第20話
しばらく歩いていると人だかりが出来ている場所があった。
俺は近付いていき、
「どうしたんですか?」
とそこにいた男性に声をかけた。
「いやあ、実はモンスターが町の中に入り込んでいるんだよ」
「えっ、モンスター?」
俺は人波をかきわけ前に出ると、そこにいたのは見たことのある青色のちっこいモンスターだった。
「スライムじゃないか」
スライムは町に紛れ込んでしまったのか、ふるふると震えている。
倒す……いや今の俺にとってこいつは雑魚中の雑魚だ。
町の外に出してやるか。
『いいとこあるな、カケルよ』
まあな。
本当は殺されたリベンジをしたい気持ちもあるが、このスライムが仇かどうかはわからないし、人目もあることだし助けてやる。
俺はスライムに近付くとそっと両手で持ち上げた。
「大丈夫だからな、怖くないぞ。俺は味方――だぼっ!?」
すると突如スライムが大口を開け一瞬のうちに俺を飲み込んだ。
「ごぼっ……!?」
俺は内側からスライムの体を叩くがびくともしない。
なんだこれっ。俺、強くなったんじゃないのかよっ。
くそったれ、またこのパターンかっ。
おい、宇宙人。どんな魔法がこいつには有効なんだっ?
『どんな魔法でも簡単に倒せるだろうが、今のカケルには無理なのでは』
なんでだよっ。
『その状況では魔法を唱えられないだろう』
なんだとっ!?
俺はエレキショットを発動させようとスライムの体内で口を開くが、
「えべびぼぼっ!?」
言葉が発せられない。
ヤバいっ……今のでだいぶ空気がなくなったぞ。
く、苦しいっ。
『カケル、カケル』
なんだよ、この苦しい時にっ。
それとも何か秘策でもあるのかっ!
『次やり直すときはレベルアップボタンはもうないからな』
俺が死ぬこと前提で話をするんじゃねぇっ、くそ宇宙人っ!
どうにかしろっ!
苦しいっ、死ぬっ!
なんでスライムに二度も殺されなきゃならないんだよっ、こっちはレベル999の勇者だぞっ!
『カケル、カケル』
だからなんだよっ、どうにかしてくれ、頼むからっ!
『安らかにな』
てめぇ、くそアホ宇宙人がっ!
「ごぽっ……!」
肺に水が入って、俺の意識は遠のいてゆく。
――――
――
「……結城くん、結城くん起きてよ。ねぇ、結城くんってば」
俺の肩を優しく叩く者がいる。
そして、穏やかで落ち着いた女性の声。
「ねぇ結城くん、起きてっ」
「……ん? あ、ぶ、部長……?」
「あー、よかった。やっと起きた」
目を開けると、文芸部の部長の顔が目の前にあった。
部長はホッとしたような顔でにこっと微笑む。
「部長、俺……?」
「結城くんたら廊下で寝てたのよ。部室まで私一人で運ぶの苦労したんだからねっ」
と頬を膨らませる部長。
ちょっと可愛い。
「え、えーっと、あ、そういえば宇宙人はっ?」
「宇宙人ってさっきの転校生の彼のこと?」
「え、あ、はい、まあ」
「その彼ならどこにもいなかったわよ。結城くんを置いてどっかに行っちゃうなんて、あなたたち実はあまり仲良くなかったりして。なぁんてね」
それに関しては激しく同意するが。
「それより部活始めましょ。異世界小説書いてきてくれた?」
「あ、はい」
「じゃあ見せて」
「はい、わかりました……」
俺はカバンから自作の小説を取り出す。
そしてそれを部長に手渡した。
部長は俺の書いた小説に目を通していく。
その間、俺はさっきまでの出来事を振り返っていた。
まさか全部夢だったのか……?
異世界での冒険やパンドラたちとの出会いはすべて、幻だったのだろうか……?
しかし、俺のズボンのポケットが膨らんでいることに気付いた俺は、ポケットにそっと手を滑り込ませた。
そして、取り出してみたものは――
「ん? 結城くん、それなに、外国のお金?」
「え、ああ、そう……みたいです」
異世界で手に入れた札束だった。
はっ、どうやらあれは夢なんかではなかったらしいな。
そして、これは俺の勘だが、宇宙人が持ってくる面倒ごとはこれで終わりではないだろう。
……やれやれだ。




