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第19話

「あ~、お腹いっぱいだわっ」

 俺たちは腹いっぱいまで食べて、帰りにはお土産も包んでもらった。

「合計で十二万五千マルクです」

 大王ウミウシガエル退治の報酬の半分近くを使う羽目になってしまったが、こんなことは滅多にないからよしとするか。

 俺はこころよく勘定を済ますと店を出た。

「ごちそうさん、カケル。どうだ、うまかっただろ」

「ごちそうさま。お土産もありがとねっ」

「ごちそうさまでした」

 店の前ではパンドラたちが俺を待っていた。

 よく考えると人にご飯をおごるのはこれが初めての経験だな。

 などと感慨にふける間もなく、

「さてと、腹もふくれたことだしマックスウェル家に向かうとするか」

 パンドラは俺の背中を押すようにしてバシッと叩いてから、意気揚々歩き出した。


「でかい家だな~」

 見上げながら俺はつぶやいた。

 地図を頼りにマックスウェル家にたどり着くとそこにあったのは大豪邸。

 学校の校庭並みの広い庭を通り玄関まで来ると、「いらっしゃいませ」の大合唱で大勢のメイドさんたちが出迎えてくれた。

「ごきげんよう。ようこそいらっしゃいました。お話はうかがっておりますのでどうぞ中へお入りください」

 メイド長らしき人が家の中へと案内してくれる。

「すっごい家ね。お金ってあるところにはあるのね~」

 キャットは家の中に飾られた絵画や壷などを物色するようにきょろきょろと目を動かした。

「これなんかいくらくらいするのかしら?」

 壷を持ち上げ底を見上げる。

「そちらの壷は六百万マルクほどでしょうか」

「えっ、六百万!? わっとっと……」

 額に驚き壷を落としそうになるキャット。

「おい、気を付けろよ。壊したら弁償だぞ」

「わかってるわよ、うるさいわねっ」

 わかってなさそうだから注意したのだが。

「こちらがタンギ様のお部屋です。では、なにとぞよろしくお願いいたします」

 大きなドアの前で立ち止まるとそう言い残して去っていく。

「あのメイドなかなか出来るな」

 後ろ姿を見ながらパンドラが言う。

「いつか手合わせしたいものだ」

「パンドラさん、依頼を済ませましょう」

「あ、ああ」

 マリアの言葉にはっと我に返ったパンドラは、

「タンギ、いるか? 入るぞ」

 と言っておもむろにドアを開けた。

「な、なんだお前ら、ノックもせずに入ってきやがって。無礼だろうがっ」

 周りに三人の水着美女をはべらせた小太りの青年が、椅子にふんぞり返って目を丸くする。

 なんだこいつは?

