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第13話

「マリアはこれまで何度かあたしとパーティーを組んだんだが、冒険者をして稼いだ金は全部あの教会に寄付してるのさ」

 もう一人の冒険者仲間を迎えに行く道中、パンドラが勝手に話し始めた。

「偉いよな。とてもあたしには真似できないね。あたしの場合は全部酒に消えてしまうからな。頭が下がるよ、まったく」

「そんなことないです。パンドラさんが私を冒険者の道に誘ってくださらなかったら、あの教会は潰れていたかもしれません」

 マリアがパンドラを見上げながら首を横に振る。

 俺は三歩後ろから二人のそんな様子を眺めていた。

 キャラが全然違うのに仲がよさそうだ。

 パンドラは一言で言って豪放磊落。

 好きな時に好きなことを言い、好きなことをするというタイプだ。

 赤褐色の筋肉質な体をビキニアーマーという極小装備で纏い、剣を腰に差して大股で歩く姿は女だてらにかっこいい。

 一方のマリアはシスターの服に身を包み、雪のように白い肌は顔と錫杖を持つ手以外ほとんど隠れて見えない。

 温室育ちのお嬢様っぽい雰囲気と金髪碧眼の人形のような外見は、見る者すべてを虜にするような気品がある。

「カケル聞いてるか? マリアはいい奴だろう」

 パンドラが後ろを振り向き問うてくる。

 それと同時にマリアも後ろを振り向くと、俺に冷ややかな視線を浴びせてきた。

「ああ、そうだな。いい奴だな」

 男が嫌いじゃなければな。

「ところで次の仲間のいる場所はまだなのか?」

 ここまで結構歩いてきたが。

「あともう少しだよ」

「そいつの名前はなんていうんだ?」

「通称キャットさ。本名は本人も知らないらしい。レベルは201で年は多分カケルと同じくらいだろう。職業は……まあ盗賊かな」

「またレベル200超えかよ。もしかして冒険者ってそんな奴ばっかりなのか?」

 だとしたら俺は浮きまくりだな。

「いや、あたしたちが特別なだけだ。大抵の冒険者はレベル2、30ってところだ。なぁマリア?」

「ええ、そうですね」

 マリアがパンドラの顔を見ながら答える。

「だからあたしたちを仲間に誘ってくる連中も多いんだ」

「それも決まって男性ばかり……」

「それはマリアが美人だからだろう。男どもがほっとかないんだよ。マリアを紹介してくれって奴があたしのとこにもたくさん来るからな」

「ちっとも嬉しくありません」

 こいつらの話だと俺の仲間たちは相当腕がたつようだ。

 果たしてそれは運がいいのか悪いのか。

 こいつらについていれば楽して大金が手に入るかもしれないが、俺にはとても手に負えないような危険な依頼も引き受けかねない。

 というより宇宙人、聞いてるか?

 そろそろ俺を地球に戻してくれないか?

 俺はもう充分すぎるほど、異世界ってやつを満喫したんだけどな。

 俺は心の中で宇宙人に語りかけるが、

『……』

 この話題になると宇宙人は口をつぐんでしまう。……まったく。

 それにしても、もう一人の仲間はキャットっていうのか。

 おい宇宙人、そいつはどんな奴なんだ?

『ふむ、キャットか』

 頭の中で宇宙人の声が聞こえた。

 やはりすべて聞いていて、地球に戻るという話題だけあえて無視してやがったな。

 ああ、そうだよ。

 そのキャットって奴はどんな奴なんだ?

 教えといてくれ。

『さっきパンドラから聞いただろう』

それ以外の情報を話せって言ってるんだよ。

『ふむ、なるほど。キャットは物心つく前に母親に捨てられ、ストレートチルドレンになったのだ』

 ストリートだろ。

『大人には頼らず、同じような境遇の子どもたちと路地裏でひったくりなどを繰り返しながら、すくすくと成長していった。そして今では、ストリートチルドレンの子どもたちの面倒を見るボスのような存在になっているらしい』

