ルック・インサイド9
多少打ち解けたかなという頃合いに、あたしはこの森に来てからの事をトロメアに聞いてみる事にした。
もしかしたら何か聞き出せるかも知れないけど……今あたしの事情を全部話してしまったら危険かも知れないので適当に嘘を混ぜる事にした。
「……それでジュラルバームを出た時にお金を盗まれちゃって一文無しになってさ、急だったからご飯も買えなくなっちゃって……獣か木の実か、何でも良いから食べ物を探そうと思ってこの森に入ったんだよ。それでしばらく食べられそうなものを探してたんだけど、変な化け物が居て慌てて逃げだしたんだ」
「……変な化け物?」
「そう!なんか……なんて言ったらいいんだろ?デカい肉団子に歪んだ顔と蜘蛛みたいな足が生えてて、左右非対称でバランスが悪そうな感じの……」
トロメアは何か思い当たるものを頭の中から探している様子だったが、ひとしきり唸ってから答えた。
「うーん……私はそういうのは見た事ありませんねえ。私も森の中をお散歩したりしますけど、森の中で動物を見た事もないです」
「え?動物すら?結構な広さの森なのに??」
「あ、元々この家はパパが隠れ家として用意したものだと言ってましたから……何か私にもわからない仕掛けがあるのかも知れません…………あの、それでお願いがあるんですが」
「うん?」
「この家の事は外のヒト達に秘密にしておいてくれませんか?」
「あぁ、それは勿論!トロメアちゃんは恩人だし、絶対に言いふらしたりしないって約束する!」
「よかった……ニレさんからパパの名前を聞いた時、思わずパパの事話しちゃったし」
「……もしかしてヘルメス博士って今はもう、ここには居ないって事?」
「えぇ、五年前に書置きを残して出て行ったきりで……」
「そうなんだ……早く帰ってくるといいね」
こんなつもりじゃなかったんだけど、なんだか気まずくなったので話を戻す事にした。
確かにトロメアも一人ぼっちで大変そうだけど、それはあたしがどうこう出来る問題じゃない。
今のあたしに出来るのは秘密を守る事と話題を変える事くらいだ。
「……それで話を戻すけど森で化け物を見かけた時にさ、恐かったから走って逃げだしたんだけど、そしたら急に森がおかしくなって……走っても走っても森から出れなくなっちゃったんだ」
「……すいません、私には何もわかりません」
トロメアは完全にしょんぼりしてしまったようだ。
「あ、ごめんね?そんなつもりじゃなくて……えっとーそのー……あ、そうだ!何かあたしに手伝える事ないかな!?恩返ししたいなと思って!」
「……恩返し、ですか?」
トロメアはキョトンとしていた。
「こうして家に上げてもらってさ、美味しいご飯までご馳走になっちゃったら、何もせず出て行くってのは女がすたるといいますか……」
我ながら酷いしどろもどろだと思ったけどトロメアにこんな顔をさせたままというのは、ものすごく後ろ髪が引かれる。
トロメアが本当に何も知らないのか、それとも何か裏のあるのかはまだわからないけど、ご馳走になった夕食はおいしかった、それは確かだ。
ここまで良くしてくれたヒトに、そんな顔はさせられない。
「ふふふ、そんなに気にしなくてもいいのに……」
「いいからいいから~なんでもするよ~?こう見えて色々免許とか資格とか持ってるから、きっと役に立つよ~?」
「そうですねえ……それじゃあ明日、お芋さんを掘るのを手伝って貰ってもいいですか?」
「よっしゃ!まかせといて!」




