甘いマイアズマータ4
「た、頼む!殺さないでくれ!」
命を弄び、数多のヒトを商品として使い捨てて殺す所業に手を貸しておきながら、図々しくもアレンは命乞いをした。
仮に少女の目的がアレンの考える通りで命乞いに意味が無かったとしても、アレンの心は恐怖に追い詰められ、死にたくないという思いで頭が一杯だった。
しかし少女から返って来た答えは意外なものだった。
「ええ、大丈夫よ私はパパを殺したりはしないわ。最初に言った通り、私はパパと一緒に暮らそうと思ってここに来たの」
「………………は?」
アレンは少女が何を言ってるのか理解出来なかった。
「私達は血の繋がった親子なんだもの、一緒に暮らすのは当たり前の事よね?」
「…………ふ、ふざけるなよお前!こんな……いっつ!いきなりこんなことしやがって!!」
「傷が痛むの?ふふ、かわいそ~」
わざとらしい同情を口にしながら、少女はアレンの両肩に刺さったアイスピックをゆっくりとこね回しながら引き抜いた。
「アッ!ギャアアアアアアア!」
「うふふ……」
アレンの悲痛な絶叫にうっとりと頬を染めながら、次に少女はアレンの傷口に、たっぷりともったいぶって顔を近づける。
そしてゆっくりと傷口に舌を這わせて流れ出る血液をペロペロと舐めとった。
何故か『甘い』と錯覚してしまう様な不思議な痺れがアレンの痛みを和らげて、それどころか夢心地にさせてしまう。
「……はい、治ったわよ」
「……え?」
惚けていたアレンが我に返ると、確かに出血の跡は残っているのに傷口だけは綺麗に消え去っていた。
「これが私のアブノーマリティ……自分も他人の体も治しちゃうの。私のた・い・え・きでね」
そして笑顔のままアイスピックをアレンに突き付けて宣言する様に言った。
「私の名前はマイ……パパの娘だから『マイ・アズマット』これからよろしくね、パパ」
・・・
アレンの住む新月街は警察がそもそも存在しない為、マフィアによって秩序が創られ、マフィアによって統治されている。
マフィア達も治安を気にしない訳ではないが、それは主に地表に近い他の町からの客が多い上層だけの話であって、下層を縄張りにしているマフィア達はは基本的に住人の事は気にも留めない。
下層で暮らす者にとって自分の身を自分で守るというのは当然の事だった……とはいうものの、マフィアの庇護下で暮らしているアレンは別段強い訳では無い。
基本的にマフィアの用心棒に守ってもらっているのだ。
アレンはマイが家に住み着いてからの一か月間、寝込みを襲ったり毒物を使ったり、アレンはなんとか知恵を絞ってマイを殺そうと試みたが、そのほとんどが失敗し、たまに成功しても当然の様にマイはアブノーマリティですぐに復活してしまう。
最後の手段にと少ない貯金を切り崩して殺し屋を雇ったりもしてみたが、マイは戦闘力も異常に高く、なんと全員を返り討ちにしてしまった。
結局アレンは自分の娘を名乗る少女、マイ・アズマットをどうする事も出来なかった。
そして今現在もマイとアレンの奇妙な共同生活は続いてる。
傷を治す能力を持っているのをいい事にマイは日常的にアレンをいたぶって遊ぶ。
マイが主に使うのはアイスピックで、アレンはそれで毎日マイに刺されていた。
「私、パパの事恨んでるのよ」
普段からそんな事を言いつつも何故か楽しそうにそんな事を言うマイの事が、アレンは理解出来ないまま日々恐怖を募らせていった。




