かたつむりの観光客45
スゥの怪我も無事治って、二人がルルイエを発ってから三日目の昼過ぎ、遂に二人の旅は最後の目的地に到着した。
今回の旅の最終目的地にして七大都市の最後の一つ『傭兵都市グラングレイ』だ。
グラングレイという名前は、かつてこの街が移動要塞だった頃の名残だ。
現在はグラングレイを移動要塞として運用する為の動力が失われて久しい。
起動させる方法が失われた事により放置されたグラングレイに、行き場を失った軍人くずれ達が身を寄せたのが現在の傭兵都市の始まりであるとされている。
遠くから見るグラングレイの街並みは移動要塞だった頃の面影を残しており、まだ今にも動き出しそうな迫力がある。
グラングレイの威容を目の当たりにしたスゥは口笛を吹いた。
「ヒュ~♪こいつぁ凄ぇ!生で見ると迫力が段違いだな!」
いつも通り本を読んでいたプリデールが適当に話を合わせた。
「そうねぇ……でも、こんな大きな物を動かす意味あったのかしら?」
「そりゃあ、男のロマンって奴じゃねえのか?女のアタシにゃよくわからねえけどさ」
「男のロマンねぇ……それって具体的になんなのかしらね?」
「さぁなぁ……」
旅を始めた頃の緊張感はどこへやら、二人は他愛も無い話をしながらグラングレイへ向けて進んでいく。
車窓から眺めるグラングレイの街並は粗野、武骨、男くさい……そんな印象を受ける街だった。
コンクリート製や移動要塞だった頃の構造と利用した建物がほとんどなのに、どこか西部劇の街といった風情がある。
軍隊崩れの荒くれ達が興した傭兵都市だからなのか、それともグラングレイが傭兵都市という性質上、力による実力主義が色濃いせいなのか……グラングレイがこういう風に発展したのは、もしかすると自然な事なのかもしれない。
この街が最終目的地ということで、二人は寄り道せず予約してあるホテルへと向かった。
プリデールの依頼の完了、二人旅の終わり……つまり別れの時が近づいていた。
・・・
そして今、部屋のテーブルを挟んで向かい合っていた。
「……確かに約束通りの額だ、まいどあり」
札束を数え終わったスゥが短く言った。
「おかげで快適な旅だったわ……ありがとう、スゥ」
素直にお礼を言われたスゥが、少々面食らった様子で頭をポリポリ掻きながら言った。
「おいおい……なんだからしくないな?」
「失礼ね……ヒトの事なんだと思ってるのかしら?」
軽口を言い合っていても二人の間に流れる空気は和やかで、どちらからともなく自然に笑い合う。
「……じゃあな、また何かあったら来なよ、アンタなら歓迎するぜ」
「その時はまたよろしくね、何でも屋さん……元気で」
そうしてプリデールは部屋を出て行った。
遂にスゥとプリデールは七大都市を全て回り終えて、たった今、報酬が支払われた……旅が終わったのだ。
スゥは大きな仕事を終えて気が抜けたのか、疲れがドッと吹き出したのを感じてベッドに倒れこんだ。
(仕事はここで終わりにして2、3日はゆっくりしてぇってのが正直な所だが……そうはいかねぇかもな)
スゥは眠りに落ちながら確信に近い予感を感じていた。