かたつむりの観光客58
新月街から始まったセカイの七大都市を巡る二人の旅は、その始まりと同じく新月街が終点となる。
スゥの帰宅ついでにプリデールを街まで送って行くという事で自然とこうなっただけなのだが。
いつも通りスゥが車を運転し、スゥの客ではなくなったプリデールは助手席に座っていた。
新月街の天辺、地割れを大きく跨ぐように造られた土台の上に林立する歓楽街の街並みを見渡せる地割れの縁の路肩にスゥは車を停めた。
「今度こそ、マジでお別れだな」
「ええ、本当に色々ありがとう。楽しい旅だったわ」
「正直最初は得体の知れねえ奴だと思っていたが……気付けばアタシも楽しんでた。悪くない仕事だったぜ」
「じゃあ、元気でね。スゥ」
「またなんか手伝える事があったら連絡しなよ。勿論金は頂くがアンタの依頼なら少しまけてやってもいい」
「えぇ、ありがと」
そう言ってスゥは軽く手を振ると、車を出発させた。
バックミラーに映る小さく手を振っているプリデールの姿を見ながら思う。
(しかし大丈夫なのかねえ、アイツ……殺し屋廃業するとか言ってたが……)
スゥが持っている新月街の伝手を使えば、これからの生活の世話を焼く位は確かに出来るかも知れない。
しかしスゥはこれ以上プリデールにしてやれる事は無いと感じていた。
(やたらめったらに強ぇクセに、妙にボーっとしてる所があるからなあアイツ)
ハンドルを切り、新月街の中層へと向かう道路に入っていく。
(……ま、なんにせよ今のアイツには時間が必要なんだろうな)
スゥの車を見送ったプリデールがやがて歩き始めた。
今の所、目的地は決まっていない。
止まっていても仕方ないから、なんとなく足を動かして歩いている状態だ。
(……どこにいこうかしら?)
今まで『出来るから』という理由だけで楽な道だけを選んで来たプリデール。
これからは初めて自分で自分の歩く道を選んでいく事になる。
その結果、彼女がどうなるのかは正しく神のみぞ知るというやつだ。
(何か資格でも取ってみようかしら?)
やがてプリデールの姿も人込みの中に紛れて見えなくなった。
かたつむりの観光客 おわり