ドクと三人の助手4
「シィッ!!」
一番最初に仕掛けたのはエナだった。
蛇腹剣を暴走キメラに向かって振るうと、音速を超えた剣先がパァンという破裂音と共に蛇の様に刀身をうねらせながらキメラの片足に巻きつく。
動きが止まった暴走キメラを狙ってペパーが大口径の拳銃を撃ち、最後にヴィラが渾身の兜割りで仕留めに掛かる。
三人の長所を生かしあった鮮やかな連係だったが、それを身体の頑丈さだけで受けきってしまう暴走キメラも相当なもので、巻きついた剣をあっさり振り解いたかと思えば、飛来する弾丸は片腕を振るって弾き飛ばし、あろうことかヴィラの斬撃は額で受け止めてしまった。
そんな事をすれば普通のヒトなら脳天どころか身体が縦に真っ二つになってしまうだろうが、そうはなっていない。
暴走キメラの両腕と頭は黒く変色しており、それがおそらく暴走キメラの身体を硬質化させてる様子だった。
「アタシら三人がかりでこれかい、バケモンがよぅ……」
ヴィラはおでこで刀を押し返してくる暴走キメラのあまりのパワーに内心冷や汗を掻いた。
しかし獰猛な笑みを浮かべると、そのまま力を込めなおして刀を思いっきりキメラの額に押し込む。
さらにエナとペパーの二人もキメラの体を抑え込みにかかる。
「ガアアウァ!」
流石の暴走キメラもこれには拮抗するのが精一杯だった。
それを見てエナがすかさず通信端末でツェッペリンへ合図を送る。
「ドク!今です!」
「ようしよくやった!そのまま放すなよ……!」
ツェッペリンは短く答えると、転送装置の起動座標を暴走キメラへと合わせる。
転送装置が起動すると暴走キメラの身体が徐々に淡い光を放ち始め、それから間もなく数秒後に閃光と共にその場から消え失せた。
刀を支えていた暴走キメラが消えたので、ヴィラは刀に込めていた力でそのまま床を切りつける形になった。
ヴィラは柄まで床に刺さったままの刀から手を離すと、そのまま大の字に倒れた。
「あぁ~疲れた……でも出来るなら最後までやりあってみたかったねぇ」
「戦闘狂なら一人の時にやってくれよなー」
ヴィラが横目で二人を見るとエナがペパーの傷を診ている所だった。
そしてそのまま目を閉じて深呼吸した。
「別に大したことねーってば」
「いいから大人しくしてなさい……ハイ、これでよし」
簡単な処置を終えてエナは立ち上がった。
ついでにペパーのおでこにデコピンをかます。
「いてぇー!!」
ペパーが自分のおでこを両手で抑えた時、ビリッと何か布の様なものが破れる音がした。
「ん?」
ペパーの上着からバラバラとウノのカードの束がバサリと零れ落ちた。
「…………」
「…………」
嫌に長く感じる沈黙の後、エナが口を開く。
「……なんですかこれは?ねえ?」
裏返った声でペパーが答える。
「……やだなあ、そんな目で見ないでよ!よ、予備のカードだよ?なあヴィラ!?」
エナが笑顔になるとペパーも釣られて笑顔になった。
エナはそのままの笑顔で宣告した。
「二人共今日ご飯抜き」
「……いやちょっと待った!なんであたしまで!」
目を閉じて一休みしていたヴィラはカッと目を見開いて反論した。
「そうです姉貴ィ!奴もグルですぜ!」
ペパーは最早ここまでと、ヴィラを道連れにする気だ。
ぎゃーぎゃーとうるさい三人組を別室のモニターから見ていたツェッペリンは呆れ顔だ。
「うるせえ奴らだ」