エピローグ3 新月街の花屋
時が経つのは早いもので、二人の旅から、もう半年が経とうとしていた。
七大都市に核ミサイルが撃ち込まれるというニュースは発表当初こそ大いに世間を賑わせたものだが、今は皆、何ともない様な顔でそれぞれの日常を生きている。
プリデールからの受け取った報酬で、スゥは繁華街によくある中くらいの雑居ビルを新月街の中層に買った。
以前はピンクジャムのプライベートルームを事務所代わりにしていた何でも屋はビルの最上階に念願の事務所を持ち、ついでにピンクジャムの店自体もそのビルへと移転した。
バタバタとした引っ越しも無事終わり、新しい住処に慣れはじめた頃、スゥが開店後間もないピンクジャムで夕飯のナポリタンを食べていると、思い出したようにピンクジャムのママ、ステラがスゥに言った。
「そういえば新しいテナントの人、今日挨拶に来るってよ」
「……はぁ?初耳なんだけど?」
「こないだもちゃんと言ったよ!まーたアンタ、人の話聞いてなかったのかい!?……とにかくもうすぐ時間だからサッサとご飯片しなよ!」
「ったく、飯くらいゆっくり食わせてくれよ……」
スゥが自分の不手際を棚に上げてぶつくさ文句を言っていると、すでに件の客がもう店に来た様子だ。
内心若干ダルいなと思いつつも、スゥが客の方に目を向けると、その姿を見たスゥは食べているナポリタンが鼻から出る程驚いた。
そこに居たのは桃色に黒フリルのゴシックロリータのドレスに身を包んだ、金髪でくせっ毛のやけに鋭い眼光の女だった。
「プリデールか!?」
「貴方、相変わらずなのね……久しぶりね、スゥ」
そう言ってプリデールは薄く微笑む。
プリデールは二人で旅をした頃よりも少し険の取れた顔をしていて、若干雰囲気が変わっている様に感じた。
「なんか前より雰囲気変わったか?……まぁアンタの事だ、簡単にくだばるタマだとは思っちゃいなかったが、元気そうじゃねえか」
スゥもプリデールとの再会を喜んだ。
しかし今から新しいテナントの人と会うという約束があったのを思い出した。
「せっかく来てくれた所悪いんだが、丁度今から人と会う約束が……」
ここでスゥは気が付いた。
「ん?……もしかして新しいテナントのヒトってアンタの事か?え?アンタが店開くのか??一体何の???」
自分で質問しておいてだんだん混乱してきたのか、スゥの言葉が怪しくなる。
「何って、申請した通りお花屋さんだけど?……呆れた、貴方書類に目を通してないの?」
「花屋ァ!?アンタがぁ!?ハハハハハハハ!」
スゥは大笑いした。
「元殺し屋のお花屋さん!?冗談は服のセンスだけにしてくれよ!ハハハハハハハ!」
プリデールは笑顔のまま笑い転げるスゥをアイアンクローで黙らせた。
「よ・ろ・し・く・ね・!大・家・さ・ん?」
「いだだだだ!!テメェ!大家に対してなんてことをあだだだだ!」
完璧に極まったアイアンクローで遠のく意識の中、これから少し騒がしくなるかもなとスゥは思った。