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ハジマリノヒ  作者: うぐいす
セカイのハジマリ、世界の終わり
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セカイのハジマリ

 それはまるで冗談の様な景色だった。

ゆうに地平線の果てまで見渡せる地面には山や谷といった一切の凹凸が無く、全てが白一色で統一されていて、純白には影によるくすみがひとつも無く、地平線まで見渡せる程広い視界の中でさえ、有機物無機物とわず動くモノは一つとして存在しない。

紫がかった空には雲は無く、彼方で弱々しく明滅する星々と、いやにハッキリと浮かんでいる青白い満月あるから、かろうじてそれが空だと理解出来る。

この非現実的な景色の中で月の存在だけが、此処が地球である事を物語っていた。


 突然、地面から音も無く一瞬で摩天楼を思わせる様な謎の石柱郡が現れた。

石柱群が現れるまでの過程があまりにも一瞬過ぎたので、地面から生えたのではなく瞬間的に現れたと言った方がしっくり来る。

そして石柱郡の中心にある一際大きい八本の柱の上に、それぞれ色の違う竜が八匹、まるで円卓を囲む様な形で向かい合って鎮座していた。

八柱の竜達の中で、初めに白い竜が口を開いた。


「えー……という訳でですね、昨日一日掛けて我々『ゲヘナ』がですね、文明を全て滅亡させたんですけども。それでつまりはこれからこの地球ほしをどうしていくのかというのをね、話し合おうという訳ですよ」


白い竜の言葉を皮切りに他の七匹も口を開く。


「このまま静かな方がいいわ、人間なんて居ても鬱陶しいだけよ」


取り付く島も無い様な物言いの青い竜。名は『離聖リセイ


「……流石にわしらだけというのは寂し過ぎやしないかねぇ?」


なんだか年寄り臭い茶色の竜。名は『坤帝コンテイ


「私は別にどっちでもいいよおー?それとも何か新しく創っちゃう?」


ぽやぽやした口調の頭の緩そうな緑の竜。名は『巽主ソンシュ


「僕もあんまり五月蝿いのはちょっと……」


何故か妙に気の弱そうな黄色の竜。名は『坎公カンコウ


「もっと愛が無いとダメよ!愛が足りないわ!」


自分達で破壊した世界の上で大声で愛を叫ぶ桃色の竜。名は『兌権ダケン


「なんでもいいから早く決めろよ!無限に時間があっても、それを無駄に使っていい事にはならないんだぜ!!」


せっかちで柄の悪い赤い竜。名は『震皇シンノウ


「…………」


無口な黒い竜。名は『艮領ゴンリョウ


最後に八匹の内でリーダー格でであろう白い竜……『天乾テンケン 』は、少し考えた後に他の七匹を見回しながら言った。


「まぁちょっと何言ってるか分からないのも居ますけど……多数決的にはこのままでは寂しいという意見が多い様ですね。あ、因みに私もこのままはちょっと退屈に感じますねぇ」


天乾は続ける。


「じゃあどうします皆?さっき巽主が言ったように新しい世界でも創ってみます?」


世界創造の案に坤帝が難色を示した。


「それは簡単じゃが……わし等が創ったんじゃあ、従順な奴隷みたいになりゃせんかのう?まとめて創ると同じ規格になってしまうし、一から個別に創るのは面倒じゃあ……」


坤帝の意見に兌権が同意した。


「……そんなの、何より愛が無いわ」


震皇が、そんな兌権に間髪入れずに突っかかる。


「ハッ!愛だとよ!愛ってなんだよ!?俺らが生まれて、世界が滅んだのもお前の言う『愛』の賜物ってワケか!?いやあ、すんばらしいねえ!なあ!?」

「愛を解さないなんてケダモノと一緒じゃない!そんなのダメよ!」


 兌権も負けじと震皇を睨み返した、両者は全く退く気配を見せない。

それを見かねた天乾がそれを宥めた。


「まあまあ、二人共少し落ち着いて……」


多少場の空気が重くなりかけた所で、それを知ってか知らずか巽主が呑気な声で言った。


「面倒って言ったら、文化を創るのもそうだよねー?昔在ったものを再現するのは簡単だけど、でもそれじゃあつまらないよねぇ~」


皆もう既に『人間を生かす、存続させる』という方向に考え出している様を見て、今まで静観していた離聖が口を開いた。


「ちょっと待ってよ皆、あんな奴ら、居たってどうせ碌な事しないわよ……自分達が全滅するまで戦いを止めない猿なんて本っ当に下らないわ」


それに対して坎公が遠慮がちに言った。


「でもさ……私達を造ってくれたヘルメスさんとグラーフさんも人間だよ……?」


それを聞いて震皇が大笑いする。


「アイツらはマジで天才だったが……アイツら以外の人類は皆バカだったよなあ!ギャハハハハハ!」

「私達を造り上げる力はあったけど私達を制御する権限は持ってなかったんだから、間抜けな話よね」


笑う震皇を見て天乾は言う。


「彼らは最初から私達を制御する気が無かった様にも見えましたが……まぁ、でもそこですよね。我々を生み出す可能性を持ちながら、制御出来ずに自滅の道を歩む……だからこそ面白いと思いませんか?」


したり顔の天乾に離聖が激昂する。


「もしかして娯楽として人間達を生かすって事!?それこそまるで人間みたいじゃない!?私達は完全な存在!娯楽なんて不要だわ!」

「確かにその通りですけどねえ、完全だからこそ『遊び』が欲しくなるというか……」


坎公が激昂する離聖の意見にそっと添えるように反論した。


「私もちょっとは楽しい方がいいな……あ、ホントちょっとでいいんだけど、そんなに沢山はいらないんで……」


離聖の怒りの矛先が遂に坎公へと向けられた。


「さっきから横でボソボソと……アンタ私に喧嘩売ってる訳!?」


あまりの剣幕に坎公は俯いてしまう。


「ひぇぁ、そういう訳じゃないのにぃ……」


 離聖のおたけび!坎公はすくみあがった! ▽

その傍らで、相変わらず空気を読まない巽主は好き勝手な事を言っている。


「でもどうせ生きていくなら賑やかで楽しい方が良くない?」


巽主の話に若干食い気味で兌権がまくし立てると、他の竜はちょっと引いて静かになった。


「楽しむ為には人間が必要で、人間が生きていく為には他の動物なんかも必要よね!何より愛って命が宿すものでしょう?」


 兌権のテンションの上がり方に震皇は心底うざそうな顔をしていた。

それを横目でスルーしながら天乾は軽く咳払いしてから宣言する。


「話し合いで出る意見はこんな所ですかね……それでは我々『ゲヘナ』はこれより地球と融合し、星を再生させると同時に星の運営者となる事を、ここに決定致します」


 こうして地球という惑星は、人間達が戦争の果てに生み出したゲヘナという竜達によって一日で滅亡し、滅んだ時と同じだけの時間でもって呆気なく再生する事になった。


「さあ、新しいセカイをはじめよう」


最後に天乾が言った言葉は、宣誓の響きをもって星に響き渡る。

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