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ハジマリノヒ  作者: うぐいす
星のクオリア
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星のクオリア3

「私の名前はクオリア・オニキス。マテリアル研究所所属の戦闘員です」


 真っ黒な肌の少女は手足が無くて起き上がれない為、仰向けになったままの状態で自己紹介した。

だが少女は自分の身体が命に関わる様な深刻な欠損しているというのに全くそれを気にした様子が無く、平気そうにしている。

一方のガレスはというと、手足が無い状態で目の前に転がってる少女の姿というインパクトに動揺を隠しきれない様子だった。


「ご丁寧にどうも、だけどそのー……手足が無くなっちゃってるけど……それホントに大丈夫なのかい?」

「ええ、問題ありません。私は『クオリア』ですから、身体欠けてもこの程度の欠損であれば……おおよそ八時間程で完全に再生出来るでしょう」

「えーっと、クオリア……ってなんだい?」


 オニキスは自分をはじめとしたクオリア・シリーズの情報が傭兵都市グラングレイの力で隠蔽されているという話を思い出した。

強大な戦闘力を持つクオリア達だが数で見るとオニキス含め八人しかおらず、それを社会的な立場で見ると戦闘力の高い個人でしかない。

マテリアル研究所は個人としてのクオリア達の安全や、またその強大な力を悪用されない為にグラングレイに情報の隠蔽を依頼したのだ。


「あっ、そうですよね。えーっと……クオリアっていうのは、一言で言うと『鉱物生命体』ですね」

「鉱物……石って事かい!?」


 ガレスも放浪生活でセカイを回りながら仕事をして、それなりに世の中を知ってはいると思っていたが、クオリアに関しては初耳だった。


「そうですね、厳密には『生物が身体の一部に鉱物を作り出した存在』ではなく『キメラ化の技術によって生命体化した鉱物』です」

「つまり哺乳類じゃなくて生きている無機物って事だよね?……なんかよく分からないけど、すごいんだな……」


 ガレスはクオリアシリーズなんて名前を聞いた事がない事について若干不審に思ったものの、深くは突っ込まない事にした。

必要の無い藪を突いて、わざわざ蛇を出す様な真似をする必要もあるまい……特に初対面の相手に対しては。


「そんじゃ改めて……俺はフリーランスの傭兵をやってるガレス・ギャランティスだ、よろしく」


ガレスは自分のバイクを駐車してある方を指さした。


「向こうの道をたまたま通りかかったんだが……周りは燃えてるし、向こうから君が倒れてるのを見えたから、黒焦げになった人が倒れてるのかと勘違いしてしまった」


ガレスは頭を下げて短く「早とちりをしてしまったみたいで、申し訳ない」と謝った。


「あ、いえ……こちらこそいらぬ心配をかけてしまったみたいで……すみません」


オニキスもガレスに釣られて謝る、ここでガレスが話題を変えた。


「ところで、これからオニキスさんはここで体が再生するのを待つのかい?」

「ええ、そうなりますね」

「よかったら近くの街まで送るよ、ここで寝転がったままは危ないと思うぜ?勿論無理にとは言わないが……」


 オニキスは満月の様な瞳でガレスの顔をじっと見つめた。

ガレスはその瞳に内心を見透かされる様な気がして少し落ち着かなかったものの、特にやましい気持ちも無かったのでオニキスと同じ様にガレスもまた、真っ直ぐにオニキスの目を見つめ返した。

幾ばくかの沈黙の後、オニキスが表情を和らいだ。


「……そうですね、ご好意に甘える事にします。ありがとうございます、ガレスさん」

「ああ、気にしないでくれ。おせっかい焼きなのはどうにも性分でさ……それで、えーと、そのまま運んじゃっていいのかい?」

「ええ、構いませんよ。それでは、よろしくおねがいします」

「それじゃ失礼して……と」


 ガレスは出来るだけ慎重にオニキスを抱きかかえると、自分のバイクへと向かって歩き始めた。

抱きかかえたオニキスの体の表面は、ひんやりとした石の様な触り心地だったが不思議と柔らかさがあって、ヒトと触れ合っているのと同じ温もりを感じる事が出来た。


(うーん……触った感じはやっぱり石に近い、のか……?)


 ガレスは自分のバイクの横まで来るとオニキスを一旦地面に下ろしてからキャスターを起動させて、亜空間からサイドカーを取り出した。

それから慣れた様子でバイクとサイドカーと繋ぎ終えるとオニキスを優しく拾い上げてそこへ乗せてから、オニキスの体を毛布で包んだ。


「とりあえずはい、コレ」

「別に寒さは感じていないから大丈夫ですよ?」

「いや、裸の人横に乗せてたら俺が変態だと思われちゃうだろ?それにバイクは風にあたるから走ってる内に冷えてくるよ」


そう言いながらガレスはバイクのエンジンをかけた。


「じゃ、出発しよう」

「これからどこに向かう予定ですか?」

「そうだな、俺はビッグスカボロウに向かう途中だったんだ、そこで良いかな?」

「はい、問題ありません。よろしくお願いします」


 オニキスの居た地点からビッグスカボロウまでは、大体バイクで半日位かかる距離だ。

その道中、二人はぽつりぽつりとぎこちない世間話をしたりしていた。


「そういえばオニキスさん、服の替えとか持ってるのかい?」

「いえ、特に無いですが」

「……ああそうか、全部燃えちゃったのか」

「いえ、普段から着てませんので」

「……え?」

「え??」


 ガレスは耳を疑った。

今聞いた通りの事が事実なら、オニキスは普段からスッポンポンで過ごしているという事になる。


「……え?なんで服着ないの??」

「我々クオリアは一般的なキメラのヒトと違って、自分の体を『物理的に削って』特殊能力アブノーマリティを使って戦いますから、戦う内に服飾品の類はすぐに外れてしまうのです。今は足がまだ再生しきってませんので、例えば私が靴を履いていた場合、それは荷物になってしまいますよね?」


ガレスは釈然としてない様子で首を捻った。


「うーん?それなら仕方ない……のか?いや、やっぱりおかしいって!」

「大丈夫ですよ。私達クオリアは一般の方とあまり関わる機会もありませんから」

「それはそうかも知れないけどさ……その、恥ずかしくないのか?」

「いえ、特に」

「そうかぁ~」


 いくら本人が恥ずかしく無いとはいえ、今から向かう金融都市ビッグスカボロウは大都会、オニキスを裸のままでうろつかせるのはどう考えても不味い。

とにかくまず服を着てもらう必要があるが……やはりその服の代金はガレスが支払わなければなるまい。


(フリーの傭兵の心許ない懐具合には痛い出費だぜ……)

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