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ハジマリノヒ  作者: うぐいす
星のクオリア
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星のクオリア2

 第三次世界大戦後に地球上の陸地が集まって出来た今のセカイで唯一の大陸、ネオパンゲア。

その東部に広がる広大なオーストラリア平原。

視界を遮るものが何も無く、乾いた風が吹く広大な平原を通る一本道を大型のバイクが一台、走っていた。

乗っているのは大柄な男だった、キメラ化の影響なのか頬の辺りが赤い鱗が生えていて、どことなく歌舞伎の隈取りの様にも見える。

革の帽子にライダーゴーグル、革のジャンパーにジーンズという、長い旅に適した丈夫で機能的な服装をしていた。

彼の名はガレス・ギャランティス、世界を旅しながらフリーランスの傭兵をしている男だ。

風が少し冷たく感じるが空は晴れ渡っており、風の冷たさを暖かい日差しが良い塩梅に中和してくれている。

ガレスは欠伸を噛み殺しながら、油断して寝てしまわない様にと気を付けながら荒野を進む。

しばらくすると前方に違和感を感じたガレスはバイクのスピードを緩めながらゴーグルを手で額まで持ち上げて、目を凝らして注意深く前方を警戒した。

前方の見晴らしのいい一本道の先から広範囲に煙が上がっているのを見つけたからだ。


(揉め事か、野火か?もしかしたらモッドかも……さて、どうしたものか……)


 今から来た道を引き返して最寄の街でも戻ると、早くて半日程かかってしまうから出来れば引き返したくはない。

かといって身の安全に対して横着すれば簡単に命を落としかねないのが今の時代である……なので、このまま進むのは躊躇われる。

ただの火事なら問題は無いが、野生化した生物兵器『モッド』の仕業だったら面倒だ。

最悪なのは野盗が罠を張っているとか、ヒトが関わっている場合だ。

今のセカイでは七大都市の勢力圏以外の土地は全て治外法権であり、街の外ではヒトとの関わりを極力減らすのが一番のリスクヘッジになる。

考えて考えすぎという事が無いのが今のセカイだ。


(近くの町に避難するのが無難で安全だが……ここからだとジュラルバームか?だけど金がなぁ……)


 むさい男の一人旅、どのみち金が無くなれば野垂れ死んでしまうだろう。

しかしガレスは傭兵稼業で腕に覚えもそれなりにあるという事で、とりあえず様子を見ながら進んでみる事にした。

幸い道路は破損しておらず、今の所何事も無くガレスは進んでいた。

しばらく慎重にバイクを運転していると、道路から50メートル位離れた焼け野原の真ん中に誰かが倒れているのが見えた。


(あれは……まさかヒトか?)


 関わらない方が身の為なのはガレス自身もわかってはいたが、それでも彼はバイクを路傍に停めると、倒れているヒトの所へと歩いて近づいていく。

近付くにつれ倒れているヒトの有り様が段々とハッキリと見えてきてしまい、それを間近でみたガレスは思わず呟いた。


「かわいそうに……」


 倒れている誰かは炎に焼かれたのか全身が真っ黒に炭化してしまっていて、しかも右腕と両足が欠損している状態だった。

キメラが一般的になってからというもの、外見的特徴からヒトを判断する事はあまりアテにならなくなったが、さらに遺体を観察する。

遺体は体つきからしてまだ成熟したヒトとは言い難く、体つきからして小柄な女の子といった所だろう。

服は火で燃えてしまったのか、見に着けている物も何も無く、少女は裸で仰向けに倒れていて周囲に遺品らしきものも無い。

こういう場合、今のセカイではもうしてやれる事が無くなってしまう。

警察がいないのだから通報も出来ないし、遺体を街に運んで行っても住民でも無い者の死体になんて、街は何もしてくれないだろう。

そうなればもう、個人に出来る事は一つだけだ。

放っておけば野の獣達がそのうち食べにやってくるだろうが、少女の遺体がそうして処理されてしまうのは、あまりにも哀れだ。


(名前も知らない赤の他人だが……せめて埋葬位はしてやろう)


 ガレスはそう思い、キャスターからスコップを取り出して付近の適当な所の地面を掘り始めた。

丁度良い大きさの穴を手早く掘り終えたガレスは遺体に近づくと、それ以上遺体が損傷しない様、細心の注意を払いながらそっと抱き上げた。


「んっ……」


 ガレスが墓穴まで少女を運ぼうとした瞬間、なんと死体だとばかり思っていた少女が声を発したではないか!


「うおわっ!?」


 ガレスは驚きのあまり少女の身体を腕から落としそうになった。

今更だが、ガレスは少女の体に違和感を覚えた。

周囲の状況のおかげですっかり勘違いしてしまっていたが、少女の体は炭化したにしては不自然に綺麗過ぎるのだ……まるで最初からそうだったみたいに。

ガレスが慌てている内に少女はゆっくりと目を開いた、闇夜に浮かぶ月に似た、神秘的で透き通った黄色みがかった色の瞳。


「何をしているのですか?」


それが二人の出会いだった。

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