かたつむりの観光客57
プリデールの一撃で鎖の制御装置が停止するのと同時に、強力な電撃を食らう事になったロウディカの肉体は遂に限界を迎え、眼球、耳、鼻、口からブスブスという音を立てながら煙を吐いてうつ伏せに倒れ込んだ。
「終わった……か」
ロウディカが戦闘不能になったのを確認して、スゥがナイトルーラーの制御を補助のヌラリヒョンに任せると、プリデールの隣まで歩いて来た。
「おーおつかれ」
「ありがとう」
「いいって、結局これはアタシが好きで首を突っ込んだ事だ」
スゥはそう言いながら拳銃を取り出して、うつ伏せに倒れているロウディカの後頭部へと狙いを付けた。
意外な事に他人の命に無頓着な筈のプリデールが残った腕でスゥを制止した。
「……殺す必要はないわ、もう行きましょ」
「殺し屋のアンタがどういう風の吹き回しだい?アンタに恨みを持つ強者なんて、今ここで始末しておくのが安牌だと思うけどな?」
「貴方の言う通りかもね」
冷たい眼差しでスゥは銃のトリガーに指を添えた。
「きっとキリが無いのよ。このヒトをここで殺したら、いつか別のヒトが私を狙って来るのでしょうね」
「……おいおい、日和ったか?」
スゥはワザと挑発する様に言ったが、プリデールがそれを怒ったり不快に感じたりしている様子は見受けられない。
「そうよ。このヒトが私を恨む理由は全然理解出来ないし、今まで散々ヒトを殺してきた罪を償う気もさらさら無いけど……もう終わりにするわ」
「随分と都合の良い事言ってんなぁ……アンタがそのつもりでも、アンタに恨みを持つ連中にとっちゃ知ったこっちゃないだろ?そん時はどうするんだよ?大人しく殺されてやるのか?」
「私を殺しに来る事について文句を言うつもりは無いけど抵抗はするし、結果としてまた殺す事になるかも知れないわね……でも自分から誰かを殺しに行くのはもう辞めるわ」
スゥは銃を仕舞うとあっけらかんと笑った。
「はっはっは!じゃあ殺し屋廃業してもう無職じゃねえか!」
「そうねえ……そもそも殺し屋に向いてなかったのよ私、身体は完全に人殺しの為に造られてるんだけど……性格がダメね、向いてないわ私」
プリデールの恥じるでもない、悪びれるでもないその言い草がスゥの笑いのツボにハマった。
「ハハハハハハ!」
「…………笑い過ぎじゃない?」
「いやいやいやいや!アンタ今まで話してきた中じゃ一番おもしれえぜ!?」
「本当なら戦争が終わったあの日にちゃんと考えるべきだったのよね……今までやってきた事だから、楽だからなんて理由で殺し屋なんてやるべきじゃなかった」
一通り大笑いして少し落ち着いたスゥが質問した。
「じゃあこれから何して生きてくんだよアンタ?」
「それは今から考えるわ」
「……案外行き当たりばったりだよなアンタ……いや、それはお互い様か。ちょっとしたアフターサービスのつもりだったんだが、とんだ大盤振る舞いになっちまった」
「もう私お金持ってないわよ?無職だし」
「オイ、また笑わせようとすんじゃねえよw」
二人はロウディカに止めを刺さずにその場を離れる事にした。