幻想湖水伝24
視界を覆い隠す深い霧の向こうから呼ぶ声がする。
声は段々と大きくなっていき、最後にはハッキリと聞こえるようになった。
「おい!オニキス!しっかりしろ!」
突然立ったまま意識を失ったオニキスの顔をエメラルドがハリケーンの様な往復ビンタでバシバシ叩いていた。
「はっ!あぶぶ……い、痛い!大丈夫ですから!もう目が覚めましたから!」
「お?おぉ、よかった。無事だったか、心配したぜ」
「ええまあ、なんとか……おかげさまで顔が痛みますが」
オニキスが恨めしそうにエメラルドを睨め付けると、エメラルドは珍しくバツが悪そうな顔をした。
「しょーがねーだろ、他の方法なんて思いつかなかったし……」
「まあ、それはもういいんですが……私はどれくらい気を失ってましたか?」
「安心しな、お前が真珠を割ってからまだ五分も経ってねえよ」
「あ、それにパールは?」
「それなら向こうだ」
エメラルドが指を指す方向を見ると、オニキスが割った巨大真珠を他のクオリア達が取り囲んでいた。
クオリア達が慎重に真珠の残骸の中からパールを引き上げている途中だった
「ああ……やっと、やっとみつかりましたか……」
「ああ、だがまだ油断できねーぞ」
「……わかっています」
遂に姿を現したクオリア達の最後の兄弟、クオリア・パールだ。
乳白色の真珠肌と眩いロングの金髪、それはまごうことなくクオリア・パールだったが……以前のパールを良く知るクオリア達はその姿に違和感を覚えた。
(あれ?なんか……小さい……?)
本来のクオリアパールは成人女性の姿だったのだが、今目の前にいる女王蛤の真珠から出て来たパールはどう見ても中学生位の身長しかない。
そんなクオリア達の困惑はさておき、パールがゆっくりと目を開いた……クオリア達は皆緊張した面持ちで注意深くパールの出方を見る。
「う…………」
意識が戻ったクオリア・パールはゆっくりと立ち上がると、他の兄弟達の顔を見た。
起き抜けでまだ意識がハッキリしないのか、敵意は感じられない。
「貴様らか…………私はどうなったのだ?あの戦いに敗れて地球に落ちた所から記憶がハッキリしない」
パールの質問にアンバーが答える。
「君はあの戦いから行方不明になってたんだよ。僕達は君を助けに来たんだ……まさか貝に取り込まれてるとは思わなかったけどね」
「そうか……」
クオリア・パールは自分が助けられた事に礼を言うでもなく、かといって自らの行いに対して反省しているという風でもなかった。
ただそこに立っている、全裸で。
「というか僕の方からも聞きたいんだけど……君、なんか身長縮んでない?」
「…………む?」
言われてみれば……とでも言いそうな表情でパールは自分が他のクオリア達の顔を見上げている事に気が付いた。
だがそれに対して何かリアクションをとる事は無かった。
「思い当たるのは……メタトロンが私の身体を離れる時に私の力を半分以上奪っていった。その時の影響かも知れん」
「大丈夫なのかいそれ?」
「わからん、今の私は貴様らよりも遥かに無力な存在になってしまっているだろう…………それよりも、休める場所は無いか?」
「じゃ、皆で一旦拠点に戻ろうか」
こうして久しぶりに全員が揃ったクオリア一行は無事にパールを救出し、キャンプへと戻って行った。
パールはずっと仏頂面だったが、これは以前からそうだったので誰も気にする者は居なかった。
なぜならこれは助けたクオリア達にとっても、助けられたパールにとってもあたりまえの行為だからだ。
兄弟が困っているなら心配するし、先ず助けるのがクオリア達のあたりまえなのだ。




