ルック・インサイド10
楽しい夕食も終わり夜も更けてきた所で、トロメアはあたしは客室へと案内した。
普段使ってない部屋で汚くてごめんなさいとトロメアは謝っていたけど、多少埃っぽいだけで使用に問題は無さそうだし、部屋があるというだけであたしにとっては十分過ぎるくらい御の字だ。
それに掃除していないといっても何年も放置されていたという感じではなく、年に何回かは掃除しているみたいだ。
「ふぅ~~」
トロメアが自室へ戻った後、あたしは誘惑に耐えきれずベッドにダイブしてつかの間その感触を楽し……もうとしたら埃が舞い上がってすこしむせた。
「えほっ!えほっ!」
今は少しでも緊張を解してリラックスしたかった……んだけど、流石にはしゃぎ過ぎたかも。
ベッドに寝転がってると思わず寝てしまうかもしれないので、疲労で重い体に鞭打って無理矢理ベッドから引き剥がして椅子に腰掛ける。
トロメアには悪いけど、このまま眠れる程あたしはまだトロメアを信用できていない。
このまま夜が明けるまでずっと起きているつもりだ。
一応外部と連絡出来るかもしれないと携帯端末を確認してみたけど、やはり無理そう。
(元々森にある建物を見つけるのが目的だったし、連絡さえ出来れば詳しい現在地もわかったかも知れないけど……そう上手くいかないか)
やはり夜が明けるまでこの部屋で大人しくしているしかなさそうだが、そうなると今度は別の問題がある。
(寝る事も出来ないとなると、朝まで暇だなぁ……)
そんな事を言ってる場合じゃないとはわかっているけど、そんな事言っても暇なもんは暇なんです。
ついでにコーヒーでも淹れるかなと思い立ち、キャンプ用のケトルとコーヒーカップをキャスターから取り出した。
キャンプ用といっても別に焚き木専用という訳でもなく、ちゃんとアウトドア用のガスバーナーも用意している。
お湯が沸くまでの間、今日の出来事を振り返る事にした。
(まずは……とりあえず最初から考えてみるか)
あたしは鎮守指定地域の管理者だという謎の団体『ウジャトの眼』からの依頼で、ジュラルバーム近郊にあるこの森へ調査にやってきた。
ウジャトの依頼の内容は『森の中で存在しない筈の建造物を見つける事、また見つけられない場合は存在しない証明として森の完全なマッピングを行う事』調査を進める内に森の深部で異形の怪物と遭遇して、身の危険を感じて森から脱出しようと試みたけども何故か失敗。
そういえば森で出会った化け物は途切れ途切れに言葉を話し、中にはウジャト達の特徴的な仮面が体にくっ付いているものも居た。
何がどうなってあんなことになってしまっているのかあたしにはわからないけど、あの化け物に食われたのかな?
(うーん、嫌な事を思い出しちゃった……)
あたしはインスタントコーヒーの粉の入った瓶をゆすって、粉を適量カップに落としていく。
それとミルクと砂糖も……ちょっと甘いのが好き。
(脱出に失敗した後、途方に暮れて森を彷徨っていたら偶然この洋館を見つけて、住人トロメアに出会った……)
湧いたお湯をカップに注ぎながら、今度はトロメアについて考えてみる。
ヘルメス・タリスマンの娘だというトロメアは一見普通のヒトに見えるけど……だけどトロメアとこの館は異常だ。
鎮守指定されている森にあって、その管理者のウジャトですらその存在を知らなかった館。
一応ヘルメス博士の関係者という事なら、隠れ住んでいる事には一応の説明は付くけど……
(だけどヘルメス・タリスマンの娘って本当なのかな?この情報、イェンさんなら高く買ってくれるかも……いや、証拠が無いかぁ。一応トロメアは恩人ではある訳だし、恩を仇で返す様な真似は気が進まないしなぁ……まぁそれは後で考えよう)
今考えるべきなのはトロメアが信用できる人物か否かという事だ。
夕食の時にあたしがここに迷い込む経緯とか森で見かけた化け物について聞いてみたけど……トロメアはそれらに関して何も知らないと言う。
(ここまで怪しい場所に住んでて何も知らないっておかしくない?……でも、もしかしたらヘルメス博士が全てを仕組んでいて、娘のトロメアには何も教えてないという事も……なくは無さそうかな?)
出来たコーヒーを一啜りしたその時、いつの間にか少しだけ開いていたドアの隙間から何者かが部屋の中を覗いているのに気が付いた。
あたしはコーヒーが床に零れるのもお構いなしに視線の主の元へと駆け寄ってドアを開く。
「誰っ!?」
しかしドアの外には誰も居なかった。




