甘いマイアズマータ3
「クソッ!いい気になるなよ、メスガキがぁ……!!」
アレンはアイスピックが刺さったままの両足の痛みに耐えながら、ズボンのポケットに手を突っ込んで携帯端末を取り出すと画面を操作した。
端末から発信された電波は一般人に対しては何の効果も無いが、アレンの造ったキメラにとってだけ体内のナノマシンを暴走させる殺人兵器となる。
これがアレンの用意していた、もしもの時の為の備えという訳だ。
「ガッハ…………ッ!!」
装置は問題なく作動した、少女は一瞬の内に顔面のあらゆる穴から血を噴出しながらうつ伏せに倒れた。
床に倒れた後、数回痙攣を繰り返してから力尽きて動かなくなった。
「ふぅっ…………!イカレ女め、思い知ったか……!」
アレンは床を這いずって移動して、少女が死んだのを直接確認した。
ようやく自分の危機が去った事に安堵し、少女に刺された足の傷を治療すべく、再び部屋の中を這いずって移動した……その背後で死んだはずの死体が再び動き始めてるのにも気付かずに。
(確かこの辺に包帯が……)
アレンが包帯を探していると『ちょんちょん』と指先で遠慮がちに背中をつつかれ、続いて背後から少女の声がした。
「探しものはこれ?」
「…………!!!」
背後に居たのは顔面血塗れのまま、手に持った包帯をアレンに差し出して微笑む少女の姿だった。
アレンは恐怖のあまり声にならない悲鳴を上げる。
「そんな……な、なぜぇ……ぐうぅッ!!」
男が振り返るよりも早く、今度は両肩に強い衝撃が加えられた。
少女はアレンの背中に張り付くと、両肩の僧帽筋の辺りから心臓に向けてアイスピックが突き立てたのだ。
激痛が全身を駆け抜けて、アレンは堪らずそのまま体を丸めて転がった。
「アアアアアアア!!!」
アレンが痛みで暴れ回るのに疲れて果てた頃、恐る恐る犯人の方を見上げてみる。
少女は半乾きになった血塗れの顔面のまま、のたうち回るアレンの姿をくつくつと微笑みながら眺めていた。
「苦しんでいるパパ、本当に最高」
「お前……!なんで……!?」
「なんで死なないかって?……いいよ、教えてあげる、見ててね」
少女は笑顔のまま、自らの窮屈な胸元の布をぐいっと下ろして黒いブラジャーを露出させると、突然自分の心臓に向かってアイスピックを突き立てたではないか!
それだけに飽き足らず手首をぐりぐりと回して丁寧に傷口を拡げてから、ゆっくりとアイスピックを引き抜いた。
夥しい出血がアイスピックが確かに少女の心臓を貫いていた事を如実に示していた。
しかし少女は立ったままで倒れる気配は無い。
優れた身体能力を持つキメラと言えど、あんな傷を受ければただで済む筈無いのに……ところがこの少女は痛みすら感じていないかの様に微笑みを崩さない。
「私、アブノーマリティを授かったの……どんなにカラダを傷つけられても死なないの」
そう、獣性細胞は制御出来ないのだ。
稀に獣性細胞の働きによって突然変異のキメラが生まれる。
突然変異を起こしたキメラはもれなく特殊能力を得るのだ。




