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ハジマリノヒ  作者: うぐいす
かたつむりの観光客
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かたつむりの観光客43

 とりあえず見栄を張ってみたはいいものの、スゥは不利な状況にあった。

最初に稼いだ距離はあっという間に詰められて、今はメゾーレが得意な近接戦を強いられている。


(旗色が悪ぃな……なんとか距離を離さねーと、あの威力の蹴り、一発でも貰ったらタダじゃ済まねぇ)


 スゥは攻撃範囲が広いショットガンでなんとか白兵戦を凌いでいるものの、人間相手ならいざ知らず、キメラを相手に散弾では牽制位にはなるが勝負を決める決定打にはならない。


(痛ぇのは御免こうむりたい所だが、背に腹は代えられねぇか……!)


 スゥはキャスターを起動させると手榴弾を大量に取り出した……というよりも自分の周囲にバラ撒いた。

サバイバーを無効化している以上、このままではスゥも爆発に巻き込まれてしまうだろう。


「チィっ!また下らない小細工を!」

「なんでもありっつったろうが!イチイチ文句たれてくるんじゃねぇッ!」


 流石に爆発に巻き込まれる事を嫌ってメゾーレが後方に飛び退いて距離をとった。

メゾーレは爆発に巻き込まれずに済んだが、バラ撒いたスゥはもろに爆発に巻き込まれた。

爆発の威力は結構なもので、地面に3メートル位のクレーターを残す程だった。

爆発の衝撃でスゥはかなりの速度で吹き飛ばされている様に見える。


「自爆……!?」


 メゾーレが目を凝らして吹き飛ぶスゥを見ると、車のエアバッグみたいなものを構えてるのが見えた。

しかしダメージは受けているらしく、エアバッグや服は防ぎきれなかった爆発でボロボロになり、飛散した破片で切り傷が出来てる所もある。


「まさか……距離を取る為にワザと爆発に巻き込まれた!?」

「アンタの蹴りを食らっちまうより、こっちのがいくらかマシなんでなっ!!」


 気付いた時には既に遅く、スゥは後方に吹き飛びながらエアバッグを仕舞うと、次に連装ミサイルランチャーを取り出してメゾーレに向けていた。

発射された小型のミサイルが次々にメゾーレへと殺到する。


「正々堂々と戦いなさいよ!この卑怯者!」


メゾーレは激昂し、スゥを罵った。


「アンタみたいなウマ女とドツキ合いなんてゴメンだね!ホラッ、おかわりだ!」


追加で放たれたミサイルの雨がメゾーレに降り注ぐ。


「な、め、る、なぁああ!」


 スゥめがけて跳んだメゾーレは身をよじって第一波を器用に避けた。

しかしそのままの体勢ではミサイルの第二波を回避するのは不可能に思えた。

その時、メゾーレはミサイルの内の一つを空中で踏みつけて、強引に軌道を変えて再び跳んだのだ。

数発食らったものの、遂にメゾーレはスゥに肉薄する事に成功した。


「今までの分、お返ししますわッ!」

「……なんだとっ!?」


 メゾーレは体を大きく捻ると、そのまま渾身のローリングソバットをスゥの腹部に叩き込んだ。


「がっ……はぁっ……!?」


 スゥは一瞬の内に肺の中の空気を全て搾り出して吹っ飛んでいった。

公園の木に激突し一本目、二本目、三本目の木がバッキリ折れた所でようやく停止した。

ぶつかる瞬間にエアバッグを展開させて幾分か衝撃は和らげたが、スゥの受けたダメージは深刻だった。

ふらつく足に力を入れて、なんとか立ち上がったスゥは口の中の血を地面に吐き捨てた。

それと同時に何かを起動させた。


「あんの、クソボンボンがよ……ツッ!」


 正々堂々なんてのたまっておきながら、的確に肝臓を狙って蹴りを入れてきたメゾーレに怒りがこみ上げる。


「そりゃこんな蹴り持ってたら正々堂々と正面からサシでやり合うのが一番強いに決まってんじゃねえか……」


 そこへゆっくりとメゾーレが歩いてきた。

多少ダメージはある様子だったが、こちらはしっかりとした足取りに晴れやかな表情をしている。


「オーッホッホッホ!あースッキリしましたわ……あら、まだ原形を留めてらしたのね?」

「……随分余裕じゃねーか、ええ?」

「でもこれは決闘ですから、もし貴方が『参った』と負けを認めるなら、これで終わりにして差し上げてもよろしくてよ?」

「アンタみたいな成金のボンボンに膝を折るなんて死んでも御免だね……冗談は蹴りだけにしてくれよ」


 スゥがそう言い終わるや否や、ステルス状態で待機していた小型のドローンが一斉にステルス状態を解除して飛び上がりメゾーレを取り囲んだ……その数約30機。


「撃て!ハチの巣にしてやれ!」


スゥの号令と共にドローンは一斉にメゾーレに向けてマシンガンを発砲した。


