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ハジマリノヒ  作者: うぐいす
かたつむりの観光客
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かたつむりの観光客20

 ハッピィは真剣な眼差しでにプリデールの短剣を観察していた。

直接短剣を手に持って重さを確かめたり軽く指を曲げてコンコンと軽く叩いてみたりと熱心なもので、プリデールは紅茶を啜りながらハッピィの様子を眺めていた。


「……随分楽しそうね」


プリデールが声を掛けても、ハッピィはあくまで短剣から目を離さずに答える。


「武器、特に刃物に目が無くてのぅ……鋭さと曲線の調和はまさに芸術じゃよ……む?」


 ハッピィはそこで柄の隅っこの方に文字が刻まれているのを見つけ、それをそのまま声に出して読んだ。


「ブラック……ロータス?」

「そうよ、それがその短剣の名前」

「ほうほう……しかしかなりの業物じゃな、もしかしたらロストテクノロジーが使われてるかもしれん」

「それは私もよくわからないわ、戦時中に特別に造られた武器だ……くらいは聞いているけど」

「なるほどのぅ、ところで持ち主のお主に少し聞きたい事が……」

「思った以上にグイグイ来るわね貴女……強引だって、よく言われない?」

「たはは……そうじゃなぁ、あそこのメイド、レッチェによく言われるわい」


 後に『償いの日』と呼ばれる災厄で人類の文明が終焉を迎え、代わりにキメラ達『ヒト』の文明が始まったが、それを機に失われた技術が多く存在する。

以前は月や火星にまで生存圏を伸ばしていた人類だったが、償いの日以降のヒトは同じ事は出来なくなってしまった。

精密精巧で人間そっくりなアンドロイドを造りあげ、自然現象すら自在に操っていた……というのも半分くらい昔の話になってしまっていて、もう誰もやり方を覚えていない。

技術者が居なくなったのでは無く、やり方を覚えていないのだ。

つまり「古代文明が持っていた技術を数千年後の衰退した人類が理解出来ない」みたいな状態が戦後10年の短い時間で起こっている。

人類、またはヒト全体に対する知識や記憶の意図的な断絶……そんな事をする、それが可能な存在は彼らおいて他には無い。

旧人類文明を滅ぼしたキメラ技術の究極……『ゲヘナ』と呼ばれる八匹の竜達だ。

それはさておき、プリデールはハッピィによる質問攻めにあっていた。


「それじゃあ材質に心当たりはあるか!?」


興奮気味のハッピィが食い気味に次の質問を叩き付けて来た。


「ちょっとちょっと……近いわ」


 いつの間にかテーブルに身を乗り出しているハッピィを、プリデールはなんとか両手で制した。

ハッピィも熱くなり過ぎた事を自覚したのか、しおらしくなってテーブルから降りた。


「むぅ……すまぬ、つい」


ハッピィが落ち着いたのを見てプリデールは続けた。


「でも羨ましいわ、私にはそんなに夢中になれるものが無いもの……」


少し自信なさげなプリデールを見て、ハッピィは自分の顎を手で撫でながら答える。


「ん~……まぁ、好きなものなんて、生きていればその内見つかるじゃろ。そう慌てる事も無いし、無いからって負い目に思う事もあるまいて」

「……そう、かしら」


とにかくハッピィは短剣の事ももっと聞きたいらしく、強引に話を戻した。


「……それで、短剣の材質に心当たりはないかの?」

「さっきも言った通り私もそんなに詳しくは知らないのよ、生まれた時に軍にあてがわれただけだから」

「成る程のぅ……大戦中に造られた武器……気になるのぅ、気になるのぅ……」


 世界大戦中に製造された武器というのは、現在では非常に高値で取引されている。

性能が高いのは勿論の事、なにより造る技術が失われてしまった物がほとんどだからだ。


「ゆずってくれ たのむ!」


 ハッピィは何処かで聞いた事がある様な台詞と共にテーブルに両手を付いて頭を下げた。

お目当ては勿論プリデールの短剣『ブラックロータス』だ……念の為に言っておくがアイスソードではない。

必死な様子のハッピィとは対照的にプリデールの返事はあっさりしたものだった。


「別にいいわよ」

「やったー!!!ってえええ!?ホントに良いのか!?」


ハッピィは喜んだりツッコミを入れたりと一人で忙しそうだった。


「ええ……だって……」


 プリデールはキャスターに触れると、再びブラックロータスを取り出した。

それも今度は片手に五本づつ、両手で十本、既にテーブルに置いてあるのも含めると合計で十二本もある。


「まだ予備があるし……全部は流石に困るけど、二本くらいなら紅茶のお礼にプレゼントしてもいいわよ」

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