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ハジマリノヒ  作者: うぐいす
かたつむりの観光客
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かたつむりの観光客47

 プリデールは能力で姿を消しながらボーダレスナイツ本部のあるグラングレイ中心部まで移動していた。

精鋭部隊が3分で壊滅するという想定外過ぎる事態に連絡でも滞ったのか、街は静かで本部までの道も特に警戒されておらず、プリデールはあっさり本部前まで到着する事が出来た。

ボーダレスナイツの本部前の駐車場に差し掛かった所でプリデールが不意に歩みを止めた。

不意に姿を消している状態のプリデールに声がかかる。


「……止まれ、インビジブル」


 鋭い殺気に振り返ると、周囲の建物からゾロゾロと先程とは装備が違う兵隊達が姿を現した。

先程の精鋭部隊は正規兵といった制服に身を包んでいたのに対して、今姿を現した兵隊達はよりハードな実践を想定しているだろう迷彩柄の装備を身につけており、さながら野戦部隊といった出で立ちだ。

姿を消しても意味がない事を悟ったプリデールは能力を解除して姿を現した。


「……随分目がいいのね」

「お前の役割はもう終わりの筈だ……こんな所で何をしている?」


 兵隊達の中から隊長らしい女性が姿を現した。

灰色の髪に狼の耳、深いくまが刻まれた鋭い目元が特徴的なヒトだった。

身に着けている装備は他の隊員と大体同じだが、なぜか革のベルトを過剰な程に体に巻いていた。

プリデールは隊長の女性に見覚えがあった。


「……ロウディカ?じゃあこれが貴女の部隊なのね……確か、ゲイズハウンドといったかしら?」

「そうだ。お前がここに居るという事は……やはり奴等は失敗したか。手柄に眼が眩み、私の忠告を無視して力の差を省みず、戦いに臨んだのだから自業自得と言えばそれまでだが……安心したよ、相変わらずお前は何の躊躇いも無くヒトを殺すのだな」

「言っておくけど、約束を反故にしたのはそっちが先よ」


 ロウディカは獣の爪が幾重にも重なった様な歪な形状の鎖鎌をキャスターから取り出して構えるとプリデールへ向けて殺気を放つ。

それは以前にルルイエで感じたものよりも、もっともっと剥き出しで、濃密な憎悪が込められていた。


「これでやっと……アイツの、ジャックの仇を討つ事が出来る……!」


 後悔と自責の念、そして復讐に染まるロウディカの殺気を受けてプリデールはまた溜め息を吐いた。

裏切りに程では無いが、これもプリデールからすれば「またか」といった感じだ。

孤独に生きてきたプリデールからすれば復讐に燃える者達の気持ちは全く理解出来ないもので、プリデールからすれば勝手に盛り上がっている他人に無理矢理付き合わされて辟易するという感想しかない。


「復讐……そうね、確かに心当たりは多いけど兵隊の貴方と殺し屋の私、一体何が違うの?戦いに身を置くのなら、殺し殺されはお互い様じゃないかしら?」


静かに反論するプリデールにロウディカが激昂した。


「違うっ!!!我々ゲイズハウンドは人々を護る為に戦っている!金さえ積まれれば誰彼構わず殺して回るお前と一緒にするなッ!!」

「人々を護る為だったら、殺し屋を都合よく利用して殺す事も肯定されると?……随分詭弁がお上手なのね?」


 プリデールは敵を煽るように、わざとらしく鼻で笑った。

例え相手が手錬れだったとしても、冷静さを欠いてくれるなら楽に殺せる。

しかし先程の様に激昂するかと思われたロウディカは意外と冷静だった。


「違うな、お前への依頼は最初から全てお前を殺す為に私が仕組んだんだ……仕事の成否は元々どうでもよかった」


据わった冷たい目でロウディカがプリデールを睨み付ける。


「もう一度言うぞインビジブル……お前に殺された家族の仇、今こそ討たせてもらう!」


・・・


 ゲイズハウンドはグラングレイ最王手PMC、ボーダレスナイト所属の特殊部隊だ。

戦時中からゲリラ部隊として名を馳せていた彼らは終戦後の混乱期に部隊ごとグラングレイの元帥『レダ・ドラゴンブラッド』直々にスカウトされた。

彼らはたった一人でも先程の精鋭部隊と渡り合う程の戦闘力を有しているが、その本領は集団戦闘でこそ発揮される。

まるで曲芸の様にも見えるチームワークで、たった50人の部隊で百倍の戦力を倒しきれるという。

また隊員全員が研究所生まれで身寄りが無い為、部隊を家族と想い合う事で強い結束力を持ち、そういった信頼関係が戦闘での紙一重のチームワークを可能にしている。

もしそんな彼らの隊員の一人がやられれば、全員で復讐を行なうのは当然だと部隊員は皆言うだろう。


・・・


 プリデールとロウディカがボーダレスナイト本部前で対峙するより少し前……そこに設置された仮説テントの中でサンドイッチを片手にモニターを見ているヒトがいた。

鮮やかな赤い髪に片眼鏡で片翼、ボーダレスナイトの指揮官用制服に身を包んだ女性だった。

彼女の名前はブレア・カルトゥハ、ボーダレスナイトの佐官、階級は少佐である。


「はぁ~……すっごいね、なにアレ?」


ブレアはサンドイッチを頬張りながら、モニターに映し出される虐殺を他人事の様に眺めながら言った。


「アレこそがインビジブルですよ……上層部のお歴々はあの化け物を甘く見すぎなのです」


後ろの方同じ様にモニターを見ていたロウディカが緊張を孕んだ声色で答えた。


「我々の進言をまともに取り合って頂けたのは貴方だけでしたよ、感謝しております」

「いいっていいって、気にしなくて」


ブレアはヒラヒラと手を振ってロウディカを制した。


「ゲイズハウンドの隊長の君が『化け物』とまで言うんだ、聞かない訳にはいかないでしょ」


ここでブレアは何かを思いついたように付け加えた。


「……別に無理に聞こうとは思わないんだけど、あの殺し屋と何かあったのかい?」

「…………」


ブレアの質問にロウディカは少しの間沈黙した。


「……戦争末期の頃、我々が敵基地へと奇襲を仕掛けた時の話です。どこかから情報が漏れたらしく、敵の待ち伏せに遭いました。苦しい撤退戦でしたが……何とか無事に逃げれそうだと思った矢先……奴が我々の前に現れたのです」


上官の手前、淡々と話を続けようとするロウディカだが彼女を苛み続ける感情が、つい表情を曇らせてしまう。


「当時の私は未熟で、背後に迫る奴の攻撃に全く気付けなかった……気が付いた時には隊員の一人が私を庇って攻撃を受けたのです……その隊員は戦闘不能になり、私は彼を置いて逃げるしか出来なかった……」


 ブレアはロウディカとそれほど親しい間柄では無かったが、普段はあまり感情を表に出さないロウディカが、こんなにも感情的になっている姿を見て、少々驚いた様子だった。


「そうだったんだね……」


かける言葉が見つからなかったブレアは、慰める様に相槌を打つ事しか出来なかった。


「我々ゲイズハウンドは戦争の為に兵隊として生産されたキメラの集まりです。故に家族を知らない……だからこそゲイズハウンドは家族よりも強い絆で結束するのです」


ロウディカは静かな殺意を滾らせて言い直した。


「……これは私の『家族』の敵討ちなんですよ」

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