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第1話

「……きろよっ。こら、起きろって言ってんだろっ」

「ぅぐっ……」

 背中に強い衝撃を受け俺は覚醒した。

「だ、駄目ですよっ。そんなことしたら」

「起きねぇんだからしょうがねぇだろっ」

 気付くと俺はどこかの床の上に倒れていた。

 とりあえず上半身だけ起こす。

「ほら見やがれ、起きたじゃねぇか」

 俺のそばには背の高い女子と背の低い女子が立っていた。

 背の高い方は鋭い目つきをしていて、背の低い方は垂れた目をしている。

 どちらも整った顔立ちをしているがあまり似ていないところを見ると、どうやら姉妹というわけではなさそうだ。

「大丈夫ですか? お怪我とかありませんか?」

 背の低い女子がしゃがみ込んで心配そうに俺の顔を覗き込んでくる。

「怪我……は別にしてないと思う。ちょっと背中が痛いけど」

「あ、そ、そうですか……」

 背の低い女子はバツの悪そうな顔をした。

「それより、ここはどこ?」

「き、教室だと思います……」

「うん、それはわかるんだけどさ」

「よいしょ」と立ち上がった俺は周りを見回した。

 部屋には木製の机が列になって並んでいて、教壇の上には先生用の一回り大きな机がある。

 窓側にはカーテンがかけられていて、さらに部屋の前方と後方の壁には黒板が設置されてあった。

 割と大きめの水槽もあってよく見ると中には金魚が悠然と泳いでいる。

 俺たちがいるのは誰がどう見ても教室だった。

「なんで俺たちは教室にいるのかなって」

「そんなのあたしらが知るわけねぇだろっ」

 俺の言葉に反応して声を上げたのは背の高い女子だった。

 不機嫌そうに俺をにらみつけてくる。

「わ、わたしたちも今さっき目が覚めたところなんです。そうしたらいつの間にか教室にいて……」

「ったく。なんだってあたしがこんな目に遭わなきゃなんねぇんだよっ」

「お、落ち着いてください佐倉さん……」

 背の高い女子を背の低い女子がなだめようと腕を掴むが、背の高い女子は邪魔くさそうにそれを払いのけた。

「えっと、二人は知り合いなの?」

「い、いえ、今さっき会ったばっかりです……」

「ふーん、そうなんだ」

 佐倉さんと名前で呼んでいたからてっきり知り合いかと思ったが違ったか。

 すると俺の心中を察したのか、

「あ、紹介が遅れました。わ、わたしは三木ちえりっていいます、一五歳です。そ、それでこちらが佐倉レナさんです。一七歳だそうです……よ、よろしくおねがいします」

 三木と名乗った背の低い女子が自己紹介をしてくれた。

「俺は結城カケル。俺も一七歳だよ」

「おい、自己紹介なんかもういいだろっ。それよりこの状況をどうにかしようぜっ」

 と背の高い女子、佐倉が言う。

「どうにかって普通にドア開けて帰ればいいんじゃないのか」

「馬鹿かお前っ。そんなこと、とっくに試したんだよっ。ほらっ」

 佐倉は言いながら教室の前方にあるドアを開けようとするがびくともしない。

「ドアが開かないんです。こっちもですよ……えいっ」

 三木も後方のドアを両手で掴んで動かそうとするもやはり開かない。

「なんだよそれ」

 言いつつ試しに俺もやってみたが結果は同じだった。

 鍵もかかっていないのにドアはまったく動かなかった。

「だったら窓をずらせばいいんじゃないか。それでもなんとか廊下に出れるだろ」

 俺は提案するも、

「それももう試しました……」

 と三木ががっくりと肩を落としつつ返す。

「じゃあつまり、俺たちは教室に閉じ込められたってわけか?」

「は、はい。そうなります……」

「マジで……?」

「くそっ! 誰だ、あたしらをこんなとこに閉じ込めやがった奴はっ!」

 近くにあった椅子を蹴飛ばす佐倉。

 蹴られた椅子が窓枠に当たった。

 それを見て俺はあることを思いつく。

 床に倒れた椅子を拾い上げると俺はそのまま椅子を廊下側の窓にぶち当てた。

 ガラスが飛び散るのは覚悟の上だった。

 だがしかし、俺の予想に反して窓は割れるどころか椅子をばいーんとはね返した。

「な、どうなってんだ……?」

「それもとっくの昔に試してるんだよ、馬鹿が」

 いつの間にか椅子に腰かけ頬杖をついていた佐倉が呆れた様子でつぶやく。

「どうしましょう、結城さん……」

「いや、どうしましょうって言われてもなぁ」

 とここで俺の視界にはカーテンが。

 そうだ。廊下側の窓が駄目なら外側の窓から出ればいい。

 ここがもし一階だったらベランダ伝いに外に出られるはずだ。

 そう二人に説明すると、

「わぁ、それはまだ試してませんでした~」

「ならとっととカーテン開けてみようぜっ」

 二人も乗り気で窓際にやってくる。

 そして期待を胸に俺と佐倉でカーテンを左右に同時に開けた。

 すると、

「えぇ~っ……!?」

「な、なんだっ!?」

「う、嘘だろ……!」

 信じられないことに、窓の外には果てしない宇宙空間が広がっていた。


「ど、どうなってんだよこれっ!? 宇宙っ!? あり得ねぇだろっ!」

 佐倉が叫び出したくなる気持ちもよくわかる。

 カーテンを開けたら正面に地球そっくりの惑星が見えているのだからな。

 じゃあ今いるここはどこなんだって話だ。

 

