幻想湖水伝11
深夜、皆が寝静まった頃。
不実の湖には深い霧が出ており、人里離れた場所である筈なのに獣や鳥の声も無く、気味の悪い静寂が横たわっていた。
そんな中、キャンプの中からのっそりと外へ出てきた人影があった。
スティーブの助手、ライラだ。
「……………………」
トイレにでも起きたのかと思えば、しかしどうにも様子がおかしい。
寝ぼけ顔である事に不自然さは無いが、ふらふらと足元が覚束なく、そもそも安全の為トイレは外には設置していない。
ライラは何かに誘われる様に湖の方へと進んで行った。
歩きながらライラは昔の夢を見ていた。
小さい頃の夢、ライラ・ウェステンラの人生の大きな転機となったあの日の夢。
・・・
まだセカイが世界だった頃、裕福な家に生まれたライラ・ウェステンラは両親から愛されて育ち、何不自由なく暮らしていた。
「誕生日おめでとう!!」
その日はライラの7歳の誕生日だった。
祝福の言葉に続いてクラッカーが数回鳴って、彩りを添える。
一人娘の誕生パーティはささやかなもので、ライラの両親と幼馴染のジョーンズ一家が呼ばれていた。
「みんなありがとう!」
天真爛漫なライラの笑顔に皆頬が緩む。
ライラのママがキッチンから七本のろうそくが立ったケーキを持ってきた。
「このケーキ、ママと二人で作ったのよ!」
「うふふ……きっと皆喜んでくれるわ」
ちょっぴり得意げなライラの前にケーキが到着して、皆がライラは蠟燭の火を吹き消そうとした所で……『目が覚めた』
「あれ?ここは……?」
テントで寝ていた筈なのに気付けばライラは深い霧の中に居た。
あまりにも霧が濃すぎて周囲に何も見えない。
前も後ろもわからなくなり、進もうか戻ろうか迷っていると前方に明かりが見えた。




