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ハジマリノヒ  作者: うぐいす
セカイのハジマリ、世界の終わり
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ヘルメスと娘

 償いの日以降、世界の混乱に乗じて表舞台から姿を消したヘルメス博士は深い森の中で一人娘のトロメアと二人静かに暮らしていた。

元々は緊急用のセーフハウスだったものを住居に改造して暮らしている。

これはヘルメスの大学からの親友であるツェッペリン博士の強い勧めで用意したものだ。


「お前なぁ……少しは自分の価値とか立場を考えろよ?俺達より無能な人間達が造った組織に自分の身柄預けるなんてどうかしてるぜ?いいから黙って持っとけ」


 セーフハウスを用意してくれた時、ツェッペリンはこんな事を言っていたが、今にして思えば彼はかなり前の段階から世界がこうなる可能性を予測していたのかも知れない。


 セーフハウスは一見するとこじんまりとした洋館なのだが、その中身はヘルメス博士謹製のロストテクノロジー級の魔改造を施されており、償いの日以降の生活水準で比較すると、セカイ的に見ても上位1%に食い込む程に快適な住環境と安全性を実現している。

まぁ、ロストテクノロジー級と言っても、それらの技術のほぼ全ては自給自足の生活をする為に用意されたもので、特に何か凄い事が出来るという訳では無い。

そんなスーパー秘密基地みたいな家がそう簡単に他の誰かに見つかるなんて事は無く、今の所ヘルメスとトロメアは静かで平穏な日々を送れている。


 償いの日より以前、特に戦争が始まってしまってからのヘルメスは仕事仕事&仕事さらに仕事と仕事漬けだったが、その生活は一変し、自給自足の為の畑仕事や家畜達の世話をしている時以外の時間は全て暇になった。

空いた時間には昼寝をしたり、本を読んだり、娘と遊んだりと今まで出来なかった事をして過ごしている。

慣れない暮らしに初めこそ戸惑いも感じていたヘルメスだったが、農業や狩りといった体力を使うある種原始的とも言える仕事タスクはヘルメスに新鮮な体験や感動をもたらし、気付けばすっかり森での暮らしを気に入っていた。


「こんなもんかな……」


 ヘルメスは林檎の収穫を終えると、慣れた様子で脚立を降りた。

背中に背負った籠には林檎の他にも数種類の野菜等が入っている。

娘のトロメアは母親が居ないせいか、家事等も積極的に手伝ってくれている。

特に料理が得意で、今日は背中の籠に入っている林檎をたっぷり使ったアップルパイを作ってくれると張り切っていた。

背中の背負った籠はそれなりに重いが、軽やかな足取りでヘルメスは帰路についた。


「おかえりなさ~い!」


 ヘルメスが帰宅すると娘のトロメアが満面の笑みで駆け寄ってきた。

見た目は大体10歳位で、透き通る若草色の髪の毛を腰の辺りまで伸ばしている。

その中に見える灰色のリボンの様なものは、よく見ると垂れた獣耳だ。


「ただいま」


 笑顔のトロメアに釣られてヘルメスも顔をほころばせると、優しくトロメアを抱き上げて、荷物を背負ったままキッチンへと向かう。

トロメアはヘルメスの背中の籠の中身を覗きこんで言った。


「大きいリンゴだね、きっと美味しいアップルパイになるわ!」

「だろう?パパもトロメアのアップルパイ、楽しみにしてるんだ」

「まかせて!」


ふんす!と鼻息を荒くしてトロメアはより一層意気込む。


「ああ、一緒に作ろうね」

「うん!」


 そうして二人は仲良くアップルパイを作り始めた。

この親子に欠けたモノなんて想像すら出来ない様な、満ち足りた幸せの光景がそこにはあった。

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