 さすがの佐倉もこれにはまいってしまったようで、よろよろと椅子に背を預けてうなだれる。

 三木にいたっては開いた口が塞がらないまま、いつまでもぼけーっと突っ立っていた。

 お手上げだ。誰だか知らないが完敗だよ。

 絶対に出られない教室の中に閉じ込めて、さらに外には宇宙空間。

 白旗を上げてやるからこんなことをした奴はさっさと名乗り出てくれないか。

 でないと頭がどうにかなってしまいそうだ。

 佐倉と三木が近くにいるからまだなんとか理性を保っていられるが、これでも発狂寸前なんだぞ。

『やっと自分たちの置かれた立場が分かったようだな』

 夢なら覚めてくれ、そう願った矢先どこからか絶妙に気持ちの悪い声が届いてきた。

 その声は、

『理解してもらえたなら何よりだ』

 頭の中に直接語りかけてくるようだった。

「てめぇ、誰だこらっ! 姿を見せやがれっ!」

 佐倉が立ち上がり宙に向かってほえる。

『見せないとは言っていない。これから君たちの前に出ていくからちょっと待ってくれ』

 と声がしてから十秒後、教室の前方が一瞬光ったかと思った次の瞬間、教壇の上には見知らぬ青年が立っていた。

「てめぇか、あたしらをこんなとこに誘拐して閉じ込めやがったのはっ!」

『そうだ』

「ぶっ殺してやるっ」

「ちょ、ちょっと待って、落ち着いてくださいっ……」

 佐倉の腰に飛びついて必死に止めようとする三木。

「放せ三木、こいつは殺さなきゃ気が済まねぇ!」

「そ、そんなことしたらわたしたち帰れなくなっちゃいますよ~っ」

 佐倉に同意したいところだが、三木の言うことももっともなのでここは俺も三木に追随する。

「まあ佐倉落ち着けって。とりあえずは俺たちが地球に戻ることの方が先決だろ」

「そりゃそうだけどよっ」

「だったらそいつの話をまずは聞こうじゃないか。な?」

「……ちっ、わかったよ」

 佐倉は椅子を引っ張り寄せるとどかっと腰を下ろした。

 怒りっぽい佐倉でも地球に帰りたい気持ちは俺たちと同じようで助かる。

『話を進めてもいいか?』

「ああ。でもその前にこっちの質問に答えてくれないかな」

『質問?』

「ああ。あんただって出来ることなら平和的に話を進めたいんじゃないのか? だったら俺たちの質問に答えてほしい」

『うむ……まあいいだろう。ではそちらの質問に答えようじゃないか』

 誘拐犯が話が通じそうな奴なので俺は内心ほっとする。

 宇宙空間に教室ごと移動させられるような奴だ、その気になれば俺たちを殺すことだってわけないだろうからな。

「じゃあ訊くが、あんたは何者なんだ?」

『ありていに言えば宇宙人だ』

「けっ。そんならあたしは神様だなっ」

 佐倉がいやみったらしく口にした。

『きみたち人間のような名前はないから好きに呼んでくれてかまわない』

「そうかよイカレ野郎っ」

 とあくまで喧嘩腰の佐倉。

『野郎というのは人間のオスに対して使われる呼称だろう。僕には性別というものは存在しない』

「どう見たって男じゃねぇか」

 佐倉の言う通り、自称宇宙人は俺の目から見ても二十歳そこそこの日本人男性に見えた。

『この姿はあくまでも仮の姿だ。その証拠に……』

 言うなり宇宙人は全身を光らせる。

 そして、

『ほら』

 次の瞬間、佐倉そっくりに変身してみせた。

「うおっ!?」

「す、すごいです……」

「なっ、て、てめぇ、気味の悪いことしてんじぇねぇ! さっさと元に戻りやがれっ!」

『こんなことも出来るぞ』

 言って宇宙人は来ていた服を脱ぎ出す。

 それには佐倉も即座に反応し、

「てんめ、この野郎っ!」

 と殴りかかった。

 しかし――

 すかっ。

 佐倉の体重の乗った思い切りのいいパンチは宇宙人の体をすり抜けてしまった。

「「「っ!?」」」

 俺たちは驚きのあまり絶句する。

『僕の体に君たちが触れることは出来ない。なぜなら僕は情報統合思念体なのだからな』

「じょ、情報、とうごう、しねんたい……?」

 俺たちは眉を寄せオウム返しをした。

『そうだ』

