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ハジマリノヒ  作者: うぐいす
セカイのハジマリ、世界の終わり
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ゼノカリオン9

 捕虜収容所と人体実験を行う研究所と生ゴミ処理施設が併設されているこの総合施設の所長を勤める昆虫系キメラの小男、ドリィ・ハーディエスは研究者としての顔を持っている……というか元々研究者が本業だ。

戦時中の人手不足という理由で総合施設の所長をやらされているだけだ。

しかし単に押し付けられただけという訳でもなく、この施設はドリィ自身の研究にとって有意義な場所だから甘んじている。

ドリィの研究はキメラやモッドの人工生物の亡骸を再利用しようというもので、平時であれば彼の研究は倫理的な問題から決して社会に受け入れられなかっただろう。

しかし長引く戦争が人々の倫理を麻痺させた事、キメラやモッドといった人工生物に対する法整備がまだ追い付いてない時代が、死体への冒涜とも言えるドリィの研究を受け入れてしまった。

こうしてドリィの研究の場として敵味方のあらゆる生物の死体が集まり、尚且つそれを心ゆくまで弄り回せる総合施設がドリィに与えられた。

捕虜収容所内にある自身の研究室でドリィ・ハーディエスは今、長年の研究の成果を今まさに得ようとしていた。


「遂に……遂に完成しましたよ!」


 後は起動を行い、その性能を確認するだけだ。

興奮を抑えきれない様子のドリィは鼻息を荒くしながら、しかし逸る気持ちを抑えつけて慎重に、次の工程に取り掛かろうとしていた。

ここで焦ってミスをしては長年積み上げてきた研究が水の泡になってしまう。

そんな下らない失敗はとても耐えられない、怒りで心が壊れてしまう。


(完成はもうすぐそこなのです……慎重に、慎重に……!)


 ドリィが自らの興奮を抑える為に深呼吸を繰り返していると、内線がピリリリッ!ピリリリッ!と五月蝿く鳴り出した。

呼び出し音の種類から緊急のものだと判別できるが、ドリィは自分の都合もお構いなしに一方的に呼び出してくる警報やサイレンのビープ音が下品で大嫌いだった。

それに加えて自分の研究を邪魔される事はドリィの中でもトップ3に入るほど腹の立つ事で、彼の怒りを一気に沸点まで押し上げるには十分だった。

ドリィは乱暴に受話器を取ると、相手の用件もわからない内に開口一番で怒鳴りつけた。


「一体なんですか鬱陶しいッ!もし下らない用事だったらお前からバラしてやるからなッ!?」


 普段であれば所長であるドリィの一喝に所員は多少怯む筈なのだが、何故か今日は様子が違った。


「き、緊急事態です!所内で所属不明のキメラが暴れています!援軍を……!」


 だがドリィはお構いなしだ。

業腹な事だが、この総合施設の戦略的な重要度は低い。

そんな場所の警備兵なんかやらされている雑魚の命なんか、どれだけくたばろうがドリィの心には全く響かない。

社会的に見ても個人的に見ても粗末に扱って問題の無い、安い命だ。


「何の為のお前らなんですか!そっちで何とかしなさい!!!」


 だが他人から見てどんなに安物に映ろうが、自分自身にとってはかけがえのない、たった一つの命。

尋常では無いドリィの剣幕にも負けず、必死に食い下がり助けを乞う。


「ダメです!所内の戦力では歯が立ちません!このままじゃ皆殺されるぅ!!…ア、ア、アギャアアアアアア!」

「どうしました!?おい!?」


 流石のドリィも所員の断末魔には驚いた。

電話口の向こうの出来事で詳しい事はわからなかったが、あれは明らかに『普通の戦闘行為で殺された悲鳴では無い』というのは確信出来る。

続いて受話器の向こうから絶命した警備兵の声に代わって聞こえるのは、けたたましい笑い声と蹂躙されているであろう被害者達の悲鳴だった。

所内に配備されている戦力は、そりゃあ最前線には劣るが頭数も結構居るし、それほど貧弱という訳でもない。

しかしその戦力が役に立たないというのだから、現在この施設が相当な危機に晒されているのは間違いなかった。


「チッ!役立たず共が……所詮は内地勤務の警備兵、不測の事態が起こればすぐに泣きついてきて、このザマですか……本当に何の役にも立ちゃしない」


 せっかく完成した私の『作品』……無下には扱いたくは無いが、今は四の五の言ってられない状況らしい。


「さあ……起きなさい!私の可愛いシェオル!!」


 ドリィが手元のコンソールを操作すると目の前の巨大な培養槽の中の巨人がビクン!と反応した。

培養槽の中の排水が終わると、培養槽がゆっくりと持ち上がって中の巨人が歩み出た。


「ゴミ掃除に行きますよ……お前の力を見せ付けてやるのです!」

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