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ハジマリノヒ  作者: うぐいす
幻想湖水伝
188/215

幻想湖水伝17

「ハァイ!オハヨーゴザイマース!じゃあ早速説明しますねーッ!!よぉーく聞きなボケ共ォ!」


 調査開始三日目の朝のミーティングは、やたらテンションの高いアメジストの個性的な挨拶から始まった。


「……あーダメだキツ過ぎる、もうやめるわこのテンション。あー、とりあえず俺が用意した人形達を湖全域に配置する……人形達は小隊に分けて、それぞれ目印に旗を持たせてある」

「何よ根性なしね、うるさくてもウザいけど」

「うるせえ~トウガラシ女、俺様に根性なんてモン求めるヤツの方がどうかしてるんだよ」


 アメジストの隣に居る人形がパソコンを操作するとプロジェクターが起動してスクリーンに湖の全体図が映し出された。

湖の画像には手書きで細かくアルファベットと数字が至る所に書き込んである。


「つまるところ、旗が囮達の目印になる訳だ……昨日俺のライラちゃんに手を出しやがった不届き者がぁ、性懲りも無く人形のコントロールをまた俺から奪おうとすれば即座にお前たちに座標を伝えて、お前らが直行して原因を見つけ出してシバき倒すってぇ寸法よ」


ここでオニキスが挙手をして発言した。


「私達の目的はあくまでパールです、邪魔者を必ずしも排除する必要はないのでは?」

「チッ!」

「舌打ち!?」

「……だがまぁ、もっともな意見だ。確かに絶対に邪魔者の相手にしなきゃいけねえ訳じゃねえが、いざパールが見つかった時に横やりを入れられたら面白くねぇし、犯人がパールの行方に絡んでる可能性も十分に高い」

「それはまぁ、確かに……」

「あはは!真面目なアメジストってなんかおかしー!」

「うるせえぞガキ!それで、それぞれの役割だが……」


 それからアメジストから他のクオリア達にそれぞれ役割が与えられた。

ちなみにアメジストがデカい顔をしているが、作戦はほとんどスティーブとライラが考えたものだ。

水を操るアクアマリンが単独で水中を哨戒、土を操るアンバーがサファイアと共に湖底の探索、飛行能力が高いオニキスとエメラルドが空中から広い範囲を警戒し、炎を使うルビーと電気を使うターコイズは水場という条件があって能力と相性が悪い為、沿岸部の警備という事になっている。

敵意を持つ何者かが湖に潜んでいるという事もあり、予定を前倒しにして今日は本腰を入れて湖を調べる事になった。


・・・


午前中の調査は問題なく進んだが、異変は昼過ぎに起こった。

なかなかの緊急事態だというのにアメジストは呑気に笑うばかりで、横に経過を見ていたライラの方が真っ当に慌てていた。


「ヒャハハハハハハハハハハハハハ!」

「笑ってる場合じゃないですよアメジストさん!何か対策を考えないと……でもどどど、どうすれば!?」

「まさか湖に配置した人形三万体……全部のコントロールを奪いやぁがるとはなァ!いいぜぇ、なかなか楽しくなってきやがったじゃねえか!!」

 

時は少し遡ってアメジストの人形が全てコントロール不能になる少し前の、まだ昼にもなっていないが朝というには少々遅い午前十時頃。

霧が出ている事が多く常に薄暗い不実の湖だが、今日は珍しく遠くまで見通せる快晴だった。

そんな日だというのにスティーブ・ジョーンズは拠点のキャンプに篭り、黙々と作業を進めていた。

彼がやっているのは別に大した作業ではなくて湖の各地から集められた土とか水の成分を分析したり、捕獲した生物を解剖したりして食物連鎖を調べたりと地味な調査だ。


「入るよ~?」


 仕事中のスティーブのコテージにライラが訪れた。

幸い昨晩の事はほとんど覚えていないそうで、体調も特に問題なく元気そうだった。

ライラの様子を見たスティーブは内心胸を撫で下ろした。


「ヨォ、センセイ!調子はどうだい?」


 ライラの背後からアメジストが顔を出した。

素行には問題があるが、スティーブの元へ多種多様大量の湖のサンプルを運んできてくれるのはアメジストの人形達だ。

となれば当然スティーブもアメジストを無下には出来ない……というかそれ以前にスティーブは不思議とアメジストの事が嫌ではなかった。


「やあ二人共、何かあったのかい?」

「そろそろコーヒーの時間かなって思って」

「俺ぁ、いい加減退屈でなぁ~」

「ははは、僕はこれで結構楽しいけどね……ちょっと休憩にしようか」


コーヒーを飲みながら適当に三人で談笑していると、湖の調査の話になった。


「調査といやぁよセンセイ、何かわかったかい?」

「そうだねぇ、推測の域を出ない事もあるけど……とりあえず湖の水から昨晩の幻覚を見せる霧と同じ成分が検出されたよ。でも昨日の霧は明らかに濃度が段違いに高かったし、タイミングも僕達を狙った様に感じるね」

「へぇ……それが調査隊の全滅の理由って事か」

「……まだ断言は出来ないけど、全くの無関係とも考えられない」


 スティーブはライラから受け取ったコーヒーを口に運び、ひと啜りしてから続けた。


「……それとこの湖、大型の捕食者が居ないんだよね」

「そういや昨晩の捜索の時もなぜかモッドに襲われなかったな……それが関係あんのか?」

「戦後から随分歪になっちゃったけど……基本的に生態系って上も下も支え合って成立してるのが普通なんだ。だから頂点だけが抜けちゃってるなんて事は普通はあり得ないんだよ」

「なるほどな、つまりコソコソと姿を見せねぇ天辺の捕食者が居るってか……ケッ!まわりくでえ真似をさせやがる!もっと派手に来てくれりゃあ、こっちの手間も省けるってのによ!」

「……まぁ、それはそれで大変なことになりそうだけどね」

「大丈夫大丈夫、俺等にまかせとけって!」

「うん、頼りにしてるよ」

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