幻想湖水伝12
急に前方に現れた灯りに目が眩み、ライラは反射的に顔の前に手を翳して光を遮った。
少しすると光に目が慣れたので明かりの方をよく見てみると光の中に人影が見える。
それを見たライラは少しホッとして声を掛けてみようとするが、何故か喉から声が出ない。
「…………っ???」
声が出なくなっている事に少し驚いたが明かりはライラからそれ程遠くない位置にある。
歩いて近づけさえすれば声が出なくとも、なんらかのコミュニケーションは可能な筈だ。
そう思ってライラは足を前に進める。
前に進んで明かりに近づくにつれ、光の中の人影もどんどん鮮明になっていった。
光の中の人影に見覚えがあったので最初は『一緒に調査に来たヒトかな』と思っていたのだが、光の中に居たヒトがハッキリとわかった瞬間、ライラは驚愕のあまり目を見開き、足を止めて、声は出せない状態にあってなお絶句した。
驚きと混乱でしばらく硬直していたライラは長い静寂の後、ようやくの思いでか細い声を絞り出した。
「パパ……ママ…………どう、して……?」
光の中に居たのはライラの両親だった。
二人は温かな笑顔でライラに手を振っている。
「今日はライラの八歳の誕生日じゃないか、皆向こうで待ってるよ……さあ、一緒に行こう」
久しぶりに聞いた、間違えようもない大好きなパパの声。
だがライラの顔には強い困惑の色が現れていて、今にも泣きそうになっている。
「でも……」
今度はライラにお菓子作りを教えてくれた優しいママがライラに語り掛ける。
「今年はとびっきりのプレゼントがあるのよ、きっと貴女も喜ぶわ……こっちに来て……」
大好きな二人の声……その筈なのに何故かライラは苦しそうに身をよじった。
「や、めて……」
「「ライラ……ライラ……」」
そんな筈はないのだ。
目の前に二人が現れる筈が無い、それは不可能な事なのだ。
なぜならそもそもライラの8歳の誕生日会は行われなかった。
7歳の誕生日会の時、政府高官だったライラの父親を狙ってテロリストが誕生日会を襲撃し、ライラの両親はその時にライラの目の前で殺されてしまった。
その時のショックで精神を病んだライラは失語症を発症し3年間部屋に閉じ籠って過ごしていた、だから実際に8歳の誕生日会は行われなかった。
見兼ねた様に今度は両親の方からゆっくりとライラに近づいて来た。
「い、いや……!!」
後ろに逃げようとしたライラだったが、身体が上手く動かずに転んでしまった。
気が付けばライラの身体は丁度8歳位の子供の頃まで戻ってしまっているではないか。
声も出せず、まともに動けない状態のライラに両親がゆっくりと近づいて行く。




