星のクオリア1
マテリアル研究所
学園都市ジュラルバームの郊外にある無限のエネルギーを持つとされる謎の隕石『メタトロン』を研究する為の機関。
研究者が多いという理由からジュラルバーム勢力圏内にあるが、スポンサーは傭兵都市グラングレイである。
超常現象を操るアブノーマリティを持つ鉱物生命体クオリアシリーズを造り出した。
・・・
「……何者かが、メタトロンの保管庫に侵入しています!」
マテリアル研究所の中央制御室に緊迫したオペレーターの声が響いた。
メタトロンはマテ研の研究の要であり意義そのもの……すぐさま研究所内に警報が鳴り響き、施設内の分厚い隔壁が閉じられた。
マテ研の警備体制はその重要度から、一般的な研究施設とは段違いの厳重な警備体制をしており、その中央制御室ともなれば重要な軍事拠点の司令部と比較しても遜色ないレベルだ。
メタトロンは厳重に保管されており、マテ研の所長でさえも何重もの認証を経ないと辿り着けない程だ。
何せ物が物なので、万が一もあってはならない。
それほどまでにメタトロンという隕石は重要視されており、同時に危険視されている。
幸い侵入者はすぐに特定され、その姿が管制室のモニターに映し出された。
そこに映っていたのは漆黒の肌にゆるいパーマの緑髪をショートボブにしている少女だった。
彼女はメタトロンから生まれたキメラ鉱物生命体であり、マテリアル研究所の最高戦力である『クオリアシリーズ』の八人の内の一人、クオリア・オニキスだった。
「そんな……クオリア・オニキス!!一体何故彼女が……!?」
身内の犯行であると判明した管制室の面々は大いに驚愕し、混乱状態に陥った。
自分達が作り出した最高戦力、クオリアシリーズが何の前触れもなく、突然裏切ったのだ。
現在、オニキスを止められるであろう他のクオリアシリーズは皆出払っていて、今この場に彼女の暴挙を止められる者は居ない。
施設内の放送を使って職員が必死にオニキスに呼び掛ける。
「クオリア・オニキス!貴方は自分が何をやっているのか、わかっているのですか!?貴方は今、セキュリティレベル5の立ち入り禁止エリアに侵入しています!これは極めて重篤な違反行為です!大人しくこちらの指示に従い、即刻その場から退去しなさい!」
職員の必死の呼びかけも空しく、オニキスはチラリと一瞬監視カメラの方を見ると『能力』を使ってそのままカメラを破壊したらしく、管制室の映像が途切れてしまった。
「クソッ!一体どうなってるんだ!?」
管制室が大混乱する中、その中で唯一人、黙したまま厳しい表情でモニターを見ている男がいた。
男の名はマーカス・ストーンランド。
このマテリアル研究所の創始者にして所長を務めている老年の男だ。
彼は苦虫を噛み潰した様な厳しい表情のまま、この事態に対応するべく最初の指示を出す。
「……他のクオリアに緊急招集をかけろ、クオリアを止められるのはクオリアをおいて他に無い!」
それだけを部下に伝えると、マーカスは再び睨め付ける様にモニターを見ていた。
・・・
彼女が掌から生成した黒い玉の様なエネルギー体を壁に当てるとバツン!という大きな音と共に壁に抉られた綺麗に円形の穴が開いた。
戦艦の砲撃でも傷も付かない筈の防御力を誇る分厚い隔壁も、重力を操るクオリア・オニキスにとっては紙くず同然だ。
どんなに固い物体も、空間ごと潰されれば硬さは意味を成さない。
重力球が通った隔壁には、ヒト一人が通れる程度の穴が次々と開いて行き、それが研究所の外まで続いていた。
「……よし、行きましょう」
オニキスは緊張した面持ちで気合を入れ直す様に呟いた。
クオリアの自分がメタトロンを持ち出したとなれば、追手に差し向けられるのはオニキスの兄弟達であるクオリアシリーズだろう。
自分と互角以上の戦力を持つ兄弟達の追撃を躱しながら役目を果たさなくてはならない……それが並大抵の事ではないというのは想像に難くない。
オニキスは研究所の外に出ると星空を見上げて飛び立った。