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ハジマリノヒ  作者: うぐいす
セカイのハジマリ、世界の終わり
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ほしをみるひと2

 一人の少年と一個の石の出会いから、早いものでもう十五年の時間が流れた。

何億年と宇宙を旅したメタトロンからすれば十五年なんて、ちょっとした午睡程度の時間でしかなかったが、まだキメラ化による延命すら出来なかった時代の普通の人間であるマーカスにとって十五年は人生の内の何分の一かという、それなりに長い時間だった。

泣き虫だった田舎少年マーカスは、すっかり青年と呼べる年齢まで成長していた。

しかし時間が経とうともマーカスとメタトロンの関係は相変わらずで、今もメタトロンは友人としてマーカスの家に居候しながら本やネットで情報の摂取や娯楽の消費に勤しんでいる。


・・・


「困った……」


 溜め息混じりにマーカスが呟いた。

マーカスの父親が病気で体を壊してしまい、長期入院する事になったのだが……自宅から病院が遠い為、家族が見舞いに行くにも宿が必要になる。

それが高額な医療費と相まって、とにかく治療にお金が掛かるのだ。

そんな時だというのに、よりによってマーカスは絶賛失業中であり、今は貯金を切り崩しながら母のパート代でなんとかやりくりしている状況が続いている。

どうにか新しい仕事にありつきたいが、最近はどこも不景気な上にロボットやAIの普及によって人間の働き手というものの需要が無くなっており、なかなかに厳しい。

携帯端末で職を探しているマーカスにメタトロンが声を掛けた。


「金銭は何時の時代も人間にとって悩みの種なのだな」

「全くだよ、金持ちは贅沢し放題だっていうのに僕らは医者に掛かる金にも苦労する有り様さ、不公平で嫌になる」

「マーカス、話がある」


 改まった声色のメタトロンを珍しく思い、マーカスは携帯端末の求人情報を閲覧するのを切り上げて顔を上げた。


「なんだい?改まっちゃって……」

「私が君の父親の医療費を稼ぐのを手伝おう」

「メタトロン……気持ちは嬉しいけど、それはダメだよ」


 確かにメタトロンには不思議な力があり、その力を使えば楽にお金を稼げる方法があるかもしれない。

勿論マーカスもそれは知っていたが、メタトロンの力に頼る事をマーカスは決して良しとしなかった。


「これは僕の問題なんだ、自分で解決しないと……なんというかな、君と対等で居れなくなっちゃう気がする。それはどうしても嫌なんだ……まあ失業中の僕がこんな事言っても強がりにしか聞こえないだろうけどさ」


マーカスの言葉にメタトロンは諭すように語り掛ける。


「キミがこういったやり方を好まないのは私もよく承知しているが……だが聞いてくれ」

「……わかった、そこまで言うなら」

「五年後に地球全土を巻き込んだ第三次世界大戦が起こる……もうそれは誰にも止められない」

「えぇ……それホントかい?」


 確かに今も紛争や内戦が起こっているが、平和な国で育ったマーカスにとって戦争とは映画等のフィクションのもので、とても現実味を感じられない話だった。


「……次の戦争で、少なくとも人類の八割が命を落とすだろう」

「八割!?」


 突拍子も無く、また途方も無い数字にマーカスはメタトロンの言っている事が信じられなかったので、冗談を言っているのかと考えた。

現在九十億いる人類の内、約七十億が死ぬなんて言われてすぐ信じれる者は居ないだろう。


「そんなバカな……ちょっと信じられないよ」

「言い方が悪かったか……すまない。私が介入しなかった場合、この家に住む者は皆、戦争に巻き込まれて死ぬ……君の父親も、マーカス、勿論君もだ」

「そんな……」

「私を信じるのか、信じないのかは君に委ねよう」


 衝撃的な予言を告げられたマーカス青年は今まさに人生の岐路に立たされていた。

すなわちこのちょっと変わった同居石の言葉を信じるのか、信じないのか。

少しだけ考えた後、マーカスはメタトロンを信じる事にした。

気が付けば長引いていた同居生活の中でメタトロンがどういうヤツかという事はマーカスはよく知っているし、今回の提案がマーカスの為を想っての事だと察せられたからだ。


「……わかった、君を信じるよ」

「ありがとう、それで金を稼ぐ方法だが……」

「……ちょっと待った、そりゃ今だってお金に困ってるし、いつの世もお金が大事だってのはわかるけど世界大戦とお金を稼ぐ事って関係があるのかい?」


 メタトロンが言う事には、これからの安全は立場や地位で決まるらしい。

これから起こる戦争で重要視される立場の人間は政治家、軍隊、研究者の大体三種類であるという。

重要な人間であれば安全な地域に住めるし公的にも護られるが、そうでない多くの一般市民にとって、これから起こる戦争は凄惨なものになるという話だった。


「……でもお金を稼ぐなんて一体どうするつもりなんだい?超能力を使ってカジノで一発当てるとか?」

「『悪銭身に付かず』とよく言うだろう?急に大金を得た人間がどういう末路を辿ったか、ネットでも使って少し調べてみるといい」

「冗談だよ、言ってみただけ」

「……それに戦争が終わる頃には現存する貨幣は価値を喪失しているからな」

「マジで……それって人類滅びてないよね?」

「それはまぁ……微妙な所だな。言葉にしようとすると時間がかかってしまうから、君にも私が見たイメージを共有しよう。少し目を閉じてくれ」

「……緊張するなぁ」


 マーカスが目を閉じると、メタトロンからのイメージが頭に流れ込んできて、それが瞼の裏に映像を映し出す。

獣性細胞によってキメラと化した元人類、人工的に造られた人間としてのキメラ、天変地異で一つになった大陸、野生化した生物兵器群……最後に現れた八匹の竜。

一気にそれらを見せられたマーカスは混乱し、しばらく絶句し放心状態になっていた。


「では私からの提案の話をする前に、先ほど言った安全を得られる三種類の職業がお前に向いているかどうかというのを順に見ていこう。先ずは政治家だが……これはほとんど世襲制と断言できる、よって望み薄だな」

「そうだねぇ……自慢じゃないけど、ウチはパパもママも普通の小市民さ」

「次に軍隊だが……頭も運動神経もパッとしない、どんくさいお前は絶望的に才能がない」

「その通りだけど傷つくなぁ……でも確かに訓練を三日で投げ出す自信はあるよね」

「最後の研究者……これが一番可能性がある、実際に知識や技術が無くても誤魔化しやすい」

「論文なんて大学の卒論以来全く書いてないけど……大丈夫かな」

「残念だが戦争が起こるのはもう避けられない……やるしないぞ」

「わかったよ……でもイマイチ話が見えないんだけど、お金が儲かる研究って一体なんだい?」

「私だ」

「え?」

「私を研究すればいい」

「そりゃあ君の力が解明出来たら凄いかもしれないけど……」

「どうした?何か問題があるのか?」

「いや、問題はないけどさ……研究対象の君から協力してもらって研究するというのは出来レースというか……相当なズルじゃない?」

「別に法律には違反してはいないぞ。それに実力が伴っていなくても研究の成果さえあれば、社会的地位は得られる」

「そりゃそうだけどさ……詐欺だよねこれ?」

「さてマーカス、これから少々忙しくなるぞ」


 こうしてマーカス・ストーンランドは謎の隕石の研究者として新たなスタートを切る事になった。

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