「おいカケル。おい、着いたぞカケル。聞いてるのか?」

「お、おう、聞いてるよ。着いたんだろ」

 パンドラの声にハッとして我に返ると、目の前には今にも崩れそうなトタン屋根のボロ小屋があった。

「カケルは時々ぼーっとしてることがあるよな。何考えてたんだ?」

「どうせ、いやらしいことではないですか? 男性はそういう生き物ですから」

 マリアは俺に軽蔑のまなざしを向けてくる。

 男に対する偏見がすごいな。

「おーい、キャット! いるかー!」

 パンドラが外から大声で呼びかけた。

 すると、

「あっパンドラだ!」

「マリアお姉ちゃんもいるぞ!」

 ボロ小屋から子どもたちがわらわらと出てきて、パンドラとマリアの足に抱きついた。

「マリアお姉ちゃん!」

「あらあら、みんな元気だった?」

 マリアが少年の頭を優しく撫でる。

 同じ男でも子どもは平気なのか……。

「なあ、あんたたち。キャットはいないのか?」

 パンドラはしゃがみ込むと子どもたちに問いかけた。

 直後、

「わたしならさっきから後ろにいるわよ」

 背後から声がした。

 俺たちはとっさに振り返る。

 そこには小柄な少女が不敵な笑みを浮かべ立っていた。

 手に持った三本の短剣をジャグリングのように器用に投げ回している。

「キャット、いつの間にいたんだ。気が付かなかったよ」

「久しぶりですねキャットさん」

「パンドラとマリアが揃って来たってことは冒険のお誘いよね」

 キャットはパンドラとマリアの顔を順に見てから、俺の胸に短剣を向けた。

「……で、この男が新しい冒険者仲間ってわけ?」

「こいつはカケルだ。これまでの男たちとは違うから安心しろ」

 俺の肩に手を回し抱き寄せるパンドラ。

 苦しいからやめろ。

「ザンザだったっけ? 前にわたしたちのお金くすねた奴。そいつがどうなったかカケルに教えてやった?」

「いや、話してないが……」

「ザンザはわたしがこの短剣で解体してやったわ。まだザンザの血がついてるかも……もしわたしのお金に手をつけたりしたらあんたも容赦しないからね、わかった?」

 俺の頬に短剣の刃を当てるキャット。ひんやりしている。

「わかったからその物騒なものしまってくれ」

「ふふん、わかればいいのよ」

 そう言うとキャットは三本の短剣を腰のベルトに差した。

「じゃあ、行きましょ」

「どこに行くかわかっているのか?」

「冒険者ギルドでしょ。さすがに何回もやってれば覚えるわよ」

「そうか」

 キャットは子どもたちに「ちょっと稼いでくるからわたしが戻るまで悪さしちゃ駄目よっ」と言い残し、パンドラとともに歩き出した。

 その後をマリアがついて歩く。

「おい、カケルも早く来い」

「ああ、わかってるよっ」

 パンドラに急かされ俺もあとに続いた。


 キャットは動きやすいようになのか、上はTシャツ、下はデニムのショートパンツというラフな恰好をしている。一見すると少年のように見えなくもない。

 俺がイメージしていた盗賊の恰好とはだいぶ違う。

「なあマリア。お前はシスターだろ?」

 俺はマリアに問いかけた。

「……だからなんですか?」

「盗みを働くキャットと仲間になることに抵抗はないのか?」

「キャットさんは悪いことと知りながらも、小さい子どもたちのために仕方なく盗みを働いているのです。行為自体は悪いことですが、私はキャットさんを責める気にはなれません。貧しい子どもたちをただ見ているだけの私にはその資格もありません。私はむしろあなたと仲間になることの方がよほど抵抗があります」

 う~ん、そこまで男を毛嫌いしているとは……。

「そうだカケル、あんたの職業はなんなんだ? 聞いてなかったなそういえば」

 前を歩くパンドラが口を開いた。

 職業?

 おい、宇宙人。俺の職業ってなんなんだ?

 何か決まっているのか?

『カケルの職業か? 勇者でいいのではないか?』

 俺が勇者っ!? スライムも倒せない雑魚なのにっ!? 

『その世界では主人公はカケルだ。だからきみが勇者でいいだろう』

 そのわりにはずいぶんハードモードじゃないか。

「カケル? あんたの職業だよ、職業」

「あ、ああ。俺は……勇者だ。一応」

「勇者だってっ? カケルが? ははっ、こりゃあ驚いたね~。とんでもない拾いもんしちまったよ」

「あなたが勇者?」

 とても信じられないといった顔で俺を見てくるマリア。

 俺だってそうだ。言ってて信じられないよ。

「カケルって勇者だったの? それでそれで、レベルはいくつなのよ?」

 キャットが興味津々で訊いてくる。

 がっかりさせるようで申し訳ないが……。

「俺はレベル1だ」

「「レベル1っ!?」」

 目を丸くして驚くキャットとマリア。

 そりゃそうだよな。お前らはレベル200超えだもんな。

「ふふっ。そんなに驚くことないだろう二人とも」

「ちょっとパンドラ、あんたこいつがレベル1だって知ってたの?」

「ああ、もちろんだ」

 何か問題でも、とばかりに平然とうなずくパンドラ。

「なんでこんな弱っちい奴を仲間になんてしたのよっ。全然使えないじゃないっ」

「あたしがカケルを気に入ったんだ。だから十万マルクであたしが買ったのさ」

「買った!? あんたたち一体どんな関係なのよっ」

「まあまあ、落ち着いてキャットさん」

 キャットの肩を押さえるマリア。

「でもパンドラさん。この方が足手まといなのは間違いないですよね」

「それはカケルが自分でも言っていたがいいんだよそれで。あたしがこいつを守るから」

 パンドラは俺の肩に手を回しぎゅっと引き寄せた。

 だからそれやめろ、苦しいだろっ。

「で、まさか報酬も四等分にするわけじゃないわよね? 嫌よわたし、こいつと同じ取り分なんて」

「心配するな。報酬はこれまで通りきっちり三等分だ。カケルの分はあたしの取り分から払うよ」

「ふーん。ま、それならわたしは別にいいけど」

 腕を組み納得した様子のキャット。

 それにしてもなぜここまで俺はパンドラに気に入られているのだろう。

 体のいいペットか何かだとでも思われているのだろうか。

「マリアはどうだ?」

「私は……どうせパーティーに男性が一人入らなければ冒険者の仕事は出来ないわけですし……仕方ありません」

「ってわけだ、よかったなカケル。二人とも仲間として認めてくれたぞ」

 パンドラが俺の背中をばんばん叩く。

「ごほっごほっ……」

「おお、悪い悪い」

「大丈夫なのかしら、こんなんで」

「先が思いやられます」

 それはこっちのセリフだ。

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