幻想湖水伝9
「ヌッ!」
調査開始から二日目。
キャンプでだらしなく寛いでいるアメジストが突然奇声を上げた。
アメジストの声を聞いたライラがそれに反応する。
「あ、おつまみ無くなっちゃいました?」
なんとこのクオリア・アメジスト、他の皆が汗水たらして働いてる中で、一人だけダラダラと飲んだくれている。
厳密には彼もしっかり働いてはいるのだが、このザマを見ただけでは、とてもそうとは思えないだろう。
そしてそんな事を指摘したところでアメジストが素直に飲酒を辞めるとは思えないし、仕事は問題無く熟している為、皆黙認してはいる。
たまたまキャンプに戻ってきていたターコイズがその有り様を見て諦め半分、申し訳なさ半分といった様子でため息をついた。
「……すまないねミス・ライラ、貴女にこんな男の給仕の様な真似をさせてしまって」
「お気になさらないで下さいターコイズさん、アメジストさんの能力のおかげで皆助かっていますし、それに私も料理は好きですから」
「ありがとう、ミス・ライラ。貴女はとても素敵な方だ」
「いえ、そんな……」
そんな事はどうでもいいといった体でアメジストが二人の会話に割って入って来た。
「オーイ、聞いてくれ!」
露骨に辟易した態度を隠そうともしないままターコイズが答えた。
「……なんだ酔っ払い」
「湖の北東部に派遣していた人形の内の300体程度か……コントロールを何かに奪われた、制御不能になっちまってる」
「なんだと?一体どういう事だ?」
「それは俺にもわからんが……なんか居やがるんだろうなぁ」
「……まさかパールが?」
「その線も無くはねぇだろうが……アイツにこんな能力は無ぇだろ?」
「ふむ……」
ピリッとキャンプ内の緊張感が高まったところに、丁度連絡用の端末から呼び出し音が鳴った。
「もしもし?どうかしましたか?」
ライラが電話に出た瞬間に耳に飛び込んで来たのはルビーの怒鳴り声だった。
それは電話から離れているアメジストとターコイズにもハッキリと聞こえる程の喧しさだ。
ライラはたまらず電話を耳から遠ざける。
「アメジストのバカを出しなさい!!」
「ルビーさん、落ち着いてください!一体何があったんですか!?」
「アイツの人形が急に暴れだして私達を襲って来てるのよ!!!」
「さて……何が相手かは知らねえが、敵さんも動き出したらしいぜ?さて、そろそろマジで仕事するか……ちょっくら人形を増産してくるわ」
アメジストはテーブルの上の皿からトマトとチーズのマリネを一掴みすると、それをがぶりと豪快に一口で口に突っ込んでから、大儀そうに立ち上がった。
次にワインの瓶を持ち上げてそれをラッパ飲みして、強引にマリネを胃に流し込む。
酔いが回っているのか、立ち上がった瞬間に少しよろけた。
「おっとっと……ターコイズよぉ、お前も行った方がいいんじゃねえの?」
「言われるまでもない……お前はキャンプの周辺の守りを固めておけ」
「うぇーい」
言うや否やターコイズは稲妻の様なスピードで外へ駆け出し、それを追うようにしてアメジストが千鳥足でテントの外へ出て行った。




