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ハジマリノヒ  作者: うぐいす
セカイのハジマリ、世界の終わり
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ドクと三人の助手

 償いの日に起こった類を見ない程大規模な地殻変動によって、地球上の陸地は七大都市の内六つがある巨大な大陸『ネオパンゲア大陸』と、その周囲ぐるりと取り囲む様にある点在する群島、通称『ユーラシア諸島』に分かれた。


・・・


 青い空、白い砂浜、照りつける太陽……ここはユーラシア諸島からも外れた、およそヒトの住む場所から最も離れた絶海の孤島、いわば名も無き世界の果て。

楽園の様に美しい南国の自然風景の中に、周囲の風景に全く溶け込む気がない建築物がおっ建っていた。

直径で100メートルはある巨大な髑髏に鋼鉄の尖塔がいくつも建っているその建造物は、まるで子供向けのヒーローアニメに出てくる如何にもな『悪の本拠地』そのものだ。

ここは嘗て『空間の魔術師』と呼ばれた男、グラーフ・フェルディナント・ツェッペリンの研究所である。

ツェッペリン博士は償いの日以降、ヘルメス博士と同じく表舞台から姿を消した後、この研究所で様々な研究を行なっていた。

研究のテーマに一貫性や実用性は一切無く、ただただ彼が楽しむ為に研究をしている。

元々研究が好きなツェッペリン曰く、小学生が夏休みの宿題でやる自由研究、またはお父さんが趣味で休日に行うDIY程度の物らしいが、彼のいう夏休みの自由研究程度のものと言っても、それを理解出来るのはもう一人の天才、ヘルメス・タリスマン以外には存在しないだろう。

ツェッペリンにその気があれば、今すぐにでも世界を動かす力を彼は持っている。

多くのヒトビトにとって幸運な事に現在の彼にその気はないようで、今は邪魔者の居ない世界の果てで悠々自適の暮らしを楽しんでいるようだ。


「あーこれより新型の起動実験を行なう。各自第1研究室に集合して立ち会うように」


 館内放送で呼びかけるのは建物の主ツェッペリン。

戦時中の時の様にスーツに白衣といったまともな恰好ではなく、今はビーチサンダルにハーフパンツ、どぎついピンクのアロハシャツの上に白衣を羽織るという支離滅裂な恰好をしていた。

一見して何をしている人間なのかまるでわからないカオスっぷりだが……アロハ男爵とでも呼ぼうか?

ツェッペリンはマイクを切ると白衣の懐から煙草を取り出して火を付けた。

呼び出した三人の助手が彼の許に到着するまでに一服出来るだろうという思ったからだ。

天井に向かって大きく煙を吐いたツェッペリンはサンダルを脱ぐと、机の上に組んだ足をどっかりと乗っけて、助手達の到着を待った。

館内放送から5分程経った頃、研究室の自動扉がシャっと開いて黒いコスチュームの女の子が姿を現した。

黒い学生帽に黒い制服、黒いプリーツスカートに内側が真っ赤な黒いマント。

灰色の髪の毛に黒い獣耳で身長は平均的な高校生くらい、如何にも真面目そうな顔つきをしている。

彼女の名前はエナ。


「失礼します……って、ドク!お行儀悪いですよ!」


 部屋に入って来るなり開口一番でツェッペリンはその横柄な態度を注意された。

彼は助手達に「ドク」という愛称で呼ばれている。

いつからそんな風に呼ばれていたのかツェッペリンも助手達ももう覚えてないが、彼は以前から特に肩書きや呼び名には頓着しない性質なので、そのまま好きに呼ばせていた。


「……へーへー」


 ここで言い返しても碌な目に合わない(夕飯抜きとか)と知っているツェッペリンは大人しく足を下ろし、短くなったタバコを灰皿に押し付けて消した。


「……他の二人は?」

「ああ、大丈夫ですよ。もうすぐに来ると思います」


 そうこうしている内に再び扉が開いた。

次に入ってきたのは小柄な女の子だった。大体中学1年生くらいだろうか。

やはり彼女も黒ずくめでエナと似た格好をしていて、鍔広の帽子とポンチョの様なマントのおかげで、小さいマリアッチの様だ。

そして小さくて生意気なそのマリアッチは、部屋の中に居た二人銃口を向けて言った。


「ヘイヘイヘイ!鼻の穴を三つに増やされたくねえなら手を上げな!」


二人は手を上げなかった。


「……ちぇー、ノリ悪いでやんのー」


この膨れた小さいマリアッチの名前はペパー、ツェッペリンの助手その2だ。


「あとはヴィラだけか……また飲んだくれて寝こけてんじゃねえだろうな?」

「さっき見た時はちゃんと起きてましたけど……」

「ヴィラ姉なら酒取りに行ってから来るって言ってたよ」

「ここで飲酒する気かよ、だらしねえなあ……」

「ドクがそれ言います?」


 それから更に5分位経った時、またまた扉が開いて今度は大柄な女が入ってきた。

身長170を超えるツェッペリンよりも更に一回り大きい。

均整の取れた身体付きだが、モデルというよりはガッシリとしたアスリートといった感じだ。

彼女もまた他の二人と大体同じ服を着ているが、胸元は開けてベルトは斜めとラフに着崩している。

彼女が先ほど話題に上がっていた助手の最後の一人、ヴィラだ。


「うーす」


 彼女達三人はツェッペリンによって同じ細胞から造られたキメラ達で、三人とも皆イヌ科の動物の獣性細胞を発現している。

血の繋がりは無いが元になった材料が同じである為、姉妹と言って差し支えない間柄だ。

ヴィラの姿を見てツェッペリンは立ち上がった。


「……さて、じゃあぼちぼちはじめるぞ」

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