いぜ。


 そしてお嬢はたまご使いが荒い。たまごだけにおいらのハードボイルドな魂を見せたいものだが、今は鮫の大群に囲まれてそれどころではない。ヤメロ、鮫達よ。たまごとフカヒレのスープになりたくはないだろう。


 だいたいお金持ちが揃っているのならば、 たまごの殻の船よりも、サルベージに向いた船があったはずだろうに。


 もっとも強引なサルベージをすると、金魚人が怒ってしまう。島から大挙して押し寄せて来て、欲深い船を沈めてしまうのだ。


 アメリカ軍は空母から戦闘機を発進させてみたが⋯⋯空から音速を超えて海域へ侵入した途端、黒い雷雲に包まれた。そして見えない鋼鉄の壁にぶつかったようにひしゃげて爆発──墜落した。


 各国の軍も工作員もお金持ち達にも手が出ない魔境の海域。まったくもってお嬢の要求は厳しいものだよ。たまごだけに辛くともマイルドな味わいになるんだぜ。



 ⋯⋯だが、嘆いてばかりはいられないな。依頼は受けてしまったのだから。準備と称してリゾートホテルで既に豪遊してしまった後なのだ。そこで私⋯⋯おいらは考えた。秘密兵器を用意したのさ。老舗和菓子店三日月堂、新作の和菓子『秋桜(コスモス)』 だ。薩摩芋を使って作られた、コスモスの花を(いろど)るような芋羊羮。



 ────秘密兵器が和菓子だなんて、何の役に立つのかって?



 チッチッチッ、甘いよキミ達は。砂糖を入れ過ぎた卵焼きのようだよ。おいらは甘いふわふわたまご焼きより、出汁巻き派だがな。


 だいたい相手は人の姿をした金星人──金魚人なのを忘れていやしないかね。あの手この手で上陸する必要も、戦ってまで強引に入る必要もないのだ。


 手土産を持って、彼らの方から来てもらえば良いのだよ。


 ────見なさい、この食いつき具合を。まさに入れ食いさ。


 用意した和菓子の数は限られている。なんせ季節限定品だ。いつでも手に入るとは限らない逸品なのだぞ。調査費用を使い込んだせいではないと、深読みするキミ達に告げておこう。



 ────さあ金魚人諸君。極上の和菓子が食べたいのならわかっているね?

 

「────獲ったどぉ〜〜!!!」


 ‥‥流石は金星からやって来ただけの事はある。たまごには目もくれないが、練った芋には目がないようだ。我先にと抱えられるだけの黄金の糞を持って泳いで来た。


 泳ぎが達者だからなのか、金魚の黄金の糞だからなのか、あの大きさ⋯⋯かなり重たいはずなのだがな。



 そろそろ謎を解かないで何をしに来たんだと、お嬢以外の口うるさい連中がにわとりのように鳴く。


 ⋯⋯良いかね。金の卵を産む鳥の話しを知らんのかね。この島の謎は解いてはいけないのだよ。


 謎を解けば金魚の金の糞は、ただの金魚の糞しか産まなくなるのだ。


 ────偏西風のいたずらか、急な突風で波が押され、黄金を積んだ私のたまごの殻船は結界を越えた⋯⋯。


 お読みいただきありがとうございました。

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