幻想湖水伝10
アメジストの人形三百体が制御不能になって暴れたところで、強力なアブノーマリティとそれによって裏打ちされた高い戦闘力を持つクオリア達にとって大した障害にはならない。
よって暴走した人形達はクオリア達にあっという間に全部破壊された。
人形達が暴走した事よりも今問題なのは何者かがアメジストから人形のコントロールを奪ったという事実であり、その正体がわからない事には今後の調査にも支障を来たすだろう。
湖には深い霧が立ち込めており、人形のコントロールを奪った犯人の姿も見えない。
不用意な探索は危険という事で、二日目の捜索は早めに切り上げられ皆で話し合いを行う事になった。
その話し合いの中でルビーがアメジストに釘を刺す様に確認した。
「……もう一度確認するけど、本当にアンタのミスじゃないのね?」
「何度も言わせるんじゃねぇよ、俺様が人形の制御をしくじるなんて事ぁあり得ねえ……例えばだ、お前が自分の炎で火傷したって言ってる様なもんだぜ?」
「……チッ!わかったわよ、信じる」
ルビーが大人しくなると今度はアンバーが発言した。
「元々調査隊が行方不明になる様な場所だからね、もしかしたら今回の事も何か関係があるのかも知れないね」
「我々クオリアは戦闘こそ得意だが、こういった調査は門外漢だ。先ずは専門家の意見を聞こうじゃないか?」
そう言ってターコイズがスティーブの方を見た。
「私も決定的な証拠はまだ掴めて無いのですが……」
と前置きをして、スティーブは話し始めた。
「先ずはわかっている事から……皆さんに協力してもらって集めた湖の水や土のサンプルの中から、微量ではありますが幻覚を引き起こす成分が検出されました」
「幻覚?俺が幻覚にやられたかもしれねえって事か……」
「いえ、アメジストさんと一緒に居たライラの話ではアメジストさん本人には異常がなかったという事でしたので、その可能性は低いでしょうね」
スティーブは人形の制御を奪った原因について何か心当たりがありそうな口ぶりだったので、皆静かに次の言葉を待った。
「次に湖の各地点で電磁波の異常が確認されています……アメジストさん、人形の制御というのはもしかして電波の様なもので行っているのでは無いですか?」
「……へぇ、流石だな。ま、おおむねその通りだ。詳しくは俺の脳波だな」
「今回の暴走は人形達へ指令を伝える脳波が人形達に伝わる前に何かに干渉されて起こったものと考えられます」
「人形が暴走した時、人形そのものを物理的に外部から無理矢理乗っ取られたみてえな感触はなかった」
「納得出来る考えだと思います。少なくとも的外れではないかと……しかし対策出来るのでしょうか?アメジストの人形無しでの調査となると明日からの調査はかなり難航しそうですが……」
オニキスの発言に皆が黙り込む……サファイアは寝てるだけなのだが。
「それなら問題ねぇ、明日からは少しやり方を変えりゃいいだけだ」
沈黙を破ったのは他ならぬアメジスト本人だった。
「というと?」
「なあに、簡単な話よ……明日からは人形の数を十倍、つまり三万まで増やす……それを全部囮に使えばいい。それで湖全域を調べ回って、コントロールがおかしくなった場所を調べれば何かわかるかもしれねえ」
「それは……」
あまりのパワープレイの提案にスティーブは言葉を失ってしまった。
クオリア・アメジストが不敵に笑う。
「相手がヒトだろうがモッドだろうが関係ねぇ……ここは一つ、身の程知らずの敵さんに俺達『クオリア』がどういう存在なのか、思い知って頂こうじゃねぇか」




