ルック・インサイド2
ノアからの追手を倒した後、あたしは街中を歩いて移動しながら、あるヒトへ電話を掛けていた。
毎度急な事で頼ってしまう事に対する申し訳なさや、少しきまぐれな所があるヒトなので、そもそもちゃんと電話に出てくれるかなという不安があったけども、今回は杞憂であったらしく、何事も無く電話は繋がった。
「もしもし、イェンさん?お久しぶり~」
電話の相手は七大都市の一つ、歓楽都市新月街に居を構える情報屋イェン・フーファさん。
この人との伝手もスゥさんに教えてもらった事の一つだ。
スゥさんと別れてから結構時間が経った今でも、まだあのヒトがしてくれた事の影響が残っているのを思うと、本当に頭が上がらない。
でも多分スゥさんはイェンさんに新しい客を紹介して小遣い稼ぎがしたかっただけなのかも知れない。
それでもあたしはこうして何度もイェンさんに助けられている。
本当に二人の事は感謝してるし尊敬してるんだけど、何度も連絡を取り合う内に打ち解けて気安くなっちゃったのはまぁ、愛嬌って事で。
「……あぁ君か、今度はどうしたんだい?また何か困り事?」
イェンさんは相手が私だとわかると多少くだけた様子だった。
表向きは歓楽都市なんて呼ばれているけど、新月街はマフィアとかの犯罪者が作った街し、そんな所で情報屋を営んでいると何かと苦労が多いのだろう。
「今ジュラルバームに居るんだけど街中で追手に見つかっちゃって……しばらく街で仕事出来そうに無いんだ」
「なるほどね、それでいつもの様に何か他の仕事を紹介して欲しいと……わかっているとは思うが私は情報屋なんだ、お金はちゃんとあるんだろうね?」
「それなんだけど、その~……なにぶん急な事だったもんで……」
「……わかった、もういいよ」
反応からしておそらくイェンさんは、端からあたしで儲けようとは思ってないみたいだった。
自分に良くしてくれている相手を利用していると言われればその通りなので多少心苦しいけども、こっちだってそれなりに切羽詰まってるし、そうも言ってられないのが悲しい……いつか何かで恩返し出来れば良いんだけど。
訳アリの根無し草のあたしに頼れる伝手はそう多くない……罪悪感でちくちくと痛む胸を敢えて気にしない風を装いながら、さっさと用件を言ってしまう事にした。
「……毎度の事だけど一応今回も確認するよ?今から紹介するのは報酬は後払い、私が七で君が三、そして不確定要素と危険度の高い仕事……それでもいいね?」
「うん、いつもありがとう」
「止してくれ、これでも気が引けてるんだ……こういう仕事を紹介する事も仕事柄少なくないけど……私の情報でヒトが死ぬのは、やっぱり目覚めが悪い」
「あたしもマトモな出自じゃないから、これでもいつも覚悟して生きてるんだ、イェンさんが気にする事じゃないよ」
「そうだったね……じゃ、仕事の話に戻ろう。今回は『ウジャトの眼』からの依頼だよ」
「ウジャト?……あの『鎮守指定地域』を見張ってるヒト達だよね?」
「そう、ゲヘナ達が直々に世界各地に定めたと言われている彼等の活動領域『鎮守指定地域』……ウジャトの眼はその番人みたいな組織だね、常に鎮守指定地域を見張っていて、侵入しようとするヒトの排除している」
「そんな所からの依頼かぁ、なんか得体の知れない感じだね」
「ウジャトは元々秘密主義の強い閉鎖的な組織だからねぇ……私でも代表者の名前すら知らない始末さ……それで内容なんだけど」
「うん」
「ジュラルバームから南東の位置にある森が鎮守指定地域になってる、勿論森の中には誰も住んでいない筈だけど……彼等の話では極稀に洋館の様な建物が森の中に現れるっていうんだよ」
「え、なにそれ?なんかオカルトみたいな話だね」
「だろう?彼等も自分達で調査しようとしたみたいだけど、結局何もわからなかったらしい……まあ腐っても鎮守指定だからね、何が起こっても不思議じゃない」
「わかった、早速現地に向かうよ」
あたしは二つ返事で了承した。
確かにすごく胡散臭い仕事だけど今のあたしに他に選択肢は無い。
「はいはい、じゃあ先方には私から話を通しておくよ。彼等の事だから何もサポートもしてくれないだろうし、なんなら姿すら現さないかも」
「逆にその方が気が楽かも」
「ははっ、確かに……じゃ、気を付けてね」
「大丈夫、ありがとうイェンさん」
あたしはこうして身一つで調査対象の森へと向かう事になった。




