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第18話

「本当に俺が全額もらっていいのか?」

 ギルドに向かう途中、俺は三人に確認する。

 大王ウミウシガエル退治の報酬三十万マルクを全部俺に譲ってくれるという話だが、冷静に考えると悪い気がしてきた。

「構わないさ。カケルが仲間になってくれてあたしたちは嬉しいんだ」

「別にわたしは嬉しくないけど……っていうかなんであんた服びちょびちょなのよ。あんたって服着ながらお風呂入る人?」

「そんなわけないだろ。いろいろ理由があるんだよ、気にすんな」

「濡れるので近付かないでくれますか」

 手を伸ばし俺との距離をとろうとするマリア。

「わかってるよ」

 パンドラは俺を仲間として歓迎してくれているが、キャットとマリアは違うようだ。

 キャットは金にシビアだから俺が報酬を全額もらうことに納得いっていないようだし、マリアはそもそも男嫌いだから俺のことをよく思ってはいない。

「そろそろ昼飯の時間だな。せっかくだからカケルとも打ち解けたいし、一緒に飯にするか?」

 パンドラが提案する。

「カケルのおごりならいいわよ」

「まあ、それくらい全然いいけど……」

 三十万マルク一人占めは多少後ろめたかったからな。

「あとうちのチビたちにもお土産に何か買ってやってちょうだい」

「ああ、わかったよ」

 チビたちというのはキャットとボロ小屋に寝泊まりしているストリートチルドレンのことだろう。

「私はお弁当を作ってきましたので遠慮します」

「そんなこと言わずにマリアも一緒に行きましょ。どうせカケルのお金なんだから、無駄に豪華なものいっぱい頼んじゃえばいいんだわ」

 キャットはマリアの服の袖を引っ張る。

「無駄はよくないですよ、キャットさん。もったいないです」

「も~、堅いんだからマリアは」

「マリア、これはカケルの歓迎会みたいなものだ。だからみんなで食事をすることに意味があるんだよ」

「はぁ……わかりました」

 マリアも年上のパンドラの言うことは聞くらしい。渋々首を縦に振った。

 

