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ハジマリノヒ  作者: うぐいす
幻想湖水伝
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幻想湖水伝16

 霧深い夜、湖の水に腰まで浸かりながら更なる深みへと歩を進めていたライラはスティーブの声に気が付いて振り返った。

ライラはやんわりとした笑顔でスティーブを見る。


「あ……スティーブ、これから私のお誕生日パーティを始めるのよ。一緒に行きましょう?」


 ライラの言葉を聞いてスティーブは凍り付いた。

何かの作用によってライラが幻覚状態にあるだろうという事はわかっていたが、今ライラが見ている幻覚は彼女にとって最悪なものだと確信したからだ。

『お誕生日会』というのはライラにとって両親と自身の言葉を失った一番のトラウマだ。

惨劇の後、ライラは幼馴染のスティーブの家の養子として引き取られたが本人の精神状態もあって、あれ以来一度もライラの誕生日にパーティを開いた事はない。


「よりによって……」


 スティーブが呟く。

悪辣な現状について、思わず悪態をついてしまった。

これからお誕生日パーティを始めると幸せそうに微笑む彼女に、目を覚ませと言わなきゃいけない。

それは同時に君の両親は既に殺されているという事実をライラに再認識させる事を意味する。

スティーブは深淵へ向かおうとするライラの身体を後ろから強く抱きしめた。


「しっかりしろライラ!!そっちに行っちゃダメだ!!!」

「………………」


 最初は突然抱きしめられた事に戸惑っていたライラだったが、スティーブの呼びかけによって目を覚ました。

しかし目を覚ましたライラはただ小さく肩を震わせるばかりに何も言わなかった。

長い沈黙の後、ようやく口を開いたライラは自分が見ていた幻覚の事を消え入りそうな声で話始めた。


「パパとママがね、こっちにおいでって私を呼んでたの……だからわたしは『あっち』の方が悪い夢だったんだと……『こっち』の方が本当なんだって思って……それで、それで……ッ!」


ライラの言葉をスティーブが遮った。


「もういいんだライラ……帰ろう」

「うん」


 スティーブはライラを陸まで連れて行くと、協力してくれたクオリア達に連絡を入れた。

元気が無いライラに代わってクオリア達に感謝を伝えながら皆でキャンプに戻ったが、スティーブの胸中は穏やかではなかった。

幻覚の原因がモッドであれヒトであれ、ライラをこんな目に遭わせた存在にはキッチリと落とし前を付けさせる事を誓ってベッドに入った。

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