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ハジマリノヒ  作者: うぐいす
幻想湖水伝
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幻想湖水伝25

 今回の調査に参加したメンバーは皆それなりに忙しくしているらしく、街に帰ってからでは予定が合わないという事で、このまま拠点で打ち上げをやろうという話になった。

こういった事にも慣れているらしく、スティーブとライラは調査協力のお礼にと湖周辺のフィールドワークで採取した動植物やその他余った食糧をふんだんに使った料理を振舞ってくれるらしい。

人里離れたこの場所で果たしてまともな料理が出来るのかというクオリア達の小さな疑問は杞憂に終わった。

湖から流れる川に棲む川魚、豊富な山菜、旬の果物、新鮮な鹿の肉……想像以上にバリエーション豊かな食材達を二人は鮮やかな手際で料理していく。

あれよあれよという間に、その辺のホテルなんかには負けない位おいしそうな料理が次から次へとテーブルに並んでいった。


「なんだよ、こりゃすげぇ!こんなんプロの料理人だって言われても信じちまうわ!」


アメジストの賞賛にライラは謙遜で返した。


「いやぁ、それほどでも~職業柄外食[※危険なモッドが跋扈する街の『外』での食事の意]が多いものですから、野外でも出来る贅沢を自然と覚えちゃって」

「くぅ~!流石だねぇ~!おい聞いたか!?これが女子力ってもんよ!ちったぁ見習えよ他の女共はよぉ~!」

「あ~!それってジョセイサベツでしょ!!いけないんだ~!」

「そーよ!自分だって料理なんて出来ないくせに!」

「オンナの敵……」

「アホ紫の言う事なんざ放っておいて、さっさと食おうぜ!」


 女性陣がわいわい騒がしくなる中、オニキスとパールは何も言わなかった。

単にパールは話題に興味が無かっただけだが、オニキスは別の事を考えていた。


(私も料理は覚えたいんですけども……どうにも適性が無いというか……)


 オニキスは料理が苦手で目玉焼きすら結構焦がしてしまう。

料理をガレスに任せっきりになってしまっている事に負い目を感じて、こっそり練習したりしてみるものの、簡単な料理でもレシピを追うので精一杯で、しかもレシピ通りに行かず妥協する事すらある。

ガレスは気にしなくていいと言ってくれるが……その優しさがちょっと辛い。


「でも失敗する回数は減ってきたし大丈夫大丈夫……私は出来る子」

「……何の話だ?」

「ああいえ、なんでもないんです、気にしないで下さい」

「……?」


 まあそんなこんなで打ち上げは始まり、料理に舌鼓を打ったり酒を飲んだりしている内に皆盛り上がって来て、カラオケ大会でもやろうかという話になっている。

ふと気が付くと会場からパールの姿が消えていた。

パールは記憶を無くす以前から元々こういった場が苦手で、よく抜け出しているのを知っていたので他の皆は大して気にしていなかった。


「……ここに居ましたか」


 宴の喧騒から離れた湖のほとりでパールは一人空を見上げていた。

流石人里離れた深い森の中というだけあって、キャンプから一歩でも外に出ると周囲は真っ暗闇だ。


「オニキスか……ふん、気にせずとも逃げたりはしない……逃げる理由も思いつかないしな」

「いえ、そうではなく……身体が縮んでいましたし、大丈夫かなと」


 オニキスはパールの隣まで歩いてきた。

二人の距離は約二メートル……知り合い同士が話をするにはちょっと遠い距離。


「特に問題は無いが……全く不安が無いと言えば嘘になるな」


 パールが不安を口にしたのを聞いて、オニキスは驚いた。

普段は兄弟達にも弱みを見せたがらないヒトだから。


「不安……これからの事とか?」

「それもあるが……オニキス、お前から見た私はどんな人物に見える?」


パールの唐突な問いにオニキスは少し考えこんだ。


「そうですね……群れる事を好かず、孤高で、あとは……力に固執している印象があります」

「固執か……」

「鬼気迫るというか、強い力を得る事が存在理由みたいな……そんな感じでした」

「そうか」

「今も……力が欲しいと思いますか?」

「勿論だ」


オニキスの問いにパールは即答した。


「……また、私達と戦う事になってもですか?」

「そうだ、結局セカイがどう変わっていこうと、力無き者が得られる権利は無い」

「………………」


 二人の間に緊張感を孕んだ夜風が吹き抜ける。

沈黙が続く中、不意にくすりとオニキスが小さく笑った。


「……本当に変わりませんね、貴方は」


笑うオニキスを見て、珍しい事にパールも釣られて頬を緩ませた。


「……らしいな」

「安心してください」

「?」

「もし貴方が道を間違っても、私達が何度だって止めてあげますから」

「フッ、頼もしい事だ……だが、次も上手くゆくとは限らんぞ?」

「……あ、そうだ」

「なんだ?」

「今からケーキ切るから貴方を呼んで来いと言われてたんでした。さ、いきましょう」

「いや、私は別に……」

「まあまあ、ちょっと顔を出すだけでも構いませんから」


 パールを連れてキャンプへ戻る道すがら『これから私達クオリアはどうなるのだろう?』とオニキスは考えていた。

ヒトと似た形をしてはいるが他の追随を許さない程の大きな力を持ち、決定的にヒトとは違う鉱物生命体……それが私達クオリア・シリーズ。

メタトロンが宇宙に帰った事によりマテリアル研究所は解散し、私達はいよいよもって別々の道を歩み出す事になった。

夜の湖畔の様にクオリアの未来は闇に包まれていて先が見通せない。

そんな事を考えながら歩いている内に皆の居る騒がしいキャンプの喧騒が近づいて来る。


(きっと大丈夫ですよね……私も、そしてパールだって、一人じゃないんですから)

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