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第6話

 俺はステータス画面を閉じると、二人の顔を順に見た。

 佐倉も三木もまだステータス画面を確認しているところだった。

「お前らはまだレベル1だろ? 一応訊くけど魔法とかは覚えてないよな?」

「ああ、魔法のところになしって書いてあるぜ」

「わたしも同じです」

 佐倉と三木はそう返す。

「とりあえず今の俺たちは弱い。ゴブリン相手だって正直確実に勝てるとは言えない。でもそれでも、モンスターを倒す以外にレベルを上げる方法はないからな。三対一で慎重に戦うほかないだろうな」

「そのゴブリンってモンスターより、もっと弱いモンスターはいないんですか?」

 三木が首をかしげつつ問うてくる。

「よくあるRPGならスライムってのがいるはずだ。多分そいつが一番弱い」

「じゃあそのスライムっていうのを狙って三人で倒せばいいんじゃないですか?」

 と三木。

「まあそうなんだけど、そもそもスライムがこのゲームの世界にいるかどうかは宇宙人次第だからな」

「けっ。イカレ宇宙人のことだから、そんなゲームの常識なんて通じないだろうぜ。どうせゲーム序盤からとんでもない強さのモンスターとかを登場させてるに決まってるっ」

 佐倉の言うことも一理あるが、ここは宇宙人を信じるしかない。

 あいつの人間性ではなく、ゲーマーとしての常識を。

「まあ、いざとなったらあたしの超能力で動きを封じればなんとでもなるけどな」

「あ、そうですよねっ。佐倉さんは相手の動きを五秒間だけ止められるんでしたもんねっ」

 そうなのだ。佐倉はそういう超能力の持ち主なのだ。

 ちなみに俺も三木も超能力を持っている。

 俺のに関しては、まったく役に立たない能力だが。

「頼もしいな。何かあったらその時は頼んだぞ佐倉」

「ああ、あたしに任せとけ」

 佐倉は平べったい胸を張って不敵に笑う。

 その矢先、

「あ、そういえば結城さん。ゴブリンを倒したのなら魔石っていうものを回収しておいた方がいいんじゃないですか?」

 三木が思い出したように口を開いた。

「そういえばそうだな。さっき倒したゴブリンから魔石とやらをいただいとくか」

 魔石はお金の代わりになると説明書に書いてあった。

 宿屋に泊まるにもアイテムを買うにも魔石は必要だろう。

 ならば回収しておいて損はないはずだ。

 俺たちはゴブリンの死体のもとへと歩み寄る。

「きゃっ! このモンスター、顔がぐちゃぐちゃですよっ……」

 ゴブリンの死体を目にして引きつった顔をする三木。

 一方の佐倉は「へっ、こいつがゴブリンか。思ってたよりだいぶ弱そうだな」と笑みを浮かべる。

「まあ、たしかに見た目はそんな強そうじゃないけどさ。でもゴブリンはこんぼうを振り回してくるからな、油断は出来ないぞ」

「へー、そうかい」

 二人が見守る中、俺はゴブリンの死体のそばにしゃがみ込む。

 そして、

「おっ、なんかあるぞ!」

 ぐちゃぐちゃになった頭部の中に青く光る物質をみつけた。

「あー、それが魔石ってやつか」

「で、でもそれ、どうやって取るんですか……?」

 佐倉は興味深げに、三木は今にも泣き出しそうな顔で俺を見下ろしている。

「どうやっても何も、手を突っ込むしかないだろ」

 と佐倉。

「えぇっ、そ、その中に手を入れるんですかっ?」

「そうしなきゃ取れないだろうが」

「そ、それはそうですけど……」

 佐倉と三木が言葉を交わす。

「ほら、早くしろよ結城っ」

「あ、ああ、わかってるよ」

 と答えたものの、ゴブリンの脳みそぐちゃぐちゃの頭の中に手を突っ込むのは、正直言ってあまり気が進まない。

「ゆ、結城さん、大丈夫ですか……?」

「ああ、まあな」

 実際、至近距離でゴブリンの脳みそを目の当たりにすると、かなり気持ちが悪い。

 臭いも強烈だし、出来ることならやりたくはない。

「結城、何してんだよ。ほら早くしろったら!」

 せっつく佐倉。

 それに少しだけイラっとした俺は、

「だったらお前がやるか?」

 と返す。

「けっ、嫌だね。大体そいつは結城が倒したんだから結城が魔石を回収するのが筋ってもんだろっ」

「ゆ、結城さん、頑張ってくださいっ」

 さいわい、すぐ近くには小川が流れている。

 そこで手を洗えば問題ないか。……まったく。

「はいはい……わかったよ」

 俺は覚悟を決めてゴブリンの頭の中に手を突っ込んだ。

 予想通り、というか、予想以上の気持ち悪い感触が手に当たる。

 俺は嫌な感触を我慢しつつ魔石をしっかりと掴むと、腕を一気に引き抜いた。

 その際に脳みその一部とゴブリンの血液が飛び散り、背後にいた佐倉と三木に付いたらしく、

「うわ、何やってんだよ結城っ! きったねぇなっ!」

「いやぁっ、変なのが顔に付きましたぁ~っ!」

 二人は叫びながら急いで小川へと駆けていく。