「なんだよそれ。ホログラムみたいなものか?」

 と訊いてみる。

『まったく違う。が、君たちには説明しても無駄なのでその程度の理解でも構わない』

 言うなり再度光ったかと思うと先ほどまでの男性の姿に戻る宇宙人。

 うーん……こいつはマジで本物の宇宙人のようだな。

 その後、佐倉と三木は席に着き、

「は、はい、宇宙人さん。し、質問があります」

 三木が手を上げ発言する。

『何かな?』

 と宇宙人が三木に顔を向けた。

 その光景は教室という空間とマッチして、授業中の生徒と先生のように見えなくもない。

「あ、あのう、宇宙人さんはなんでわたしたちをこんなところに連れて来たんですか?」

 三木はどこか抜けていそうな雰囲気の割には意外とまともなことを訊ねた。

『それは君たちに頼みごとがあったからだ』

「へぇー、てめぇの星ではものを頼む時相手を誘拐すんのか」

「佐倉さん、ちょっと黙っていてください」

 三木は佐倉をたしなめたあと宇宙人に向き直る。

「えっと、宇宙人さんの頼みごとってなんなんですか? その頼みごとを聞けばわたしたちは地球にかえしてもらえるってことですか?」

『君は話が早くて助かる。そこのメスとは大違いだ』

「うっせぇ、イカレ宇宙人っ」

 佐倉が鋭い眼差しを宇宙人に向けた。

 だが宇宙人はまったく動じない。

 それどころか宇宙人は佐倉のそばに近寄っていく。

「なんだよ、なんか文句でもあんのかっ。ああっ!」

 至近距離でメンチを切る佐倉を前に、

『好戦的なのは今後のことを思えば大いに結構だが、今はお互いあまり時間がない。もう少し利口になってくれないか』

 一歩も引かず宇宙人も佐倉を見返した。

 一触即発。

 空気がピリつく。

「あ、あ、あのあのっ、宇宙人さんも佐倉さんも冷静になりましょうっ。ねっ? 話し合えばきっとわかり合えますからっ」

 張り詰めた緊張の糸を緩めようと三木は二人の間に割って入った。

 俺もそれに乗っかる。

「宇宙人、話を続けてくれ。あんたが言う頼みごとってのは一体なんなんだ?」

『ふむ』

 と俺を見て宇宙人。

『実は僕と敵対関係にある宇宙人がいるのだが、そいつと戦って倒してほしいのだ』


「戦って倒す? あんたと敵対関係にある宇宙人を? 俺たちが?」

『そうだ』

「いやいやいや、無茶言わないでくれ。そこの二人はどうか知らんが、俺はどこにでもいる普通の高校生だぞ。格闘技経験もないし運動神経も並の並だ。宇宙人はおろか、中学生と喧嘩したって勝てるかどうか微妙なもんだ」

 自分で言ってて情けなくなるが事実だから仕方がない。

「わ、わたしも戦うとかは、ちょっと怖いです~……」

 三木が小声で言う。

「ほら見ろ。どう考えても人選ミスだぞ」

『そんなことはない。君たちは地球上から僕が選び抜いた最高の戦士たちだ』

「嘘つけ」

 三木は蚊も殺せないような性格に思えるし、俺は俺で殴り合いの喧嘩など生まれてこの方したことのない平和主義者だ。

 まあ、佐倉に関してはストリートファイトで連戦連勝している謎の女格闘家という可能性もなくはないが。

『そちらの質問には答えたぞ。ではこちらの番だ。おとなしく僕に従ってもらおう』

「……嫌だと言ったら?」

 俺はおそるおそる訊ねてみた。

『その場合は次善の策で行く』

「だったら初めからそうしやがれ、イカレ宇宙人っ」

 しばらく黙っていた佐倉が口を開く。

『しかしそうなると、君たちは用済みということになるが』

「よ、用済みってどういうことですか……?」

 俺がしようとした質問を不安そうな顔で三木がした。

 宇宙人は感情ゼロのまま、

『今すぐ君たちを宇宙空間に放り出して、新たな戦士を呼び寄せることになる』

 当然のごとくのたまう。

「う、宇宙に……?」

「ほ、放り出す……」

「ちっ、くそがっ……」

『それでもいいか?』

 宇宙人の問いに肯定できるはずもなく、俺たちは嫌々ながら宇宙人に従うことにした。

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