「何こいつ?」

「この方が高校生ですか……?」

 キャットとマリアも俺と同じ感想を持ったようだ。

「それよりあんたがタンギか?」

「そ、そうだぞ……さてはお前らはあれか、親父が雇った新しい家庭教師か?」

「そんなとこだ。さあお嬢ちゃんたちはどっか行っててくれるか、お勉強の邪魔だ」

 パンドラが剣を抜きタンギの顔に向けた。

「きゃあっ!」と悲鳴を上げ部屋を出ていく水着美女たち。

「ひっ!? な、なんだよっ。お前家庭教師だろ、こんなことしていいと思ってるのかっ」

「残念だがあたしは家庭教師じゃない。今回は付き添いみたいなもんだ」

「私があなたに魔法を教えます」

 マリアが一歩前に出る。

「お、お前が……すげぇ美人じゃねぇか、ちくしょう。お前名前は?」

「あなたに関係ないでしょう」

 しかめっ面で答えるマリア。

 かなり嫌そうだな。

「お前、親父に雇われてるくせに生意気だぞっ。お前が名前を教えないなら俺は魔法の勉強なんてしないからなっ」

「……マリアです」

「マリアか。よしマリア、俺の隣に来ていいぞ」

 椅子の背もたれに背中を預けたままタンギはマリアを手招きする。

「ねえ、あいつぶっ飛ばしてもいい?」

 横にいるキャットがタンギを眺めながら訊いてきた。

「気持ちはわかるがやめとけ。報酬がもらえなくなるぞ」

「報酬か……仕方ないわね」

「ではまずは回復魔法です」

 そう言うとマリアはタンギの腕に手をかざし「キュア」と唱えた。

「おっ、おっおおー! なんだこれ気持ちいいぞっ」

 タンギが恍惚の表情を浮かべる。

「もっと、もっとやってくれマリアっ」

「この魔法は本来小さな怪我などを治す魔法ですが、精神を安定させる効果もあります」

「もっとやれってマリアっ」

「ではやってみてください」

 タンギの声を無視して淡々と進める。

「なんだよマリア、ノリ悪ぃなー……ったく。えーっと手をこうやってかざすんだったっけ?」

「きゃっ!!」

「おっと悪ぃ悪ぃ、胸に当たっちゃったぜ。わざとじゃないから怒るなよな」

 タンギは悪びれる様子もなく手をひらひらさせた。

 マリアは顔を赤くして胸を押さえている。

「あいつやっぱりぶっ飛ばそうかしら」

「キャット、早まるなよ。報酬のためだ」

 握りこぶしを作るキャットをなだめる俺。

 するとパンドラが、

「タンギ、今のは見逃してやるが次はないと思え」

 剣をタンギの顔に突き付けた。

「わ、わかったって。わざとじゃないって言ってるだろっ」

 タンギは続けて声を上げた。

「おい、そこの男。この筋肉女をなんとかしろ、こいつがいると魔法に集中出来ないんだよっ」

「ちょっとあんたねぇ――」

「まあまあ、落ち着けキャット。パンドラもこっちに来てろ」

 俺はなんとか場を収めようとする。

「カケルが言うなら従うが……」

 剣を鞘に入れてから、俺とキャットの方に来るパンドラ。

「まったく……筋肉女と貧乳女は来なくてよかったのに。この巨乳のシスターだけいれば充分なんだよ」

「貧乳女って誰のことよ? えぇっ!」

 キャットが鋭い目つきでタンギを睨む。

「な、なんだよ。お、おい、男。お前の女たちは教育がなってないぞ。もっとしっかり教育しろよなっ!」

 俺を指差しわめくタンギ。

 ……なあ宇宙人、人間が死なない程度の魔法ってなんかあるか?

『人間がか? そうだなぁ、フォーリングなら死ぬことはないと思うが』

 フォーリングだな。

『どうするつもりだ?』

 こうするんだよ。

 俺はタンギに向けて手を伸ばし「フォーリング!」と唱えた。

 すると、

 ガァーン!!

 とタンギの頭に大きなタライが降ってきた。

 タンギは「うげっ!?」と声を発し、その場にひざから崩れるようにうつ伏せに倒れた。

 一瞬の静寂の後、キャットが口を開く。

「カケル、今のってあんたの魔法なの?」

「ああ」

「何よそれ、タライを落とす魔法なんて聞いたことないわ。ははっ、でもなんかすっきりしたわ。カケルがやらなきゃわたしがやってたし」

「いいんですか? これでは報酬がもらえませんけど……」

「いいんだよマリア。あんたが嫌な思いしてまであたしたちは金が欲しいわけじゃないさ。カケルもありがとな」

 パンドラはマリアと俺の肩を抱き寄せた。

「さっさとこんな家はおさらばしよう」

「そうね。マリアが胸触られた慰謝料にさっきの壷でももらっていこうかしら」

「キャットさんっ」

「うそうそ、冗談よっ」

 キャットは笑ってごまかすが、盗賊が言うと冗談には聞こえないな。


マックスウェル家をあとにした俺たちは、とりあえず今日のところは別れることにした。「じゃあわたしはチビたちんとこ戻るから。あっそうそうお土産ありがとね、カケル」

寿司の詰め折りを持って帰っていくキャット。


「では私も教会に戻りたいと思います。今日はお昼ごちそうさまでしたカケル様……それとさっきはありがとうございました」

そう言ってマリアも帰宅の途についた。

「カケルはどうするんだ? 寝泊まりするとこはあるのか?」

とパンドラが訊いてくる。

「いや。昨日は公園で野宿した」

「はっはっは。あんたはやっぱり変わった奴だな。どうだ、今夜はあたしのとこに泊まっていくか?」

「お前のとこにか?」

「大丈夫、襲ったりしないさ」

「はっはっはっ」と豪快に笑うパンドラ。

「依頼の報酬の残りがまだ十万以上あるから宿屋でも探すよ」

「そうか。あたしは大体酒場にいるから冒険に行きたくなったら声をかけてくれ」

「ああ、わかった」

「じゃあな」

俺はパンドラと別れると町の宿屋を探し歩いた。

「おい宇宙人。なんとかこの異世界にも慣れてきたぞ」

『ふむ……それはよかったな』

「なんだよ、あんまり嬉しそうじゃないじゃないか」

『僕は少しばかり後悔しているのだ。カケルにはやはりレベルアップボタンの存在を教えるべきではなかったと』

「なんでだよ。そのおかげで俺は強くなれたんだぞ」

スライムさえ倒せなかった時とは大違いだ。

この状態なら、もうしばらくこっちの世界にいてやってもいいかもな。

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