 その後ろ姿を見て内心ほくそ笑む俺だったが、手にこびりついた悪臭に堪えかねて、俺もまた二人のあとを追い小川へと向かうのだった。


「今頃お母さんとお父さん、心配してるだろうなぁ……」

 空を見上げながら三木がつぶやく。

 それを聞いて「たしかに」と俺もうなずいた。

 きっと俺の母さんも、もうしばらくしたら俺がいないことに気付いて電話をかけてくるだろう。

 とはいえここは地球から遠く離れた惑星だから、スマホはもちろん圏外なのだが。

「あたしんとこの親はあたしが二、三日いなくなっても特に心配なんてしないだろうけど、弟たちは別だからな。弟たちのためにも早く帰ってやらねぇと」

「え、佐倉さんって弟さんがいたんですか?」

「まあな」

「へ~、会ってみたいです」

 などと佐倉と三木が話していると、

『グオオォォー!』

 どこからともなくうなり声のようなものが轟いた。

「ひゃっ!」

「な、なんだっ!?」

「あれだ! あいつの叫び声だっ!」

 佐倉の指差した方向を振り向くと、はるか前方に大きなシルエットが見えた。

 そいつはこっちに向かって駆けてきているようで、徐々にその姿が鮮明になってくる。

 それを目にした俺は、

「げっ、あ、あいつは……!」

「な、なんなんですかあれっ。あれもモンスターなんですかっ?」

「ああ、あいつはきっとミノタウロスだっ!」

 と声を上げる。

「おいちょっと待てよっ!? あいつ、推奨討伐レベル20って出てるぜっ」

「わ、わたしたちってまだレベル1ですよっ。勝てるわけないです~っ」

 俺の目にも佐倉や三木と同じく、やはり<ミノタウロス:推奨討伐レベル20>と映し出されていた。

 そいつは大きな身体で筋骨隆々、顔は牛のようなモンスターだった。

 地面を駆けるスピードは人間のそれ以上で、ぐんぐんと俺たちの正面まで迫ってきている。

「佐倉、超能力だ! あいつの動きを止めろっ!」

「わかってら、命令すんなっ!」

 佐倉が手を前に差し出した。

 念じるように真剣な顔つきになる。

 だがしかし――

「おい、全然止まってないぞ!」

 ミノタウロスは佐倉の超能力は意に介さず、

『グオオォォーッ!』

 大声を上げ駆けてくる。

「おい佐倉っ!」

「佐倉さぁんっ!」

「これでもちゃんとやってんだよっ! でもなぜか効かねぇんだよ、くそっ!!」

 ぎりぎりまで粘る佐倉。

「危ないっ!」

 俺はそんな佐倉を抱きかかえて横に跳んだ。

 振り返ると、三木もかろうじてミノタウロスの突進をかわしていた。

『ブフゥー、ブフゥー!』

 鼻息荒く、ミノタウロスは俺と佐倉を黒いビー玉のような瞳で見据えている。

 俺のレベルは2。佐倉と三木にいたってはレベル1。

 かたやミノタウロスの推奨討伐レベルは20。

 とてもじゃないが勝ち目はない。

 だが、それでも佐倉と三木よりはまだ俺の方が少しは動ける。

「……三木、佐倉、逃げろっ!」

 俺は叫ぶと同時に、ミノタウロスの注意を惹くため、足元にあった石をミノタウロスの顔めがけ投げつけた。

「は、はいっ!」

「ちっ、仕方ねぇ!」

 三木と佐倉は俺の声を受け、一気に駆け出す。

 そして俺の投げた石はというと、驚異の精度でミノタウロスの右目に見事命中、

『グアアァァー……ッ!?』

 ミノタウロスを怯ませることに成功する。

 その隙を逃さず、俺も二人のあとを追ってその場から逃げ出した。

『グオオォォ――ッ!!』

 怒気をはらんだ咆哮が後方から聞こえる。

「追いつかれたら終わりだぞっ、死ぬ気で走れっ!」

「はひぃっ!」

「くそったれぇぇーっ!」

 俺たち三人は必死になって地面を駆けた。

 後ろを振り返る余裕はまったくなかった。

 ミノタウロスの鼻息交じりの怒号がすぐ後ろから迫りくる。

『ブフゥッ、ブガアアァァーッ……!!』

「走れ走れっ……!」

「はぁはぁっ……!」

「はぁっはぁっ……!」

 俺と三木と佐倉はただ全力で走り続けた。

 途中転びそうになるも、なんとか踏ん張ってこらえ、無我夢中で足を動かした。

 そして、どれだけ走ったかわからないくらい走り続け、砂地や水辺を過ぎたところで、

「も、もう駄目ですっ……走れませんっ……!」

「あ、あたしもだっ……!」

 三木と佐倉が地面に倒れ込んだ。

 俺はそこでようやく後ろを振り返った。

 すると、

「はぁはぁはぁ、い、いない……に、逃げ切ったぞっ……!」

 ミノタウロスの姿はどこにもなく、俺たちはなんとかミノタウロスの猛追から逃げ切れたようだった。

「も、もう……こんな世界、嫌ですぅ~っ……!」

 半泣きの三木が声を張り上げると、それに追随するかのように、佐倉もかすれた声で「イカレ宇宙人のくそ野郎がぁっ……!」と叫ぶ。

 まいったぞ……マジで、これは命がけのリアルデスゲームじゃないか。

 俺は息も絶え絶え、今の自分たちの置かれた現状をひしひしと痛感するのだった。

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