ルック・インサイド4
森の探索中に感じた気配を追って、あたしが見たのものはグロテスクで目を背けたくなる様な異形の存在だった。
無理矢理例えるなら動く腫瘍の様な肉の塊、不揃いな歪んだ脚が左右非対称に生えていた。
いくら遺伝子操作で改造された動物が蔓延っている今のセカイでも、あんなものは見た事が無い。
まさに歩くゴア表現、または雑に固めた肉団子。
「…………ッ!!!」
いきなりそんなものに遭遇してしまったあたしは戦慄のあまり悲鳴を押し殺して身を隠すのが精一杯だった。
恐慌状態に陥らずに自制出来たのはノアに居た頃に見てきた禄でもない実験のせいで、多少は残酷なものに対しての耐性が出来ていたからかもしれない。
だからと言ってあたしに自分の生まれに対して感謝する気持ちは毛程も芽生えなかったけど、結局それが役立ってる事が面白くない。
(落ち着け……とにかく落ち着けあたし!!!)
今すぐ逃げ出したい気持ちを強引に抑えつけて、二目と見たくない異形を観察する。
爛れた悪性腫瘍みたいな体には不規則に大小様々な目鼻口といったヒトや動物の顔のパーツが付いている。
それらは一つ一つ動いていて、周囲の様子を窺っている様だ。
まだ隠れているあたしに気付いてはいないらしく、特にあたしに向かって来る気配もない。
(…………ん??)
あたしはその肉塊の異形の一部に何か見覚えのあるものを見た。
ついこの間、見たばかりのもの。
(ウジャトの仮面……まさかあの化け物に取り込まれた!?)
湿り気の多い森の空気に混ざって、何か言葉の様なものが聞こえてきた。
「おぁあ……誰、か……そこ……のか?助……け…………あうぅぅ……」
「うわぁ!!」
騒がしい雑踏の様な、動物の様なヒトの様な、重なり合って濁った誰かの声が辛うじて聞き取れてしまえる。
本当は写真撮影を行って報告を行うべきだったけど、この時のあたしにそんな余裕はなかった。
一刻も早くここから逃げなれば……あたしは全速力で森の出口へと向かって走る。
あたしの身体能力なら一直線に走っていけば十分程度で森から抜け出せる筈。
「一体どうなってんの!?」
それなのに走っても走っても森の出口が見えてこない。
流石におかしいと感じて時間を確信してみると、なんともう二時間は走りっぱなしだったらしい。
いい加減に疲労が体を苛んでいるし、気が付けばもう日が落ちようとしている。
そんな折、高速で流れていく視界の端に人影を見た気がした。
「……ええい!こうなったら一か八かだ!!!」
一瞬迷ったが背に腹は代えられない。
藁にも縋る思いであたしは人影に向かって方向転換した。