「ではこちらが報酬の三十万マルクです」

 ギルドに着くと受付の女性から札束を手渡される。

 初めて持つ三十枚の札束の感触はなんとも心地がいい。

「おい、パンドラたちだぜ」

「マリアさん、きれいだな~」

「あの弱そうな男は誰だ? 新入りか?」

 周りの冒険者たちが俺たちを遠巻きに見て口々に言う。

 もっと声量を落としてくれないと丸聞こえだ。

「じゃあ昼飯にするか」

「待ってパンドラ。せっかくギルドに来たんだからなんか適当な依頼でも受けときましょうよ。今日はカケルのせいでただ働きなんだから」

 キャットはそう言うが、お前は気絶していただけだろ。

「そうだな、今朝見たばかりだから新しい依頼は入ってないと思うが、Bランクの依頼ならいくつかあったはずだしな。マリアもそれでいいか?」

「はい。私もキャットさんに賛成です」

 とマリア。

 キャットが人の波をするりと抜けて壁の前にいち早く着く。

 パンドラとマリアが続いて壁の方に近付いていくと人の波が割れていく。

 やはりパンドラたちは冒険者たちから一目置かれているようだ。

 気付けば壁の前の人だかりがなくなっていた。

「おいカケル、早く来い」

「おう」

 パンドラに呼ばれ俺も依頼書が貼られた壁の前へ。

「どうせ選ぶならなるべく報酬が高いのがいいわね」

 キャットが背伸びしながら上の方の依頼書を眺める。

「大王ウミウシガエルが三十万だったからな、出来れば同じくらいのがいいよな」

「これはどうですか?」

 マリアが上の方にあった依頼書に手を伸ばした。

 マリアが手に取った依頼書には、

【魔法の家庭教師 Cランク 二十八万マルク】

 と書かれてある。

「魔法の家庭教師ってなんだ?」

 よくわからないのだが。

「そのままの意味でしょう。魔法を教えるんじゃないですか」

 面倒くさそうに俺の問いに答えるマリア。

「あたしは魔法は一切使えないからあんたたち三人に任せることになってしまうが、それでもいいのか?」

「言っとくけどわたしだって大した魔法は使えないわよ。わたしが使えるのは盗賊専用の魔法だけだし」

 とパンドラとキャットは揃って口にする。

「私は回復魔法と神聖魔法を使えますからある程度は教えることが出来ると思います」

「マリアはいいとしてあんたはどうなのよ。魔法は使えるの?」

 キャットは俺が大王ウミウシガエルに魔法を使ったところを気絶していて見ていないので、そんなことを訊いてきた。

「そうだなぁ……」

 宇宙人、俺は勇者が覚える魔法は全部使えるんだよな。

『ああ、その通りだ』

 宇宙人に確認して。

「俺は勇者の魔法はひと通り使えるぞ」

「はぁっ!? っていうかあんたって勇者だったの? うっそだー!」

 キャットは俺を指差し口を開く。

「いや、俺は勇者だぞ」

 少なくとも宇宙人はそう言ってくれている。

「カケル、勇者ってのは本当なのか? それに勇者の魔法を全部使えるだなんて」

「ああ」

 多分な。

「変態で嘘つき……これだから男性は嫌いなんです」

 マリアは目を閉じ、ふるふると首を振っている。

 男に嫌な思い出でもあるのか、こいつは。

「信じられないわ。あんたが仮に勇者だとしてレベルはいくつなのよ?」

 キャットが訊ねる。

「レベルは999だ」

 俺の言葉に、

「「「なっ!?」」」

 パンドラたちが唖然とする。

「あ、あんたバカなのっ。つくならもっとましな嘘つきなさいよねっ。レベル999の勇者なんているわけないじゃないっ。わたしたちだってレベル200台なのよっ」

「カケル、さすがにレベル999は無理があるぞ」

「カケル様は病院に行くべきです」

 三人とも信じてくれない。

 パンドラとマリアは可哀想な者を見る目で俺を見てくる。

『カケル、きみがボタンを押しすぎたせいだぞ。レベルが上がりすぎて真実味がまったくないのだ』

 そう言われてもなぁ。

「いいです。魔法は私が教えますからこの依頼を受けましょう」

「悪いなマリア」

「マリア、ありがとっ」

 マリアたち三人は俺を置き去りにして、受付カウンターに依頼書を持って行ってしまった。

「おい、待てって。俺を無視するなよっ」


「依頼内容はマックスウェル家の次男タンギさんに、小学生レベルの基礎的な魔法を教えるというものです。依頼主はマックスウェル家の当主であるタンジさんです」

 受付の女性は言う。

「マックスウェル家ですか……」

「マリア知ってるの?」

「聞いたことがあるだけですけど、魔法使いの家系でかなりの名家ですよ」

 キャットの問いに答えるマリア。

「ふーん、小学生魔法使いの家庭教師ね」

「にしてはこの依頼、少し報酬が高い気がするが何か裏でもあるのか?」

 とパンドラ。

「この依頼はもともとEランクで報酬は五万マルクだったのですが、依頼を受けた冒険者さんたちがことごとく失敗したためランク、報酬ともに上がっていったのです」

「何それ。そのタンギって子バカなの?」

「キャットさん、失礼ですよ。なにごとにも向き不向きがありますから」

 マリアがキャットをたしなめた。

 が、キャットはなおも続ける。

「だって魔法使いの家系なんでしょ。魔法が使えないんじゃ話にならないじゃない」

「私も小学生の時は魔法が苦手でしたし、小学生なら仕方ありませんよ」

「えっ、マリアって魔法苦手だったの?」

「はい、そうですよ。小学生の頃は――」

「あの、お話し中すみませんがどうやら誤解されているようなので……タンギさんは小学生ではなく高等学生です」

 ……。

 ……。

「え? ちょっと待って。高等学生に小学生レベルの魔法を教えるわけ? っていうか高等学生なのに小学生レベルの魔法も使えない魔法使いってなんなの。ヤバくない?」

「それで、この依頼どうされますか?」

 受付の女性が訊いてくる。

「うーん。そうだなぁ……さっきも言ったがあたしは魔法は門外漢だからマリアに任せるよ。マリアが決めてくれ」

「わたしは正直受けない方がいいと思うけどね」

 マリアではなくキャットが先に口を開いた。

「なんか時間の無駄になりそうな気がすんごくするわ」

「私はシスターとして困っている方は放ってはおけません。それがたとえ男性でも」

「そうか、マリアがそう言うのならこの依頼引き受けよう。キャットもそれでいいな?」

「まあいいけど……」

「それではこれがマックスウェル家への地図です。お気を付けて」

 受付の女性から地図を受け取るとパンドラを先頭にギルドを出た。

「依頼の前にまずは腹ごしらえをしようか」

 パンドラが隣を歩くキャットに顔を向ける。

「そうね。カケルのおごりだからお寿司とかいいわね」

 この世界にも寿司屋があるのか。

「寿司か。マリアは何がいい?」

「私はなんでもいいですよ。好き嫌いはありませんから」

「そうか。なら寿司でいいか? カケル」

「ああ」

 俺も基本的に好き嫌いはないし、寿司ならハズレはないだろう。

 何より俺は回らないタイプの寿司屋は初体験だから楽しみだ。

「この近くにあたしの行きつけの寿司屋があるからそこにしよう」

 そう言うとパンドラは大通りを曲がり狭い通路に入っていった。

 俺たちもあとに続くと、店構えからしていかにも高そうな寿司屋があった。

「ここだ。さあ入ってくれ」

 パンドラは扉を開けると俺たちを中へとうながす。

「へー、きれいなところじゃないの」

「ええ、そうですね」

 俺たちはそれぞれカウンター席に腰を下ろし店の中を見回す。

 内装も清潔感があっていい感じだ。

「よお大将、今日は四人で来たよ」

「いらっしゃい、パンドラさん」

 顔なじみらしい寿司屋の店主に声をかけ、パンドラは俺の隣の席に着いた。

「早速だがお任せで握ってもらおうか」

「はいよ」

 店主が順々に出す寿司を俺たちはぺろりと平らげていった。

 さすが回らない寿司屋。回転寿司とは格が違うおいしさだった。

 さぞ値段も張ることだろう。

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