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ハジマリノヒ  作者: うぐいす
セカイのハジマリ、世界の終わり
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ゼノカリオン

 世界中がまだ第三次世界大戦の戦火に包まれていた頃……鬱蒼と茂る深い森の奥に潜む者達が居た。

某国のゲリラ部隊『ゲイズハウンド』

主な任務は敵部隊への撹乱や破壊工作、彼等の任務は過酷そのものだった。

援軍が見込めない過酷な自然の中でサバイバルを続けながら敵とも戦う日々……しかし派手な戦果は挙げれず、名誉は他の連中に持っていかれてしまう。

勿論そんな役割を皆嫌がった。

なので軍は誰もやりたがらない任務の為に使い捨ての駒となるキメラ兵を用意したのだ。

戦時中の頃は人類史に突然現れた『キメラ』という人間によく似た非人間、それでいて同時に元人間でもあるという奇妙な存在に対して、法律や世論は対応を決めかねていた。

医療によって人間がキメラ化した場合は勿論人間として扱われるが、人造人間として生まれたキメラ達にとっては、そうではない場合も多かった。

例えば、軍に造られたキメラ兵達は市民権を持たない為、非人道的な扱いを受ける事も日常茶飯事だった。

ゲイズハウンドの隊員達は試験管から造られたキメラである。

彼等は製造段階からゲイズハウンドである事を強制され、遺伝子操作によって必要な適性を詰め込まれて誕生した。

市民権を持たないキメラの遺伝子操作は倫理的な問題は無いとされ、例え死んだとしてもそれは殺人や死亡ではなく備品が消耗されたと認識される……という都合の良過ぎる建前のもとに運用されたが、それに異を唱えた人間はごく僅かだった。

戦時中は防衛力としてキメラ兵を持たなければ自分達の国が敵国に侵略されてしまう為『敵から身を守るには自分達もキメラ兵を量産して戦わせるしかない』敵の国と味方の国、双方がそう思っていた時代だった。

そうして戦争の道具として生まれたゲイズハウンドの隊員達は最悪な環境に置かれても、辛い役目を押し付けられても、自分達の使命に一切疑問を持たなかった。

頭の中身すらもゲイズハウンドとしてデザインされているのだから、それは彼らにとって『当然な事』なのだ。

ジャックという男は、ゲイズハウンドの一員として生まれた。

頭部がドーベルマンという強面のキメラではあったが、とても臆病な性格で戦闘にはまるで向いていなかった。

精神と肉体の性能に矛盾を抱えたまま、ジャックはゲイズハウンドとして任務にあたっていた。


・・・


 ゲイズハウンドに援軍は無いが手厚い補給は定期的に受けていて、その補給の中には嗜好品や娯楽が含まれている。

軍は過酷な任務にあたる隊員達の要望に応えて望むものを与えていた。

それは人道的な理由では無く、そうした方が戦力として長持ちするという実験の結果が出ていたからに過ぎなかったのだが、それを理解した上で隊員達は補給を楽しみにしていた。

そこでジャックが欲した娯楽は『チョコレート』だった。

カカオ豆を原料としたお菓子……では勿論無くて『チョコレート』というのは通称であり、実際にはペースト状に固めた薬品の固形物の色が、なんとなくチョコレートに似ていたからそう呼ばれている。

このチョコレートの楽しみ方は金属板の上に乗っけたチョコレートの欠片を下から火で炙って、出てきた煙をストローを使って鼻から吸引するというものだ。

するとアラ不思議、日々のストレスは霧散し、この世の物とは思えない多幸感に包まれて酩酊状態になる。

それが只の逃避である事はジャック本人も重々承知していたが、それでもジャックにとってゲイズハウンドとしての日々は辛すぎた。


 そんな訳でジャックは今、チョコレートを使って『お楽しみ』の真っ最中だった。

特にテンションが上がるとか、疲れが吹っ飛ぶとかそういう派手さは無いタイプのチョコレートだが、体中がふわふわして気持ちがいい。

ジャックが自分のテントの中でボーっとしていると、彼のテントに来客があった。

テントの入り口から顔を覗かせたのはゲイズハウンドの女隊長、ロウディカだった。

茶色のショートヘアに犬耳、褐色の肌に暗い緑色のマント。

マントから覗く装備の中に混じって、数多くのベルトが沢山巻いてあるのが見える。

これは戦死した隊員達の形見をロウディカが身に付けているのだ。

目元にはクマがあるように見えるせいで、いつも不機嫌そうに見えるが、実際には情に厚く仲間思いの良い隊長である。

ジャックも信頼している人物だ。

ロウディカはテントの中に充満する臭いに少し顔をしかめた。


「ジャック……またやっているのか……程々にしておけと前に言っただろう?」


そんな小言も酩酊状態のジャックには届かなかった。


「アー……大丈夫ですよ、隊長、大丈夫……アー……隊長もどーです?」


ロウディカは軽く手を振って断った。


「いや、遠慮しておくよ。読みかけの本があるんだ……明日も任務だ、早めに寝ろよ」


 聞いているかいないかわからない状態のジャックに一声掛けると、ロウディカはテントを出て行った。


「アー……」


ジャックは相変わらずトリップしたまんまだった。

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