ルック・インサイド5
ちらりと見えた謎の人影を追いかけて暗い森の中をがむしゃらに走り続けて、ようやくの思いで前方に人影を捉える事が出来た。
人影は素早いが、何か不自然な動き方で一寸先も見えないような闇の中を奥へ奥へと進んでいく。
突然森に閉じ込められ、訳が分からないあたしは、怪しい人影という曖昧な手掛かりに縋るしかなかった。
もし人影を見失ってしまったら、あたしもあの肉塊の仲間入りしてしまうかもしれないという言いようの無い恐怖がジワジワとあたしの体力を削る一方で、恐怖から逃れたい渇望だけが無理矢理に身体を前へ前へと推し進めていた。
(こんなところで終わってたまるか……!)
更に森を走り続けていると、今度は不意に森の木々がグググと蠢いた。
一見すると樹木に見えるソレも、よく見ると得体の知れない肉塊で、垂れた枝の様な触手をブランブランさせながら、あたしの進路を妨害する様に立ち塞がる。
「邪魔だぁぁ!!」
もう見た目が気持ち悪いとかそんな事を考えている余裕はない。
こっちはあの人影を見失えば終わりなんだ、足を止める訳にはいかない!
あたしはベルトのバックルに仕込んであるキャスターに触れてそれを取り出した。
バイトで岩石竜を狩る時に使った、べっこう色の刃が特徴の超重量斧『ダイアモンドスカッシャー』
作ってみたはいいけど重すぎて並のキメラじゃ持ち上げる事すら出来なかったとかで、持て余していたのを貰って来た。
「どけぇぇぇぇ!!!」
あたしは速度を保ったまま力に任せて大斧を水平に振るう、すると一撃で肉の樹木達は不気味な悲鳴を上げながら倒れていった。
バケモノ達は数が多いけど、ダイアモンドスカッシャーの破壊力には耐えられないらしい。
「もう、少し……!」
あたしはもうあと数メートルの所まで人影に近づいていた。
ここまで近づけば、幾ら周囲が暗いといっても人影の特徴が見えてくる。
まず小柄で身長は140センチ程、太い……ツインテール?もしかしたら何かの動物の耳かもしれない様なものが頭部に付いていた。
あたしに捕まりそうになる一瞬、人影が後ろを振り向いて赤い瞳でこちらを見た。
「捕まえた……ってアレ!?」
確かに人影に追い付いて腕を掴んだと思った瞬間、突然視界が明滅してせいで眼が眩んでしまったあたしはバランスを崩して転んでしまった。
速度が乗っていたせいか、前のめりに躓いて盛大に五回転した後、うつ伏せに倒れた。
息は上がり肺が痛い……とにかく疲れ切っていたあたしは、うつ伏せの状態からしばらく顔を上げる事すら出来なかった。
背後にあの異形達が迫っているかも知れないとは思ったけど、もう体が言う事を聞いてくれない。
しばらくするとようやく体が動かせるまで回復し、そこであたしはようやく顔を上げる事が出来た。
周囲は開けた場所になっていて、いつの間にか目の前には小さめの洋館がある。
「……これ、依頼にあった建物だよね?」
化け物のうろつく森で突如目の前に現れた怪しすぎる洋館。
とはいえ帰り道も分からず、日が暮れて、戻ろうにも体力も切れていて、おまけに森の中には化け物だらけ。
選択肢は一つしかなかった。
「鬼が出るか、蛇が出るか……かぁ」
洋館を見つけたタイミングや状況を考えると、森をうろつく化け物と洋館が関係ある可能性は高いと思う。
あたしは重い足取りで洋館に向かって歩き始めた。