「次から次へと……小賢しい真似をっ!潔く諦めなさいっ!」


 流石のメゾーレと言えど一斉攻撃には回避以外に取れる手段が無いらしく、一旦は回避に徹する事になった。

しかし各個撃破していけばドローンもいずれ全て落とされてしまうだろう……というかこの短い間にも既に5機が落とされている。

銃火器は確かに今の時代では骨董品だが、その殺傷力はサバイバーの普及する前なんら変わってはいない。

当たればヒトを殺し得る力を持っている……それに骨董品なので値段もお高い。


「クソが……ッ!気軽にポンポンぶっ壊しやがってからに!一体いくらしたと思ってやがる!」

「貴方みたいな貧乏人には高すぎる玩具みたいね!オーッホッホ!」

「ぬかせ!!」


 スゥはブツブツ文句を言いつつも次の行動に取りかかる、今度は地面にミサイルタレットを次々と設置起動していく。

メゾーレは既にドローンを約半数落としていた。

自動操縦ではドローンもタレットも効果が薄いと見たスゥは、自身もアサルトライフルで援護射撃を行なうが、そんなものは焼け石に水だ。

すさまじい速度で公園を走り回り、時には障害物も利用しつつ、メゾーレはドローンやタレットを破壊しながら再びスゥとの距離をつめてきた。


「そろそろ貴方の骨董品自慢にも飽きましたわ!観念なさい!」

「なあに、まだまださ……!」


 スゥは警棒を取り出してメゾーレを睨め付けた。

自分の使う銃火器の特性から今まで距離を取ろうと立ち回っていたスゥだったが、メゾーレを銃火器で仕留める事を諦めたのか、そのまま警棒で応戦する。

相変わらず近接戦闘ではスゥが不利なままで、メゾーレの強力な蹴りを捌くのに精一杯で反撃出来ずにいた。

メゾーレもスゥにこれ以上何かさせるつもりは無いらしく、決定力のある大技を控え、牽制やフェイントを交えた慎重な立ち回りでスゥに張り付く様に戦っている。

スゥがじりじりと後退しつつ呟く。


「ちっ!足癖の悪いオジョーサマだな……!」


 体勢を崩したスゥの手元をメゾーレが鋭く蹴り上げると、たまらずスゥは警棒を手放した。

スゥは諦めずにメゾーレの足元に向かってタックルを仕掛けるが、あえなく避けられて転倒した。

隙だらけのスゥにメゾーレが止めを刺すべく、片足を振り上げる。


「これでチェックメイトですわ!」


 その時、周囲でシャンパンの栓を抜いたような音が聞こえた、またも数十個。

それと同時にスゥも悪あがきとばかりにメゾーレの片足を必死に掴む。

先程無謀に見えたタックルは、自分の体を伏せた状態にする為の布石だったのだ。


「骨董品の跳躍地雷さ……たっぷり味わいなっ!!!」

「このぉ!!!」


 メゾーレはスゥに掴まれた足から手を外そうとスゥの肩に踵落としを叩き込んだ。

肩を粉砕されたスゥは堪らず悲鳴を上げながらも、それでもメゾーレの足を離そうとしない。


「ぐあああっ!!」


 スゥの手は二発目の踵落とし離れたが、既に跳躍地雷の回避は間に合いそうになかった。

激しい爆発が巻き起こり二人を飲み込む。


「きゃああああああああああああ!!!」


 跳躍機雷による閃光と土煙が晴れると、スゥは大の字で公園の芝生に寝転がっている状態になっていた。

確実にメゾーレを仕留める為に過剰な量と威力の跳躍地雷を使用した為、当然自分も巻き込まれたのだ。

爆発に巻き込まれたのは二度目だし、メゾーレの蹴りも食らったしで満身創痍だ。


「流石に、キツかったか……」


 スゥはもうヘトヘトだったし肩を蹴り砕かれた為に腕が上げられない。

それよりも何よりも破壊されたドローンや使用した弾薬の費用もスゥの懐を痛めつけそうだ。


(被害総額……考えたくもねぇ……)


 流石に勝負がついただろうと思い、スゥは砕かれてない方の手のキャスターを起動して煙草を取り出して火をつける。

仮に勝負が付いていなかったとしても、スゥ自身がもう動けそうに無い。

もしメゾーレがまだ戦える状態だとしたら、もう降参するしかない状態だ。


(空が青いな……)


 寝転がってボーっとしているスゥの元へ、歩み寄る足音が聞こえる……いうまでもなくメゾーレの足音だ。

ドレスはボロボロで、メゾーレ自身も既に一歩も動けない様子だった。


「まだ立っていられるのか……驚いたな」


スゥは初めてメゾーレに対して素直に感心した。


「……今回は……引き分け……ですわ、ね」


 そう言ってメゾーレはバターンと前のめりに倒れて気を失った。

倒れたメゾーレを見て、ロイヤルガードの騎士達が二人の元へやって来るのが見えた。


「ゆっくり寝てる暇もねえか、クソが」


スゥは痛む体に鞭打ってなんとか起き上がると、その場から立ち去った。

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