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ハジマリノヒ  作者: うぐいす
アザーライフ&アザードリームス
213/215

ルック・インサイド6

 一度に色んな事が起こりすぎて、もう訳がわからない。

かいつまんで言うと、森の探索中に異形の怪物に遭遇して逃げようとしたら森から出られなくなって、一か八かでその時に見つけた人影を追いかけたら今度は存在しない筈の建物が目の前に現れた。


(これってどう考えてもウジャトの言っていた謎の建物だよね……?)


 あたしは嫌な予感を感じつつも、携帯端末で外部への連絡を試みるが、端末の画面には通信不能を示すマークが画面に表示されていた。

一応発信してみるものの当然応答は無く、分かり切っていたのに改めてガッカリしてしまう。


「やっぱり駄目かぁ……」


 後から思い返してみれば、この時のあたしはだいぶ混乱していて、どう行動すれば正しいのか一人では判断出来ない状態になっていたと思う。

でも暗い森の中にあたしの味方は誰も居ない……あたしの生死を分けるかもしれない行動の判断はあたしがするしかない。


(少し考えてみよう……)


 幸い異形達の気配は今は周囲に感じないし、今なら少し考える余裕がある。

まずあの洋館の中に入るかどうかだけど……正直に言えば入らずに立ち去りたい。

だけどもうすっかり日が落ちて夜になっており、今から森の出口を探すとしても怪物がいるかもしれない夜の森を彷徨い歩くのは余りにも無謀に思える。

そもそも最初に怪物と遭遇した時点で森から逃げようとしたはずなのに未だに森を抜けれていないのも不可解だ。

何が原因でこうなっているのか皆目見当も付かないけど、脱出するなら少なくとも日が昇ってからの方が良い……と思う、自信無いけど。


(となると、やっぱり……あの洋館に行くしかないかぁ~!やだなあああああ!!)


 嫌だ嫌だと思いつつも身体には泥の様に疲れが纏わり付いていて、休まなければもうあまり動けそうもない。


「……行くしかないかぁ」


 あたしは嫌々ながら洋館の正面玄関まで歩いて行く。

すると意外な事に一見した時には状況も相まって不気味にしかみえなかった建物に妙に生活感がある事に気付いた。

扉の横にはご丁寧にインターホンまで付いている。


(もしかして普通に誰か住んでるだけとか……?)


 そんな事があり得るのかと思ったが、もうこうなったら堂々とインターホンを鳴らして正面から反応を見た方が安全かもしれない。

思い切ってインターホンを押してからドアの前で反応を待っていると、洋館の中から何か大きな物音がした。

察するに何かが倒れた音と食器が何枚か割れる音らしかった。

それから誰かがドアに向かって走ってくる音が続いて来る……何があったのかはわからないが、緊張からあたしの心臓の鼓動が早くなっていく。

玄関のドアから少し距離を置いて、何があっても対応出来る様にと身構えながら待った。


「パパ!?」


 洋館の中から現れたのは如何にも毒気の無さそうな長い緑髪の高校生位の女の子だった。

少女はニレが思っていた人物と違うとわかると、明らかにあたしを警戒し始めた。


「あ……パパじゃない……えっと、だれ……ですか?」


 怪しい森の怪しい洋館で出会った怪しい少女に初対面で凄くガッカリされてしまった。

相手がガッカリしている理由なんて当然皆目見当も付かないあたしは、駄目で元々でこちらの用件を話してみる事にした。


「夜分遅くにすいません……私旅人のニレっていいます、森で迷っちゃったみたいで途方に暮れていたんですけど偶然この建物が見えて……どうか日が昇るまでここに置いてもらえまえんか?」


 普段そんなに敬語とか話さない事もあって、ちょっとぎこちない気がするけど……まぁ、こんな感じかなあ?

でもまあ、こんな状況で流暢にヒトと会話が出来るヒトなんて少ないんじゃないかな?多分だけど。


「あ、そうなんですか……」


 緑髪の少女は真剣に考えている様子だ。

一体どんな答えが少女の口から飛び出してくるのか想像も付かないが、あたしはジッと答えを待った。


「それは大変でしたね、どうぞ上がって下さい」


なんだかあんまりにもアッサリ承諾されてしまったので、思わず聞き返してしまった。


「えっ!?いいんですか!?」

「凄く困ってるんですよね?そんなヒトを放っておくなんて出来ませんよ!」

「あ、ありがとうございます!」


そうしてあたしは案外あっさりと怪しい館の中に入れてしまった。


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