甘いマイアズマータ7
新月街は街の性質上、ヤブ医者や無免許医その他違法な医者が非常に多く存在する。
違法な医者とはいうものの玉石混合で、腕が良い医者かそれともただのヤブ医者かは人に依るとしか言えない。
確実にマトモな医者に掛かりたい場合は信頼できる情報屋に金を積んで紹介してもらう事が必須だろう。
情報屋から紹介された目付きの悪い医者、サクレン・テイルシトラムは手元のタブレット端末に視線を落としながらアレンに言った。
「マイさんの症状ですが……これは病気というよりも身体の構造上の欠陥と言った方が近いかもしれませんね」
「構造上の欠陥……ですか?」
アレンはサクレンの言葉を聞いて内心ギョッとした。
性処理用の消耗品として造られたマイの体は、そもそもちゃんと生きれる様な構造では無い事を、造ったアレン自身がなんとなく知っていたからだ。
今までは『適当なタイミングで壊れてもらわないと次の注文が来なくて困る』という、なんとも度し難い理由でアレンは被造物達の身体の造りなんて気にした事がなかった。
そしてマイと生活を始めてからも、当然知っている筈の事実に目をつぶっていた。
(本当に僕は最低の男だな……)
アレンの内心の自嘲など知らないサクレンは、そのまま説明を続けた。
「ええ、通常、生物の細胞分裂には限界があってですね、彼女のアブノーマリティはその限界を前借りする形で発動するみたいなんです」
サクレンはカルテから視線を上げて、ジロリと自分の目を睨め付けた……ようにアレンは感じたが、この医者が元々目つきが悪いのか、それとも言外にアレンを非難しているのか、アレン自身の今更な罪悪感がそう感じさせているのかは分からなかった。
「つまり彼女はアブノーマリティを使えば使うほど、寿命を縮める事になります……そして現在、彼女の身体の細胞分裂の回数は間もなく限界を迎えます。心臓が酷使され、極端に老化しているのです」
無言で糾弾する様なサクレンの厳しい視線がアレンに突き刺さる。
もしかしたらこの医者はマイがどういった存在なのか、薄々感づいているのかも知れない。
だが今話すべきなのは別の事だ。
「……マイは、治るんでしょうか?」
「方法が無い訳ではありませんが……かなり難しい方法になります」
「お金なら用意します!」
ほとんど反射的に口走っておきながら、アレンは自身の発言に違和感を感じずにはいられなかった。
一時は恐怖の対象でしかなかったマイをアレンは今、確かに助けたいと思っている。
ついこの間まで自分が造り出した存在の事なんか気にも留めていなかった男が、ちょっと一緒に同居した程度の事で簡単に絆されて、助ける為に金まで出すと来たもんだ。
他人から見れば『お前は自分に都合よく物事を見すぎている』とツッコミを入れられて当然だろう。
だがそれがアレンの生まれ持った性格で、アレン自身にはどうする事も出来ない。
しかしアレンの気持ちに水を差す様にサクレンは言った。
「わかりました……ですが必要なのはお金ではありません」
「……え?それは一体どういう……?」




