かたつむりの観光客54
グラングレイ郊外の平原で手負いのロウディカと対峙したスゥとプリデール。
気力と執念だけで動いているといっても過言では無い状態のロウディカに対して、二人は苦戦していた。
じっくりと腰を据えて長期戦に持ち込めば確実に勝てるだろうが、プリデールは片腕を失っている状態だし、時間を掛ければグラングレイから援軍が来てしまうだろう。
正直な所ロウディカなんて放っておいて早く逃げたいというのが二人の心境だったが、ロウディカのあの執念を目の当たりにして逃げおおせるなんて考えは楽観的過ぎると言わざるを得ない。
「とっととずらかりたてえ所だが…………アレに背を向けるなんておっかねえなあ」
「何か早い乗り物とか持ってないの?」
「あるにはあるが……碌な整備もされてねえ、走り慣れてる訳でもねえ街の外じゃあ常に最高速キープって訳にはいかねえよ、普通に事故るわ」
「じゃあやっぱりここでなんとかするしか無いわね」
「うおっと!!」
スゥが立っている所目掛けて飛来した鎖鎌をなんとか避ける。
プリデールの方にも鎖鎌の刃がいくつか飛んで来た。
「…………しかし厄介だなあの鎖鎌、一体どうなってやがる?あんなブンブンジャラジャラ鎖飛ばしまくっててなんでこんがらがらねえんだ?」
ロウディカの攻撃を観察してみると鎖は次々と飛んでくるものの、最初にスゥに飛ばして来た鎖は既に消えてしまっている事に気付く。
スゥは牽制を兼ねた反撃としてショットガンを発砲するが、何処からか出てきた鎖が束になって銃弾を弾く。
プリデールも回り込んで攻撃しようと試みるが、鎖に阻まれて上手く近づけずにいる。
「アンタのナイフのあの鎖、斬れねえか?」
「無理だったわ……あの鎖鎌、どうやらあれも私のナイフと一緒で戦時中に造られたものみたいね」
「マジかよ!んじゃあの妙な鎖の軌道はロストテクノロジーの成せる業ってか!?」
「おそらくね……でもあの鎖鎌の軌道、もしかしたらだけど『鎖鎌だけの機能じゃない』のかも?いくらなんでも動きが複雑すぎるわ」
「……そうか!何か他の装置で鎖鎌を制御してるって事か!」
言われてみれば納得できる話だ。
思えばロウディカの操る鎖鎌の軌道は度が過ぎている。
通常のヒトの手足と技術だけでは到底再現出来るとは思えない。
「それが分かった所でね……」
「うーん、仕方ねえかあ」
「上手くいくか分からないけど、ゼロ距離まで行ければ制御装置を止めれるかもしれないわ」
「近づいてどうするんだよ?」
「私の特殊能力を使うわ」
「なんだアンタ能力持ちか、持ってんねえ~」
「ちょっと発電出来るだけよ」
「うーん、仕方ねえかあ」
「……また。一体何が仕方ないのよ?」
「……いや、アタシも奥の手使うしかねえかなあって」
「そういうのあるんだったら早く使って欲しいのだけれど」
「バカ言え、奥の手なんて使わないに越した事ねえんだよ……じゃ、プランはこうだ。アタシがなんとかヤツの隙を作る、アンタが近づいて鎖の制御装置に一発カマして止める。OK?」
「わかったわ」
「決まりだな、ナイトルーラー(百鬼夜行)機動!」
その瞬間、スゥの周囲の空間が怪しく揺らいだ。