幻想湖水伝14
不思議な事にエメラルドが風を起こして霧を吹き飛ばしても、霧はまるで意思を持っているかの様に音も無く蠢いて、何度も湖を覆ってしまう。
エメラルド自身も最初から一筋縄でいかないだろうとは思っていたが、自然と舌打ちしてしまう。
「チッ!気に入らねえな、コソコソ面倒な真似をしやがってよ」
エメラルドは性格的に卑怯者が大嫌いだ。
今エメラルドの機嫌がすこぶる悪いのは、今はその卑怯な方に付き合って対応しなければならない状況にある事だ。
「俺はここでこの鬱陶しい霧を吹き飛ばし続ける、捜索の方は任せてもいいか?」
クオリア・エメラルドの特殊能力は風を起こしたり操る事だ。
しかしその力は無意識に発動出来るものでは無い。
つまり『風を一定の強さで発生させ続けて霧の発生を抑える』為には意識を集中させる必要がある。
例えば物を持ち上げる事と、持ち続ける事は必要とされる能力が違うという事だ。
「水の中は私にまかせて~」
そう言ってアクアマリンは躊躇いなく真っ暗な水の中に飛び込んだ。
その様子を見ていたターコイズが言った。
「……大丈夫と分かっていても恐怖を感じずにはいられないね」
「えー?なんかいったー?」
水面からアクアマリンがちゃぷんと顔だけ出した。
それにターコイズが苦笑いしながら答えた。
「僕は昏い所で水に漬かるのが怖くてね……能力的にも相性があまり良くないし」
「あはは、大丈夫だよ~こっちはこのアクアマリンちゃんにおまかせあれ~」
そういってアクアマリンは水に潜って捜索を開始した。
その後を小型のボートに乗ったアメジストの人形数体が追いかける。
「念の為だ、クオリアの誰かがやられる可能性もある……監視目的でそれぞれに何体かつけとくぜ」
「ありがとうアメジスト…………むぅん!」
アンバーが気合を入れると地面が隆起してキャンプの周囲をぐるりと覆う防壁が形成された。
「じゃあ、スティーブ君はターコイズに任せるよ」
「了解した、しっかりとエスコートしよう」
スティーブはターコイズに質問した。
「エスコート?もしかしてターコイズさんはライラの位置を探知できるんですか?」
「いや、そういう訳じゃあないんだ……無線は持ってきたかね?」
「あ、はい」
「僕は無線から発信される電波を辿るのさ、流石に街中では混線しすぎてて難しいが……これだけ人気の無い場所なら電波の飛んだ方向を見る事が出来る」
真夜中のライラ捜索が始まった。




